26-3・猿飛着任~警戒態勢~戦闘開始
-約1時間後-
ヘロヘロになった紅葉を、燕真がマンションに送り届ける。先日と違って、立つことすらできないので、母親の案内で、背負ったまま紅葉の部屋まで運んで、ベッドに寝かせた。紅葉の部屋に入るのは初めてだが、ジックリと観察をして年頃の女の子の趣味を楽しむ余裕なんて無い。
「あ・・・あの・・・俺はこれで。」
「お疲れ様。」
紅葉の母親が見送ってくれるが、どう見られているのかを想像するのが怖くて、眼を合わせられない。有紀が妖幻ファイターハーゲンだった頃の話を聞きたいが、話が脱線して「娘をどう思っている?」なんて聞かれたら、どう解答すれば良いのか解らない。キスすらしていないのに責任を取らされそうだ。昼間の「里夢との行動」を見られていたら、背中を滅多刺しにされても文句は言えない。もう、生きた心地がしない。
「じゃあ・・・失礼します。」
文化会館に張られた魔方陣のうち、1/10程度は封じ込めた。氷柱女は、「これで、大魔法陣が発動してもまともに機能しないだろう」と言って、山に帰った。できることは全てやった。きっと明日は、紅葉はベッドから這い出ることすらできないんじゃないかな?
-YOUKAIミュージアム-
燕真と粉木が帰宅すると、夜にも関わらず、事務所に客が訪れていた。本部から派遣された猿飛空吾だ。
「相変わらず生真面目というか、物静かっすね?
本部で学んでいた時のまんまっすよ!
もう少しパリッと元気良くできないっすか!?」
「い・・・いや・・・俺は。」
「今の話、他の奴にすれば、もっとウケるのになぁ~~!にゃっはっはっはっは!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
猿飛の話し相手(ほぼ会話の一方通行)をしていた雅仁が、珍しく‘助けを求める眼’を粉木と燕真に向ける。妖怪退治ではイニシアチブを発揮するが、人間関係は上手く対処をできない雅仁らしい対応だ。
猿飛は退治屋組織内でもトップクラスの「お喋り好き&他人を弄るのが好き」だ。基本的に必要事項以外はあまり話さない雅仁とは、性格的に全く合わない。
「おぉ!粉木さん、お久しぶりっす!
この店、いつの間にか喫茶店になっていたんすね!」
「おぉ、来おったか猿飛!頼りにしてんで!」
「君が佐波木っすか?噂は聞いてるっすよ!
退治屋有史以来の、最も才能が無くて根性だけの奴っすね!
うん、その顔からして才能は無さそうだ!」
「それ、誰からの情報だよ?
ジジイ、コイツ、誰だ?蹴飛ばして良いか?」
「まぁ、そう言うなや。悪い奴じゃあれへん。
本部付けの猿飛空吾。オマンからすれば、大先輩の現役退治屋や。」
「よろしくっす!」
猿飛が笑顔で握手を求めてきたので、燕真は渋々と応じる。
文架市の退治屋に新戦力が加わったので、粉木は改めて現状を整理して説明する。猿飛は真面目な表情になって現状把握をして、粉木の話が一段落したところで、事前に仕入れた情報と自分の考えを話し始めた。
「なるほど、場所は文化会館。狙いは学生の集まりっすか。
『普段は人が居ないけど、何かの機会に大勢集まる場所を探すべき』と、
里夢ちゃんも言ってたっす。
だいたい、予想通りっすね。」
「なんや、オマン?夜野里夢と会うたんか?」
「はい。互いに不可侵ですが顔見知りですし、今回は利害が一致してるっすからね。
此処に来る前に、彼女が言える範囲で、知っている事を聞いてきたっす。」
「・・・まぁ、オマンらしい合理的で無駄の無い行動やな。
オマンが加われば、若い奴等(燕真&狗塚)には良い刺激になるのかもしれん。」
「・・・会話は無駄だらけだけどな。」
行動に無駄が多い燕真や、プライドが高くて人を頼ろうとしない雅仁とは違い、猿飛は可能な範囲で最短のルートを選択する。粉木は、以前から、彼の合理性を評価していた。
「・・・で、今後の方針は?
俺は、襲撃時期と場所が解っているなら、
防衛を強化して、離反者を待つべきと思うっす。
目立った動きをして、奴等に作戦変更をされては、
いつ終決をするのか解らなくなるっすからね。」
「言えてるな!いい加減、奴等の動きに惑わされるのは、飽きてきた!」
「・・・俺も、猿飛さんに同意します。
リスクのある作戦ですが、防衛をできる自信はあります。
それに、離反者は、こちらの戦力が増強されたことを知らず、
戦力的には自分達が有利と考えているはずです。
慢心する奴等を待ち伏せて、
こちらの戦力を把握をされる前に総力で叩くべきです。」
「猿飛のオッサンの実力は解らないけど、オマエの自信には期待してるぜ、狗塚!」
「俺の実力だって期待して良いっすよ!」
「よっしゃ!それで行こう!みんな、頼んだで!!」
4人の退治屋は、互いの眼を見合わせて力強く頷き合う。
「作戦が決まったところで粉木さん・・・1個質問、良いっすか?」
「ん?なんや、猿飛?」
「例の銀色のメダル・・・本棚の後ろっすよね?」
「な、なんやオマン?藪から棒に?砂影に聞いたんかい?」
「いえいえ、勝手な想像っす。
昔から粉木さんて、大事な物はいつも小難しい本が並んでいる本棚に隠すから、
どうせ、また同じだろうな~っと思ったっすよ。
今回は、銀色メダル防衛も兼ねているっすからね。
俺だって、所在を知っておくべきと思ったっすよ。」
「なんだ、ジジイ?
