43-4・カリナ敗北~魍紅葉の武器~天逆毎出現~天野の遺言
「里夢、オマエは少し休んでいろ。」
ギガントは、リリスが一対一の戦いには向かないことを把握している。だが、それ以上に、リリス(里夢)の性格が真っ向勝負には向いていない。悪魔召喚をザムシード戦で効果的に使えば、もっと有利に戦えただろう。しかし、リリスは、まるで、自分のスキルを誇示するかのように、早い段階で悪魔召喚の手札を晒してしまったのだ。ギガントは、リリスの戦士としての限界を感じていた。
「退治屋が鬼の保護か?随分と甘い組織だな!」
「こんなことやってたら、確実にクビだろうな!だけど、覚悟の上だ!」
幾度かの刃と鎚頭のぶつけ合いの後、数歩後退をして体勢を立て直すザムシードとギガント。ザムシードは軽く痺れた手を開いて握り握力を確認する。ギガントとの直接対峙は初めて。雅仁から聞いた情報通り、真っ向勝負ならば、大魔会の3人で最も警戒しなければならない相手のようだ。
「この戦いは、大魔会の必然ではないだろうに!なのに何故、戦う!?」
「確かに必然ではない!
だが、退治屋を逸脱して鬼を庇うオマエに批難をされる筋合いも無い!」
「俺には、退治屋を逸脱してでも、やりたいことが有るんだ!」
握力の回復を実感したザムシードは、水晶メダルをベルトのバックルに装填!EXザムシードにパワーアップをして、妖刀の柄に『閃』メダル、ブーツに『炎』メダルを装填して、ギガントに突進をする!
その光景を、3本の矢が刺さった状態の茨城童子が眺めていた。
「フン!腹立たしいが、退治屋の若造には借りができたようだな。」
ギガントのマークから外れてフリーになった茨城童子が、矢の発射地点を睨み付ける。射程外から「狙った時点で貫通が決定する因果逆転の矢」を射てくるハーピーは、100m先の大木の枝の上だ。
「目障りな弓使いには、この舞台から永久に退場してもらう!」
闇霧化をして飛び上がり、ハーピーへと向かう茨城童子!対するハーピーは、次矢を装填して、鏃を向かってくる闇雲に向ける!
「バーカ!狙った時点で回避不能って、まだ解らないのか?」
射られた魔力矢が闇霧に着弾!強制的に実体化をさせられ、肩に矢の突き刺さった茨城童子が出現をする!僅かに失速するものの、茨城童子は、痛みを無視してハーピーに向かって飛び続ける!その距離は80m!ハーピーは次の矢を番えて放った!
「ぐぅぅっっ!!まだまだぁっ!!」
矢は‘飛ぶ’行程を省略して、茨城童子の腹に突き刺さる!しかし、茨城童子は、怯むこと無く飛び続ける!
「バカかオマエは!?」
「この程度の矢、刺さることを前提にすれば、凌げる!」
「何だ、コイツ!?」
ハーピーと茨城童子の距離は70m。茨城童子の気迫に気圧されたハーピーは、退避を考えたが、「矢が飛んでこないこと」を察知された時点で、闇霧化をした茨城童子に追い付かれてしまうだろう。接近戦では分が悪い。それよりも、踏み止まって、距離が詰められるまで、矢を浴びせ続ける方が、確実にダメージを与えられる。
「だったら、アタイの所に辿り着く前に、ハチの巣にしてやるよ!」
間の距離は60m、ハーピーの射た魔力矢が、茨城童子を貫く!距離は40m、ハーピーの魔力矢が、茨城童子に突き刺さる!距離は20m、ハーピーの矢が、茨城童子に命中する!
「テメェ!いい加減に落ちろっ!気持ち悪いんだよっっ!!」
茨城童子は、自分の頭の角に手を添えてヘシ折った!角は、込められていた妖気を放出して、蒼玉の剣に変化をする!
「此処まで距離を詰めれば、貴様には何もできまいっ!!」
次の矢は間に合わないと判断したハーピーは、枝を蹴って後ろに飛びながら、弓を横薙いで茨城童子を牽制!追い付いた茨城童子は、蒼玉剣を振るってハーピーに弓を叩き落とし、立て続けに刺突を放った!蒼玉剣の切っ先が、ハーピーに突き刺さる!しかし、ハーピーは後退をしている為、ダメージは浅い!
「フン!テメーはハチの巣!アタイは、掠り傷程度の痛み!
覚悟の特攻をしたワリには、お粗末だったな!」
「・・・貴様の命運は尽きた!」
茨城童子が欲したのは、剣で深手を負わせることではなく、蒼玉が突き刺さったという事実。蒼玉剣に込められた妖気が、ハーピーに流れ込む!
「な、なにぃ!?これはっ!・・・うわぁぁっっっっ!!」
誇り高い茨城童子にとって、鬼の象徴たる角を折ることは屈辱以外の何物でもない。だが、忠誠の為、主に勝利をもたらす為ならば、自身の誇りなど些末。
「貴様は、私の脅威を愚かな人間共に知らしめる‘物言わぬ語り部’となる。」
奥義・蒼玉結晶発動!ハーピーの体内に流れ込んだ妖気が、ハーピーの全身から強制的に発せられて、蒼い結晶と化す!やがて、硬質化はハーピーの自由を奪い、意識も奪い、蒼玉の塊に閉じ込められたハーピーが地面に落ちた!
