27-3・禁断魔術~猿飛帰還?~見抜かれた偽装
-駅前のビジネスホテルの一室(里夢とは違うホテル)-
クロムはテーブルの上に、猿飛から奪った銀色メダルとYウォッチを置き、闇を増幅させる魔法陣を描く。
「指示は、銀色のメダルを使ってもう一暴れしろ・・・だけ。手段は自由。」
メダルをどう使うかはクロムの判断次第。当初は、マスクドウォーリアに変身をして、パワーアップの為に使おうと考えていた。だが、試しても変化は起きず、互換性が無いことに気付く。「こんな物の為に大魔会を離脱を決意したのか?」と嘆いたが後の祭りだ。
ならば、どう使うか?霊術や妖術の知識が無いクロムでも、銀色メダルに不快な物(怨念)が込められているのは把握できる。思案の末、銀色メダルの闇を増幅させ、妖怪や悪魔の類を憑かせようと立案した。
「・・・さて、どんなモンスターが育ってくれるかな?」
闇が育つには時間が掛かりそうだ。クロムは、同時進行で別の作戦を実行する為に、銀色メダルとYウォッチを残したまま退室する。
-翌日の夕方・YOUKAIミュージアム-
猿飛は未だに音信不通。報せを受けた砂影が、詳細を確認する為に訪れていた。昼間のうちに、文化会館や周辺は見て廻ったが、手掛かりになる物は見付けられなかった。今は、粉木と向かい合わせに事務所のソファー席に座って、コーヒーを飲んでいる。
「未だに信じられんわね。空吾が銀色メダルを盗み出いたなんて・・・。」
「あぁ・・・ワシもや。」
事務所の本棚の奧には、銀色メダルが盗み出された時と同じまま、穴の空いた金庫が鎮座をしている。
「25年前の銀メダル事件の習性を考えると・・・
いきなり、心が食い潰されて別人になる事ちゃ無かったわやちゃ。
皆、徐々に心を闇に染めていった。
あんたの弟子・日向信虎ちゃ、銀色メダルの所持期間が長かったがで、
本来の人格を取り戻せんくなった。」
「・・・そうやな。
猿飛は、銀色メダルを使用して別人になりよって、
音沙汰が無いとは考えにくいっちゅうこっちゃ。」
「つまり・・・考えたくはないけど、返り討ちに合うて死亡した。」
「やはり・・・オマンも、その結論になるか?」
「えぇ・・・そう考えるのがいっちゃん無理が無いわね。
でも、納得ちゃできん。もう一度、連絡を入れてみましょう。」
昨日から何度も試しているが、念の為に、粉木は猿飛の携帯に発信を、砂影は猿飛のYウォッチに通信を入れてみる。やはり、粉木の発信に対する応答は無い。受話器の向こうでは「この電話は電波の届かない~」を何度も連呼するだけだ。・・・だが。
〈ザザッ・・・ザザザッ・・・はい・・・ザザザッ・・・お久しぶ・・・・
ザザッ・・・・・・ですか?〉
砂影が猿飛のYウォッチに向けた通信に、反応があった。雑音に混ざって男の声が聞こえる。
「ん?空吾か!?無事なの!?」
〈ザザッ・・・ザザザッ・・・俺は・・・ザザザッ・・・久しぶ・・・・
ザザッ・・・ザァーッッッッ!〉
「空吾!?今どこに!?・・・ねぇっ!!」
通信は途絶えてしまった。男の声で反応があったが、雑音が多すぎて猿飛空吾なのかは解らない。
-駅前のビジネスホテルの一室-
部屋の借り主は外出中。真っ暗な部屋の中、テーブルの上に銀色メダルと、通信を報せて点灯をするYウォッチと並べて置かれている。
床には魔法陣が敷かれており、銀色メダルが反応をして闇が発している。そして、発せられる闇が作る真っ黒な人影が、銀色メダルを見下ろしている。
〈これは・・・誰にも・・・渡さ・・・ない〉
理性が有る人間とは思えない憎しみに満ちた眼と、醜く焼け爛れた頬。通信機の点滅が、真っ暗な人影を僅かに照らし出す。
-鎮守の森公園近くのビジネスホテル-
里夢が、クロムに呼び出されてフロントフロアに降りる。
「持って来たか?」
「私の大切なコレクションなんですから、渡したくないんだけど・・・。」
「そう言うな!任務遂行の為だ。」
「流石ね。もう思い付いたの?」
「あぁ、蛇の道は蛇って言うだろ。あのメダルは持ち主に任せる事にした。
今頃は、俺が借りた部屋の中で、ただでさえ手に負えない憎悪を、
更に増幅させているところだろうぜ。」
「へぇ~・・・興味深い結果になりそうね。」
里夢はクロムの発言に頷くと、1枚のメダルを差し出した。
「全く・・・つくづく、怖い女だぜ。」
クロムは、里夢から渡された物を受け取り、「必要以上の接点は持ちたくない」と言わんばかりに、足早にホテルから出て行く。