昔から、見付けられたくない物は『とりあえず本棚の後ろ』なのか?
思春期少年の、赤点のテストやエロ本を隠すのと同レベルなんだな?」
「・・・エロ本と一緒にすんなや。」
こうして、決戦前夜の一日は幕を閉じる。
重要な作戦会議が終わった後、燕真が言った「赤点のテスト」&「エロ本」から、猿飛が話を広げ、凄まじく無駄な議論(と言うか猿飛の独演会)が3時間ほど続いた。燕真は最初は話し相手になっていたが、だんだん嫌になって後半はひたすら聞き役になり、粉木はいつの間にかソファーで眠っており、雅仁に至っては気が付いたら事務所内からいなかった。
「それでな、聞いてるか?佐波木!
そいつの母ちゃんは、テストの赤点の事で怒っていたのに、
探したらエロ本が出るわ出るわで・・・」
「赤点の説教どころではなくなったんだろ!?さっき聞いたよっ!!
あ~~~~~~~~~~~眠い。この話、いつまで続ける気なんだ?
・・・てか、しれっと逃げた狗がムカ付く!」
この男と紅葉が組んだら、72時間くらい延々と休みなく喋り続けそうだ。絶対に会わせたくない。
-翌朝・文架文化会館-
各校の演奏出演者達が、楽器の入ったケースを持って会館前に集まる。その集団に紅葉の友人・大石行照の姿もある。
「イケテル、ガンバ!」
「緊張しないようにね!」
「応援してるね。」
「サンキュー!」
緊張気味の友人を、応援に来た紅葉&亜美&優花が和ませる。美希や永遠輝達は、開演直前に来るつもりらしい。昨日の調子では、今日は紅葉は一日中床に伏せると思われたが、寝て起きたらスッカリと元気になっていた。
燕真は、紅葉達の近くで話を聞き流しながら、不審人物を注意深く探っている。やがて、「演奏者は入って下さい」と案内があり、行照は楽器ケースを担いで、紅葉&亜美&優花に手を振って、他の吹奏楽部員と一緒に館内に入っていった。
「アイツ、吹奏楽部だったんだ?
もう片方(永遠輝)と比べて器用に見えるから、楽器とか似合いそうだな。」
「んっ!イケテルゎ中学の時から楽器やってるんだよ。」
雅仁と粉木は、一足先に会館内に入って各部屋を入念に見て回る。言うまでもなく、身を隠せそうな場所はいくらでもある。やはり、捜し廻るよりも、待ち伏せた方が確実だ。2人は最初に確認をした演奏会場(大ホール)に戻り、慌ただしく準備が進められている周囲を見回してから、雅仁が床に手を置く。
広いが密閉されており、雅仁が霊力を充満させるには充分な場所だ。
「仕掛けます。」
「ああ、頼む。この会場の守りは、オマン次第や。」
会館の外では、猿飛が歩いて周辺のパトロールをしていた。会館に入るには、正面と裏の入り口の他に、通用口が2つと、物品搬入の車両用シャッターが1つ。
霊術視点で考えれば、結界の中心にいなくても、結界の中にさえいれば端っこでも発動は可能だ。同じ解釈をすれば、魔法陣の発動をさせる為に、離反者が建物内に侵入をする必要はない。
「奴等は、会場が開いて客席がいっぱいになるまでは姿を見せないだろうな。」
-9:00・開場-
燕真は紅葉に「違和感があったら直ぐに連絡しろ」と言って、会場内に入る紅葉達を見送り、1人で正面入り口に残る。すると、周辺パトロールをしていた猿飛が寄ってきた。
「今のところ異常なしっす!」
「こっちも、不審者は発見できず!
まぁ、奴等は、魔法陣さえ発動してしまえば、
俺達が何をしようと関係無いと考えてんだろうな。」
「正々堂々と正面から来て、魔法陣を発動させて、
中身をゴッソリいただくつもりっすね。
手はず通り、俺は裏、佐波木は表・・・良いっすね!」
当初計画通りに、猿飛は裏口に廻る為に去っていく。
猿飛が足早に歩いていると、派手なスーツを着て凜とした表情をして美女が、会館の壁に背を凭せ掛けて猿飛を見詰めていた。夜野里夢だ。猿飛は軽く手を振って挨拶をしてから、里夢に近付いた。
「おはよう、空吾さん。朝から慌ただしいわね。」
「大魔会さんのお陰様でね。
へぇ~・・・ビジネスモードになると随分雰囲気が変わるっすね。
だけど、里夢ちゃん。君が此処にいるのはちょっとマズイかな?