「厄介な狙撃手は排除した。」
茨城童子は、闇霧化をして戦場の中心に戻り、魍紅葉の前に立って、キマイラに対して構える。
「奇怪な獣など、私にお任せ下さい!
姫様は、御自身の気持ちの赴くままに、御自身のやるべきことを!」
「んっ!アリガト、茨城ドージ!」
戦場を眺める魍紅葉。無力化させられた妖幻ファイター(茂部)&ヘイシ達は、突っ立って戦況を眺めているだけ。召喚された悪魔のうち、コボルト・オーガ・スプリガン・ゴブリンは倒され、今は、茨城童子&天邪鬼&復活妖怪とキマイラが対峙をしている。ハーピーは倒され、リリスとギガントはEXザムシードと拮抗状態。
「燕真・・・そんなんで、ァタシに恩を売ったつもり?」
自分がやるべきことは決まっている。ザムシードには「イライラさせたら殺す」と言ったのに、ヒーロー気取りな台詞でイライラさせられた。家来になるなら許してあげようと思ったが、上から目線ばかりで、家来になるつもりは無さそうだ。
「すっげームカ付く!」
ザムシードは、Yメダルを使って、何も無い空中に武器を出現させることが可能。イメージの具現化ができるの魍紅葉ならば、イメージした武器の召喚も可能だろうか?
試しに、ザムシードが武器を召喚する姿を想像しながら、武器をイメージしてみる。すると、魍紅葉の左手に闇が蓄積をされていく。
「んへへっ!ァタシ、すげーぢゃん!」
EXザムシードを睨み付ける魍紅葉。EXザムシードは、光の刃を伸ばした妖刀と炎を纏った蹴りを駆使して、ギガント&リリスと戦っている。
「大魔会と潰し合いをする気は無い!倒された子を連れて退け!」
「我らにも、やられたままでは収まらないプライドがある!
退いて汚名を重ねるつもりは無い!」
EXザムシードは光刃の妖刀でリリスを退け、ギガントの体勢を崩し、炎を纏った蹴りを叩き込む!
「退治屋の戦闘能力を、我らより下と認識したのが誤りだった。
我が最大の奥義にて、反省の証とする。」
ギガントは、サイクロプスハンマーの柄に、『Sa』メダルを装填!サラマンダーの能力が付加されて、鎚頭が灼熱の光球と化した!EXザムシードは、これまでとは違う危険性を感じて構える!2人が、互いに向かって突進をしながら武器を振りかぶったその時!
「燕真っ!ムカ付くから消えてっっ!!」
魍紅葉が召喚した弓を構えて妖力を込めた矢を番え、EXザムシード目掛けて射た!反射的に仰向けに倒れて回避するEXザムシード!矢はギガントが振り下ろした大鎚に着弾!妖気の爆発が発生して、ギガントを弾き飛ばし、仰向けに地に伏してしまったEXザムシードは逃げ場を失い、爆風の直撃を受けてしまう!
「うわぁぁっっっっっっっ!!!」
悲鳴を上げるEXザムシード!地面にメリ込み、爆風が収まった直後に、変身が強制解除をされる。
「・・・く、紅葉っ!」
燕真は、辛うじて立ち上がって魍紅葉に駆け寄ろうとしたが、体中が悲鳴を上げ、脱力をして片膝を付いた。
「ふんっ!下等な人間如きが、馴れ馴れしく姫様に話し掛けるな!」
茨城童子は、飛び掛かってきたキマイラの口の中に拳を突っ込んだ!そして、押し込んだ手でキマイラの体内を掴み、もう片方の手で、キマイラの顎を掴み、力任せに引き裂いた!
「姫様(魍紅葉)は、貴様等の知る小娘(紅葉)と同一ではない!」
引き千切ったキマイラの肉塊を放り出し、燕真の視界から魍紅葉を遮るように立つ茨城童子。全身が傷だらけで、腕が千切れかけた痛々しい状況だが、「主がザムシードを倒した祝い」に比べれば、些末な問題だ。
「退治屋と大魔会・・・
誰かが、酒呑(魍紅葉)を倒してくれるかと期待したんだけど無理みたいね。」
上空の声に反応して見上げる燕真&魍紅葉&茨城童子。
「ぬぅぅ・・・やはり貴様はっ!」
それまで傍観を決め込んでいた秘書・迫天音が、空中に浮かんで、戦場を見下ろしている。
「結界破壊の贄になるのは茨城童子でも良かったのにね。
反逆者(燕真)と狙撃手は敗北。
死神と闘士は逃げ腰。」
指摘をされたリリスとギガントは、悔しそうに迫を見上げている。妖幻ファイター(茂部)&ヘイシ達は、相変わらず突っ立って眺めているだけ。
「面白い戦いだったけど、終わってみれば、勝ち残ったのは酒呑一派。
何奴も此奴も使い物にならなくて、ガッカリさせられたわね。」
迫天音の全身から妖気が発せられて闇に包まれ、中から、獣顔で背に黒い翼のある和装の女妖怪=天逆毎が出現!腕を上げ、天に向けて人差し指を翳すと、上空に闇が集まって黒雲を形成する!