-直ぐ近くの河川敷-
クロムが地面に魔法陣を敷いて真ん中に里夢から貰ったメダルを置き、指で空中に「COPY」と書いて魔力を込めた。
「・・・悪趣味なコレクションだ。」
マスクドウォーリアが倒した悪魔をメダルに封印するように、夜野里夢は、狩った魂のうち、本人が価値を認めた物をメダルに封印してコレクションにする。彼女のコレクションに選ばれた魂は彼女の所有物となり、転生をすることも許されない。
「先ずは、どんな手を使ってでも、里夢の信頼を勝ち得て、汚名を返上する。」
クロムの目の前に在る物は、猿飛空吾の魂を封印したメダル。魔法陣とクロムの呪文に反応をして、メダルに鈍い光が灯る。クロムは‘完成’を確認すると、メダルを自らのAKURYOUウォッチに装填して再び呪文を唱えた。すると、Aウォッチから‘歪み’が出現をして、クロムの全身を覆う。
「クックックックック・・・成功だ。」
魔力で編まれた歪みはクロムを猿飛悟の姿に変え、生前の猿飛の色を整えていく。「COPY」とは、死者の姿を術者に映す魔術。彼等には、死者への冒涜を恥じる概念は無い。
「いつまでも、あの女の言うなりになるつもりはない。
必ず、寝首をかき、誰が無能で、誰が正しいのかを、思い知らせる。
それが、堀田達への餞だ。」
クロム(猿飛の姿)は、仲間達の遺品と成った『Og』と『Go』のメダルを眺めて、決意を固める。
-夜・YOUKAIミュージアム-
燕真&雅仁&粉木&砂影は、閉店直前に訪れた人物を見て眼を丸くした。猿飛が帰還をしたのだ。初対面の紅葉だけが、怪訝そうに眺めている。
「ただいまっす!心配かけてすまないっす!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4
「んぇ?誰??」
この問題児に対して、明確にするべき事案が山のようにある。特に、「猿飛は死亡したかもしれない」と考えていた粉木と砂影は、猿飛の帰還を受け入れることを戸惑ってしまう。
「今まで何処に行っとったのよ?」
「スミマセンっす!クロムとの戦いの最中に、携帯電話は壊れてしまったっす!
通信機も、チョット調子がおかしくて・・・」
「銀色メダルは持っとるんか!?」
「もちろんっす!勝手に持ち出してスミマセンでしたっす!」
猿飛は、ポケットから銀色メダルを取り出して頭を下げた。幾つかの疑問点や違和感はあるが、猿飛が無事で、銀色メダルが戻ったので、粉木達は安堵の溜息をもらした。
「なーん・・・人騒がせなんやさかい。どれだけ心配したて思うとるが?」
「まぁ、話はおいおい聞くとして・・・とりあえずご苦労やったな。何か飲むか?」
「はい、スミマセンっす!紅茶をお願いっす!」
「ホットでえぇか?」
皆が、身勝手な戦士の凱旋を受け入れる。だが、紅葉だけが、怪訝そうに猿飛を見詰めている。
「ねぇ・・・・・そのガィコクジンが助けに来てくれた人なの?」
「・・・・・・・・・・・え!?」
「なんで、そのガィコクジンゎ、体中に変なモヤモヤを着てるの?
それ、魔術ってヤツだっけ?
助っ人ガィコクジンゎ、まさっちやじいちゃんと違って、魔術が使ぇるんだ?」
「・・・外国人?」
「・・・魔術?」
「お、お嬢ちゃん・・・一体何を!?」
「ん?・・・ぁれ?もしかしたら、変装?姿、隠してんの?
腕にYウォッチ着けてるけど、首にも同じ様なの(Aウォッチ)着けてるね?
それゎ妖幻ファイターの新製品?燕真やまさっちは、もらってないの?」
紅葉の突飛な発言に店内が凍り付く。皆は猿飛と会話をしているつもりだが、紅葉だけは「皆は外国人と会話をしている」と言うのだ。しかも、紅葉に指摘されるまで気付かなかったが、その人物は、Yウォッチの他に、大魔会が持つAウォッチを所有している。
粉木と砂影は、紅葉の発言をにわかには信じられないが、「猿飛は返り討ちに合って死亡した」と言う想定と同じ答えになっている。「離反者が勝ち残り、魔術で自分達に何かの罠(紅葉曰く変装)を仕掛けている」と考えると、全ての辻褄が合ってしまう。
雅仁は「妖力を探すクセ」をリセットして、自然体な視線で猿飛を見る。すると、「外国人」には見えないが、猿飛の姿が揺らいで見える。そして揺らぎはAウォッチの周りが最も濃い。
「コイツ・・・猿飛さんではありません!」
退治屋達は、それまでの安堵に満ちていた表情を曇らせ、猿飛に対して構える!
