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27-2・猿飛と里夢の情事~打上のカラオケ

「・・・ど、どういう事だ?」


 スプリガンは、アサシンの死刑執行を呆然と眺めていた。何故、セイテンが殺されたのか?次に自分も処刑されるのか?何がなんだか解らない。


「取引よ。」


 リリスは、死体となって変身が解除された猿飛のYウォッチから銀色のメダルを抜いて、回収をしたオーガとゴブリンのメダルと一緒にスプリガンに差し出す。


「銀色のメダルを使ってもう一暴れしてくれるなら、

 クロム君の命を見逃し、堀田君達のメダルをあげるわよ。

 アナタは、私の指示で、堀田君達の離反に参加するフリをして、

 彼等と退治屋が衝突をするように仕向けた。

 アナタは組織を裏切ってはいない。

 もちろん、この男(猿飛)を殺害したのはアナタ。

 ・・・条件は、これでどうかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好条件過ぎて気味が悪いな!」

「応じるないなら、予定通りアナタを処刑するだけ。

 だけど、総帥と私は、アナタの能力は高く評価しているのよ。」


 リリスは選択肢を与えているが、スプリガンからすれば選択の余地など無い。


「わ、解った・・・。だが、この退治屋(猿飛)は一体?」

「あら?頭の良いアナタならば、だいたいの想像はできると思うんだけど・・・。

 彼を手駒にするつもりだったけど、余計な事をしてくれたので処刑をしたの。

 でも、そのお陰で、アナタは殺されずに済むんだから、彼に感謝しなきゃよね」


 スプリガンは、猿飛の死体をしばらく眺めたあと、徐に口を開いた。


「・・・チャーム(魅了)か?」

「フフフッ・・・正解よ。流石はクロム君ね。

 せっかく、愛してあげたのに、こんなに使えないとは思わなかったわ。」

「好き者めっ!」

「あら?任務遂行の手段と言ってもらえないかしら?」




***昨日・文架市と鈴梅市の境界付近にあるホテル**************


 曇ガラスで、ベッドルームからは何となく人影が見える浴室で、里夢がシャワーを浴びていた。

 ベッドには猿飛の姿がある。ビジネスホテルから出た2人は、「退治屋と大魔会の関係者に接触を見られない」為に、町外れのコテージ風の一室に間借りをしていた。


 美しくなった里夢は、猿飛の興味を大いに惹いた。猿飛は、「彼女が、退治屋に残ってくれたらどんなに良かっただろう?」と嘆いた。

 会って話をするまで、肉体関係を結ぶ邪な思いは一切無かった。だが、人目を気にせずに済む場所での会話は、徐々に猿飛の強固な意志を崩す。美しい里夢の表情は、猿飛の情を動かした。


 猿飛は「退治屋に戻ってこい」と提案をした。里夢は「そうしたいが、大魔会の私には、そんな選択肢は無い」と拒否をした。里夢の眼には涙が浮かんでいた。猿飛は「俺が守る」「退治屋本部にも俺は取り為す」と言い切り、里夢を抱きしめた。里夢は一切抵抗をしなかったので、猿飛は、里夢の心を開いたと判断した。


 もうその先は止まれなかった。猿飛に身を任せ、恥じらいながら受け入れる里夢の仕草が、彼女の演技と疑うことなく。




 ベッドの上の猿飛は、眼が虚ろで、表情に精気は無い。

 魅了の魔術で判断力を鈍らせ、肉体を結んで警戒心を解き、魂に魔力の楔を打ち込んで使魔にする。

 美しい顔と魅力的な体をに恵まれた里夢の得意魔術であり、魔女が男を支配する一般的な手段だ。里夢は、自分の肉体を「手軽に使える武器」としか思っていない。


 魔術師同士なら、男は魔女を警戒して、魔力か干渉する状況下で身を重ねるような‘自殺行為’はしない。雅仁のように、魂の防御に優れ、常に他人を警戒し、一線を引くタイプの者は、術に掛かりにくい。裏を返せば、どんなに強い男でも、警戒さえ解いてしまえば、魂に侵入できる。

 先日、里夢は、燕真に同じことを仕掛けようとした。燕真を支配下に置き、文架市の退治屋の懐に飛び込むつもりだった。

 だが、燕真より格上の猿飛には成功した魅了は、何故か、燕真には通じなかった。


「ふふっ・・・やはり、私の魔力が衰えたわけではなかった。」


 妖術や霊術の類と一緒で、里夢の魅了魔術は、霊力ゼロの燕真には一切干渉せず、燕真は里夢の色気に鼻の下を伸ばして動揺していただけなのだが、里夢は彼の特異体質(?)を知らない。


