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43-1・希望の出撃~亜美と魍紅葉

  紅葉を救い出して、大武COOの裏の顔を暴く。やるべき方針は最初から決まっている。


「紅葉ちゃんと大武COO、どちらとの接触を優先させる?」

「紅葉との接触だ。罪を重ねる前にアイツを止める。」

「佐波木さんらしい考え方だね。」

「でも、どうやって紅葉さんに辿り着くのですか?

 私達が存在感をアピールすれば、紅葉さんから寄ってくるでしょうけど、

 それでは、粉木さん達まで集めてしまいますよね?」


 真っ向からぶつかったら、たった4人の抵抗勢力など何も為せずに全滅するだろう。数日前までは同僚だった退治屋の隊員達との争いは避けたい。


「紅葉ちゃん達と退治屋の動きを見て、間隙を突くしかあるまい。

 退治屋の行動ならば、ある程度は予測できるからな。」

「解るの、雅仁先生?」

「無論だ。俺は、何の見通しも無いまま動くほど愚かではない。」

「・・・・・・・・・・・・・」×3


 燕真、佑芽、麻由は、「何の見通しも無いまま動く」つもりだったので恥ずかしそうに閉息してしまう。


「退治屋は、文架に張られている3つの結界を防衛する為の布陣をするだろうな。」

「結界?そう言えば、粉木のジイさんも、そんなことを言ってたな。」

「ただの結界ではない。

 地獄界から文架・・・いや、人間界を守る為の結界と言っても過言ではない。」

「なんで文架に、そんなもんが?」


 雅仁は、「日本の何処かに地獄と隣り合わせの一地域がある」という伝承と、「文架市が該当をする可能性」を説明する。「何故、文架に?」と聞かれても、ある物は仕方が無い。


「昨日、優麗高の結界が破壊されただろう。

 その影響で、文架の市街地を覆う妖気が強まり、

 残る3結界が干渉して、存在が露わになったんだ。」


 亜弥賀神社(鎮守の森公園)と文架駅西口に、優麗高で破壊された物と同質の結界基点があり、且つ、山頭野川の東側河川敷に補助の結界が設置されている。粉木や退治屋が、燕真を「ただの指示無視」ではなく「反逆者」として扱ったのは、優麗高の結界破壊に関与した疑いを掛けられているからだ。


「俺じゃねーよ!結界は牛鬼がっ!」

「その牛鬼が退治屋の幹部だから、ややこしいことになっているんだ。

 本部のエリートと、上の指示に従わない地方の未熟者、

 どちらの信頼度が高いのか・・・考えなくても解るだろう。」


 結界を破壊したのは、燕真や紅葉ではなく牛鬼。だが、それを証明できる者はいない。


「退治屋は、三結界の防衛、破壊された優麗高の結界修復、

 そして、紅葉ちゃんや、俺達(反逆者)の討伐隊に人員を割くことになる。

 つまり、今日明日中に、昨日以上の隊員が、文架市に集まるということだ。」

「さすがに、相手にしてらんねーな。」


 大前提として、討伐隊との交戦は避けるべき。必然的に、少数ゆえの身軽さを生かして、身を隠しながらピンポイントで目標のみを狙う作戦で決まる。


「紅葉さんは『こんな世界は要らない、無くなれば良い』と言っていました。」

「・・・ってことは、紅葉ちゃんは結界の破壊を狙うってこと?」

「可能性はある。」

「紅葉と接触するなら、紅葉が結界破壊に動き出した時ってことか。」


 紅葉達が、最初にどの結界を狙うかは解らない。だから、動きを見せるまでは息を潜め、「いつでも、どの結界にも行ける状態」を維持する方針で決まった。


「大武COOと組んだ大魔会にも警戒しなきゃだな。」

「殺害対象は、雅仁先生と紅葉ちゃん。

 私と麻由ちゃんと佐波木さんは捕獲対象みたいだね。」


 麻由を連れていくのは危険だが、退治屋の捕獲対象ではないので、退治屋から危害を加えられる可能性は少ない。目を離して里夢に奪われるよりは、行動を共にして守った方が幾分かはマシだろう。


「とりあえず、3結界の中間点くらいで、身を隠して待機だな。

  ・・・と言いたいところだが、先ずは腹ごしらえだ。

 確実に体力勝負になるからな。」

「おなか減っちゃった。」

「・・・実は私も。」

「やれやれ、緊張感の無い連中だな。だが、自然体がベストだ。」


 昨夜は、皆が落ち込んでおり、味を楽しむ余裕も無く、少量を夕食を胃に押し込むだけだった。


「では、私が近所のコンビニで買ってきますね。」

「俺も行こう。」 「私も行くよ。」

「指名手配犯の佐波木さんや根古さんは、不必要に人前に出ない方が良いのでは?」

「指名手配はさせれてねー!」×2


 反論はしたが何処で元同僚に見られるか解らないので、麻由に甘えて買い出しを頼み、燕真&雅仁&佑芽は部屋で待つことにした。昨日の「優麗高生徒の集団暴走事件」はニュースになっているのだろうか?確認の為にテレビの電源を入れ、燕真&雅仁&佑芽は言葉を失う。