「勘平・・・一体、この娘ちゃ?」
「前に言ったやろう。ちと霊感があって、退治屋を手伝うとる娘や。」
「本当に『ちと』なのかしらね?
お嬢さん、アナタが見えとる物・・・もうちょっこし詳しゅう教えて!」
「ん~~~~~・・・さっきから、ガィコクジンに変なモヤモヤが着ぃてぃるのに、
じぃちゃんも、ぉばぁちゃんも、全然、不思議に思ってなぃの。
猿飛って人って、日本人の名前なのに、ガィコクジンなの?」
クロム(猿飛の姿)は、粉木達以上に動揺をしていた。猿飛の姿を借りた自分と、闇を増幅させた銀色メダルは、退治屋の懐に潜り込めるはずだった。あとは、銀色メダルの闇が退治屋のアジトで暴走をする手はずだった。しかし、一発で、偽物だとバレてしまった。
「ま・・・まさか」
文架市に来てから、同じ経験は何度もしてきた。「退治屋や里夢を完璧に出し抜ける」と思われた作戦は、不確定要素に崩され続けた。クロムは、その正体をようやく把握する。
「・・・こんな、小娘が!?」
初めてYOUKAIミュージアムを襲撃した日、襲撃直前のワンボックスカー内で、店から出て自転車で帰宅する女子高生達を眺めていた。堀田は冗談半分に「あの娘達がいる時に襲撃した方が面白そうなのだ」と言ったが、クロムは「部外者を巻き込んだら、あとが面倒だ」と反論した。
だが「あの娘」は部外者ではなかった!それどころか、自分達の作戦を崩壊させる中核にいた!初襲撃のあの日、「あの娘」を部外者と判断した瞬間から、全ての作戦は破綻をする運命にあったのだ!
「くそっ!」
クロム(猿飛の姿)は、テーブルの上の銀色メダルを握り締め、素早く踵を返して、店の出入り口に向かって逃走を図る!しかし、既に燕真が扉の前に立って構えていた!挟むようにして、クロム(猿飛の姿)の背後には雅仁が立つ!
「俺には紅葉の言ってることがよく解らないんだけどさ・・・。
オマエが俺達を騙してたってのは決定なんだろ!?」
「この一件が落ち着いたら、紅葉ちゃんに弟子入りしなきゃならないようだな。」
猿飛ではない事がバレた以上、魔力を消耗して猿飛の姿を維持する理由は無い。クロムは観念して擬態魔術を解き、本来の姿に戻る。
「オマエだって命懸けで猿飛のオッサンと戦ったってのは解らなくもない!!
だけど・・・最悪だな!!」
「外道め!!鬼ですら、人の生前を弄ぶ卑劣な行為などしないっ!!」
燕真&雅仁、クロムは、同時にメダルを翳して、それぞれのバックルに装填!
「幻装っ!!」×2 「マスクドチェンジ!!」
妖幻ファイターザムシード&ガルダ、そしてマスクドウォーリア・スプリガン登場!戦場を駐車場に移して激突をする!
「空吾・・・オマエほどの男が。」
砂影が寂しそうに呟く。敵が猿飛の所有物を持っていた以上、猿飛が返り討ちに合って命を落としたのは明白だろう。悲しい出来事だが受け入れるしか無い。
「お嬢さん、ちょっこし話をさせてもらえんかしら?」
戦いを見届ける為に店から出ようとした紅葉を、砂影が呼び止めた。
「・・・・・ん?」
「勘平・・・もう一度聞くわ。この娘ちゃ一体?
ちょっこし手伝うとる部外者・・・で済む才能ではなささんまいけね?」
「ワシは今まで退治屋をやってきて、お嬢ほど突出した才能を見た事があらへん。
逸材と言われた‘信虎’すら、お嬢の足下にも及ばんやろな。」
「なんで、曖昧な報告しかしてくれなんだの?」
「迷っとるからや。
本部がお嬢の才能を知れば、是が非でも退治屋に入れようとするやろ?
彼女の才能は、ソレほどに飛び抜けておる。」
「可能性ちゃ高いわね。」
「せやけど、ソレで良いんか?ワシにはそれが解らんのや。
狗塚や里夢ちゃんは、幼い頃から退治屋しか選べんかったけど、
本当にソレで良かったんか?
信虎もそうや。ずっと退治屋に育てられたさかい、他が見えんくなってもうた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
砂影は粉木から視線を外し、キョトンとした表情の紅葉を見詰める。粉木の言い分は痛いほど理解できる為、言葉を返せない。