離反者にバレたら、作戦を変更しかねないっすよ。」
「フフフッ・・・言われなくても解っているわよ。
出番が来るまでは、会場で客に混ざって演奏を聞きながら、
空吾さん達の健闘を祈らせてもらうわね。」
「そうしてもらえるとありがたいっす!じゃ、またあとで!」
里夢は軽く会釈をして猿飛から離れ、猿飛は所定の裏ゲートに向かう。
-9:30・大ホール-
防音扉が閉められ、外の喧騒と会場内の静寂が扉によって分けられる。ステージでは、オープニングを担当する文架北中の吹奏楽部が配置され、指揮者が壇上に立った。
「紅葉、ダメだよ。」
「・・・ぅん。」
外の様子が気になって、何度か燕真にLINEメッセージをしていた紅葉が、亜美に注意をされて着信音をマナーモードに切り替える。
-9:45・正面入口-
正面入り口、燕真の眼前に堀田が現れた!
「奴だけ・・・?もう1人は(クロム)は裏か?」
「どうやって、俺達の犯行が此処だと突き止めた?里夢の入れ知恵?
いや、違うな、あの女の使魔は、学校は偵察していたが此処にはいなかった!
そうなると・・・とぼけたジジイ(粉木)か、ムカ付く優等生(狗塚)の案か!?
まぁ、いい・・・銀色メダルを持って来たか!?」
「渡す気は無い!!」
「ならば、退治屋共々生贄にするだけだ!
メイン料理前の前菜くらいにはしてやる!」
「ザコ扱いしやがって!前菜で腹を壊しても後悔すんなよ!!」
構える燕真と堀田!互いの専用アイテムからメダルを抜いて、ベルトのバックルに装填!
「幻装っ!!」 「マスクドチェンジ!!」
妖幻ファイターザムシード、及び、マスクドウォーリア・オーガ登場!ザムシードは妖刀ホエマルを召還して構える!オーガは両刃の大斧=デモンアックス・オルグ(ポール全長2m・ブレード幅1m)を、片手で軽々と振るってから、肩で担ぐように構える!睨み合い、互いに突進をする!
-同時刻・裏面入口-
睨み合う猿飛とクロム。一瞬戸惑ったクロムだが、直ぐに冷静さを取り戻す。
「見慣れない顔だな・・・オマエも退治屋か?」
「猿飛空吾っす!以後、お見知りおきをっ!!
尤も・・・オマエ等に‘以後’は無いっすけどね!!」
「確かにな。・・・今から死ぬオマエの顔や名など、覚える価値も無い!」
構える猿飛とクロム!互いの専用アイテムからメダルを引き抜いて、ベルトのバックルに装填!
「幻装っ!!」 「マスクドチェンジ!!」
妖幻ファイターセイテン、及び、マスクドウォーリア・スプリガン登場!セイテンは、専用武器・如意棒を両手でバトンのようにクルクルと回して操り、背に預けるようにして構える!一方のスプリガンは、懐中時計型のアイテム=AKURYOUウォッチからメダルを抜いて間合いを計る!
-同時刻・大ホール-
「来たっ!」
妖幻ファイターの妖力解放と、マスクドウォーリアの魔力解放を同時に感じ取った紅葉が、隣の座席に座っていた粉木の腕を引っ張る。粉木と、その隣に座っていた雅仁も、妖力解放を把握していた。
「狗塚、直ぐに行けるか?」
「もちろんです!いつでも行けるように、霊力は体内で練り込んでありますよ!」
彼等の座る位置は、大ホールの、ほぼど真ん中に位置している。雅仁は、足下に銀塊を置き、前屈みになったまま印を結んで小声で呪文を呟き、銀塊に込められた霊力を押し出した!
「オーン。結界発動。」
途端に、雅仁の足下にある銀塊から霊力が解放され、大ホールの端端に事前に仕掛けておいた護符と結び付き、大ホール全体を結界が包んだ!
オープニング演奏が終わり、会場が拍手に包まれる。演奏の合間だけが移動のチャンスになる。雅仁と粉木は、席を立ち、「ァタシも!」とつられて立ち上がろうとする紅葉を諫め、足早に通路を進んで大ホールから飛び出した!
「粉木さん、小ホールはお願いします!」
「任せとき!オマンはどっちに向かうんや!?」
「佐波木の方に行きます!」
「頼んだで!」
「はいっ!今度こそ、決着を付けます!!」
これで、魔法陣が張られたとしても、大ホールは、しばらくは結界力で持ち堪えられる。だが、控え室になっている小ホールで順番を待つ学生達は、まだ防御結界の外側にいる。彼等も守らなければならない!
粉木は小ホールへ、雅仁はザムシードを援護する為に正面入口へと向かった!