「佐波木燕真・・・唯一、私の魅了を退けた特殊な男・・・

 とても興味深い存在ね。」


 里夢は、浴室を出てバスローブを羽織ると、髪にタオルを巻ながら、放心状態の猿飛を見下ろした。


「文架市の退治屋と合流をしたら、銀色メダルの所在を確かめなさい。

 そして、機会を見て、アナタの犯行をバレないように奪いなさい。

 どんな物か見て見たいの。」

「・・・はいっす。」



 エンゲージキッス(魂約の口吻)の効果を発動させた後、「幸せそうな女の表情」を作り、ベッドの上にいる猿飛に掌を翳し、小声で呪文を唱えてから指を弾き鳴らした。途端に、猿飛は普段の表情に戻る。猿飛の目の前では里夢が微笑んでいる。


「空吾さん」

「・・・里夢ちゃん」


 顔を寄せて、ウインクをする里夢。魂を支配した状態にもかかわらず、周囲の人間どころか、本人すら支配されたことを気付けない。次に里夢が魔力を込めた指示を送るまで、猿飛空吾は日常通りのままなのだ。


**************************************


 里夢は、猿飛の意志を支配して銀色メダルを盗ませ、その罪を堀田達に被せ、あとは猿飛を使魔として使役するつもりだった。

 だが、「勝つ為に銀色メダルを使う」という余計なことをしてくれたので、もう要らなくなった。


「何をすれば良い?」

「ザムシード・・・佐波木燕真君。彼の底が知りたいの。

 派手に暴れて、燕真君の潜在能力を引っ張り出してもらえないかしら?」

「・・・ん?優等生(雅仁)ではなく、素人(燕真)の方か?」

「そうよ。彼にはチョット興味があるのよね。」

「フ、フン・・・だったら、コイツ(猿飛)のように、

 お得意のチャームで手駒にすりゃ良いだろうに?」

「できなかったから、次の手を考えたのよ。」

「なるほどな・・・理解をした。」


 クロムには、「佐波木燕真が、夜野里夢の女のプライドを傷付けたから、目の仇にしている」のか、「何か眼を見張るような潜在能力を秘めている」のか、それは解らない。だが、戦力が増強され、今までと同じように退治屋に喧嘩を売るだけで、アサシンの処刑リストから外れるなら、これ程良い条件は無い。


「これでもうアナタは、追われる立場ではないわ。

 堂々とホテルに宿泊ができるけど、私の部屋に来るかしら?」

「い、いや・・・やめておく」

「そう、それは残念ね。ふふふっ。」


 里夢とクロムの間で取引は成立をした。里夢は「用済み」として魂を切り捨てられた骸には、一片の興味も示さずに立ち去る。

 一方のクロムは、「自分が殺された」ことを理解できずに骸と化した「里夢の幼なじみ」を眺めて「里夢の恐ろしさ」を感じながら、亡骸の処理をする。




-夕方・YOUKAIミュージアム-


 燕真と雅仁が、猿飛の捜索から戻ってきた。店に入って粉木と視線を合わせると、「未だに連絡は付かない」と粉木が首を横に振る。持ち出された銀色メダルの所在も不明のままだ。


「なぁ、爺さん、アイツ(猿飛)って、どんな奴なんだ?

 信用できるヤツなんだろ?」

「あぁ・・・ガキの頃から本部で学んどる。人格、実績共に、信頼できるヤツや。」

「俺は就学時代に、砂影さんの指示で何度か猿飛さんの任務をサポートした。

 お調子者な一面はあるが、技術には間違いは無かった。」


 返り討ちに合ったとは思いたくないが、銀色メダルに心を支配されて正気を失ったとも考えたくない。落とし処のない気持ちが店内を支配する。


「だったらなんで・・・勝手に銀色メダルを?」

「・・・解らん。」

「勝手なタイプではなかったはずですが・・・。」

「アイツ、オマエ(狗塚)が追っ掛けるのを邪魔したよな?何であんなことを?」

「・・・解らん。」

「実績を独り占めするタイプではなかったはずだが・・・。」


 会話のキャッチボールは続かない。文化会館を守り抜いて、オーガを倒したのは大金星だ。「よくやった」と互いの健闘を称え合いたいが、猿飛の行動と、行方が解らなくなったことは、賞賛の気持ちを無い物にしていた。


「本部から、何か特別な指示でも出ていたのでしょうか?」

「・・・解らん。」

「何がどうなっているんだ?」


 店内の静寂を掻き消すかのように、燕真のスマホが着信音を鳴らす。ディスプレイに表示された発信者は紅葉だ。


「どうした?」

〈燕真、今、暇?〉

「暇じゃない!」

〈吹奏楽部のコンクールの打ち上げで、みんなと、カラォケに来てるの!