「贄も、役立たずも、纏めて消えなさい。・・・雷槍っ!!」
天逆毎が気合いを発した途端に、上空の黒雲から公園内の戦場に向かって、無数の雷が降り注ぐ!
「まずいっ!紅葉っ!!」 「姫様っっ!!」
魍紅葉を庇うべく、懸命に駆けながら魍紅葉に手を伸ばす燕真!しかし、手が届く前に、闇霧化をした茨城童子が魍紅葉を包んで、その場から退避をする!
「くそっ!紅葉っ!!」
「エンマ君!生身のオヌシは、他人の心配をしている余裕など無いはずじゃ!」
「天野の爺さんっ!」
闇霧化をした天邪鬼が、燕真を包んだ!茨城童子ほど速くは飛べないが、幾つも降り注ぐ雷を潜り抜けながら、どうにか公園から脱出をする!
「チィ・・・逃げられたか。大技すぎるのも考え物ね。」
宙に浮かぶ天逆毎の真下の地上には、リリスとギガントの姿も無い。状況を理解できなかった(迫を味方と信じて疑わなかった)為に逃げなかった妖幻ファイター(茂部)&ヘイシ達の残骸だけが転がっている。
-文架大橋西詰-
橋の取付道路を上がる雅仁&佑芽&麻由の正面に、闇霧が着地。雅仁達はバイクから降りて構えるが、闇霧の中からは燕真が吐き出された。
「佐波木!」 「佐波木さん!」 「紅葉さんとは接触できたんですか?」
尋ねられた燕真は、疲れた表情で俯く。
「接触はできた・・・でも、紅葉に負けた。」
魍紅葉の攻撃の爆風を浴びただけで、変身が強制解除をされてしまった。武器で矢を受けたギガントも戦闘継続は不可能になった。もし、矢の直撃を受けていたら、どうなっていた?魍紅葉が燕真を殺すつもりで攻撃を仕掛けたのは、覆しようのない事実だ。
悔しそうに拳を握り締める燕真。雅仁達は、僅かな言葉と仕草で「事態は好転しないどころか悪化している」と悟り、それ以上は何も聞けなくなる。
「エンマ君の、その中途半端な気持ちでは、魍紅葉ちゃんには届かんよ。」
「・・・なに?」
燕真は、天邪鬼の言葉に神経を逆立てられる。どれだけ紅葉のことを大切の思っているのか、解りもしないのに口を挟んで欲しくない。振り返って、命の恩人を睨み付けようとして、燕真は目を見開く。
「天野・・・さん?」
実体化をした天邪鬼は、全身が風穴だらけ。至る所から闇が湯気のように上がっている。
「副首領(茨城童子)は上手く逃げたのだろうがな・・・
わし程度の小者妖怪では、天逆毎の術を回避するなんて不可能じゃ。」
「なら、何でサッサと逃げずに俺を助けたっ!?」
燕真に見詰められた天邪鬼は、笑みを浮かべて燕真を見つめ返す。
「期待しているからに決まっているじゃろう。
わしはな・・・魍紅葉ちゃんや、副首領の前では言えなかったが、
鬼王の魍紅葉ちゃんではなく、人間の紅葉ちゃんが好きなんじゃ。
紅葉ちゃんの笑顔を・・・取り戻してくれ。」
「解ってる!俺だって、そのつもりだ!でも、できなかったっ!
どうしたら良いのか解らない!」
悔しそうに視線を下げる燕真。天邪鬼は、燕真の肩に蒸発中の手を乗せる。
「エンマ君・・・獅子奮迅の戦いをした副首領を、どう見た?」
「・・・茨城童子の戦い?」
「憎むべき存在だろうが、君は見習わねばならんぞ。
見て解るだろう。彼の、魍紅葉ちゃんへの忠節は絶対的じゃ。
君の紅葉ちゃんへの気持ちよりも、彼の魍紅葉ちゃんへの忠誠心の方が強い。
君よりも副首領の方が、魍紅葉ちゃんを必要としている。
君は、気持ちで副首領に負けている。
『手の掛かる妹分』などという感情を、魍紅葉ちゃんは求めていない。
中途半端な気持ちでは、魍紅葉ちゃんには届かない。」
「・・・・・・・・・」
「魍紅葉ちゃんを討伐して退治屋の責務を果たすのか?
もっと別の答えに辿り着くのか?あとは、君が決めること。」
顔を上げて頷く燕真。天邪鬼から上がる闇の湯気は、天邪鬼の表情を隠すほどに強まっており、消滅寸前と示している。
「最後に一つ・・・魍紅葉ちゃんは、まだ、他者の命で手を汚していない。
そうならぬように、わしが阻止をした。だから・・・まだ、戻れる。」
言い終えた天邪鬼は、自身の希望を託して、燕真&雅仁&佑芽&麻由に見取られながら消滅をする。