 駅前のところっ!燕真もぉぃでっ!〉

「人の話聞いてたか?暇じゃない!

 だいたい、オマエ、吹奏楽部じゃねーだろ!?」

〈ぅん、違うよ。でも、亜美や永遠輝もいるから大丈夫!〉

「尚更行きたくないって!」

〈まさっちもぃる?美希が『連れて来ぃ』って!ぢゃ、待ってるからね~~!〉

「お、おいっ!」


 相変わらずと言えばそれまでなのだが、通話は一方的に切られてしまった。


「なんや、燕真?お嬢、なんやて?」

「カラオケに来いって。狗塚も一緒に。」

「・・・俺も?何故!?」

「紅葉の友達のご指名だ。行きたきゃ行ってきな。俺は行かね~けど。」

「燕真、狗塚、店番はワシがしとるさかい、遠慮せんと行って来や!」

「行かないよ!」

「流石に今の状況では・・・」  

「いや、こんな状況だからこそや。

 答えが出んのに悶々としとっても仕方があるまい。」

「・・・だ、だけど」

「気分転換は必要や。

 勘の良いお嬢に、今の状況を勘付かれん為にも、気持ち切り替えて相手して来い。

 幸か不幸か、此処にはもう銀色メダルはあらへん。

 此処を防衛する必要は無いんや。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真と雅仁は、粉木によって、半ば強制的に店から追い出されてカラオケ店へと向かう。




-駅前のカラオケ店-


 店内には、スキーイベントに参加をしたメンバーがいたが、肝心の行照(吹奏楽部)の姿が無い。


「あれ?大石君は?」

「行照ゎ、吹奏楽部のみんなで打ち上げしていて、

 あとで抜け出して、ァタシ達のところに顔を出してくれるってさ。」

「は?吹奏楽部抜きで吹奏楽部の打ち上げやってんのか?」

「ぇん、そう!」

「意味が解らん。」


 燕真の歌唱力が及第点だったり、雅仁がプロ並みに上手くて美希を魅了したり燕真&永遠輝をムカ付かせ、3時間後には解散と成った。


「ねぇ、燕真?」

「・・・・・・・・・ん?」

「何か有った?燕真もまさっちも、無理に元気にしてるょぅに見えるょ。

 悪ぃ奴やっつけるの、大成功ぢゃなかったの?」

「・・・えっ!?」

「燕真ゎ全部ぎこちなぃし、

 まさっちゎ、いつもゎもっと根暗なのに、今日ゎヤケにテンション高ぃし・・・」

「ぎこちない・・・かな?」

「・・・いつもはもっと根暗?」


 流石は、「勘の良いお嬢」だ。勘付かれない為にカラオケに参加したのに、もう勘付かれてしまった。雅仁は、「根暗」扱いされて、チョット落ち込んでいる。


「まさっちが、いつも以上に根暗になってるけど、やっぱり何かぁったの?」

「ソレはオマエの所為だ!

 クールとか温和しいとか・・・もう少し優しい表現をしてやれ!」


 変に誤魔化しても紅葉には通用しないようだ。燕真と雅仁は、近くの公園にバイクを駐めて、「残る1人には逃げられた」「援軍が行方不明」「銀色メダルが持ち出された」を説明した。


「そっか・・・ぁのメダル、持ってかれちゃったんだ?だぃぶヤバィかもね。」

「・・・やっぱ、ヤバイかな?

 じいさんが言ってたもんな。使用者の心を闇に落とすって・・・」

「ん~~~~~~・・・ソレもぁるんだけど、もっと違うヤバィだょ。」

「どういうことだ?」

「ぅん、上手く言えなぃけど、

 メダルの中にいた‘じぃちゃんを大っキライな怨念’がヤバィの!

 ァレゎ、妖怪を育てる念とゎ全然違ぅょ!」


 紅葉の説明は、雅仁も気付いていることなのだろうか?燕真は雅仁を見つめて解答を求める。


「あぁ、紅葉ちゃんの言う通り、あのメダルに込められた憎しみは凄まじい。

 尤も、変な表現だが、危険すぎて、むしろ安全と言うべきか・・・

 紅葉ちゃんがあのメダルを嫌がるように、

 妖怪すら敬遠するから、憑かれる心配は無い。」

「一緒にするなっ!ァタシゎ妖怪ぢゃなぁ~~ぃっ!!」

「そ、そう言う意味で言ったわけではない!」


 事態は何も好転をしていないのだが、紅葉を見て、燕真と雅仁は幾分かは気持ちを和ませる。無理矢理、カラオケに参加させられて、「悩む」ばかりではなく、前向きな気持ちを作り始めていた。

 今後どうなるのかは、まだ見当も付かない。だが、彼等は「目の前に在る安穏を守る為に戦う」と改めて心に誓った。


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