「おいおい」 「これは?」 「マジで?」


 数分後、買い出しを終えた麻由が戻って来ると、燕真達は食い入るようにテレビを見詰めていた。画面には、東京の明治神宮付近にあるビルが半壊した様子が映し出されている。


「物騒ですね。何かの事件ですか?」

「多分・・・妖怪の襲撃だ。」


 半壊をしたのは退治屋の本社ビル。常に戦闘のプロが警備をしているので、通り魔的な犯行で被害が出る可能性は低い。つまり、退治屋を目の敵にする‘人智を越えた抵抗勢力’以外には不可能な犯行だ。


「主力が文架市に来て、手薄に成ったタイミングを狙われたか?」

「私達の逆襲・・・などと解釈されないでしょうか?」


 麻由が、何気なく‘最悪の仮説’を口にする。冗談でも聞きたくない仮説だが、麻由が冗談を言うタイプではないことは、この場の全員が知っている。そして、逃亡したまま行方不明になった自分達が容疑者にされる可能性は、ゼロではない。


「状況は悪くなる一方か。」

「待った無しってことだ。」


 せっかく買ってきてもらった朝食だが、楽しみながら食べる余裕は無くなった。


「さぁ、行くぞ!」


 腹ごしらえを終えた4人は、気合いを入れて出動をする。




-文架市・優麗高-


 規制線で封鎖をされており、優麗高は一時的に退治屋の基地と化していた。駐車場は退治屋の専用車で占領され、グラウンドには幾つものテントが張られている。上層部から政治家への根回しでマスコミには圧力が掛かっており、事件現場の中継に集まってくる者はいない。


「全く、文架支部の若造が、とんでもないことをしてくれたな!」

「ブン殴ってやりたいよ!どんなアホ面してんだ!?」


 中庭では、牛鬼が破壊した(退治屋は、ザムシード&魍紅葉が破壊したと思っている)封印結界の再設置をする為に、本部からサポート班が収集されて任務にあたっているが、現時点の進捗は「調査の結果、非常に高度な結界」と把握できただけ。復旧には、かなりの時間が必要だ。


「おい、聞いたか?本部が何者かに襲撃されたらしいぞ。」

「昨日の深夜。俺等が此処(文架市)に向かってる最中だ。」

「反逆者達(燕真や雅仁)の犯行って噂もあるらしいぜ。」


 退治屋本部の襲撃事件は、隊員達の間で噂になっていた。想像以上に事態は切迫しているのかもしれない。皆、不安を隠しきれないが、与えられた任務に専念をする。


 校舎脇には、仮本部として学校から借りた集合用パイプテントが立てられ、屋根の下では、大武剛が寄せられてくる情報の精査をしていた。


「俺が離れた隙を突いて、本社を襲撃したか・・・。

 さすがは我が宿敵。残りカスのクセにしぶとい。」


 可能ならば、大ごとにせずに、魍紅葉を贄にして酒呑一派を葬り、野望を前進させたかった。だが、酒呑(魍紅葉)が復活をして、鬼の幹部達が揃ったとしても何も問題は無い。むしろ、酒呑一派を利用すれば、野望の達成が早まる。


「A班、B班、C班、全て配置完了です。」


 頼れる腹心達が所定の配置に付いた。あとは、酒呑一派が挑発に乗って引っ掛かるのを待つのみ。


「承知した。皆に、厳戒態勢の維持を伝えてくれ。」


 報告を受けた大武は、返事をしてから紙カップのコーヒーを飲んだ。1人だけ、ホテルの一室で情報を聞き流しながら悠然と高みの見物をするのではなく、皆と同じ場所で不自由を分かち合う。これも、現場の士気を高めるには有効な手段だ。




-亜美(紅葉の友人)の家-


 ベッド脇の布団で、紅葉が眠っている。



 鬼女・魍紅葉に太刀が突き立てられている。鬼姫は眼に涙を浮かべ、苦しそうな表情で刀を突き立てた者を見る。魍紅葉にトドメを刺したのは、鎧で身を包んだ武者・源満仲。魍紅葉が愛した源氏の頭領・源経基が、魍紅葉とは別の女に産ませた子だ。


「な・・・なぜ・・・ぢゃ?ヮラヮゎ、人として生きたかっただけなのにぃ・・・。

 ィヤだ・・・浄化されたくない・・・暗ぃ冥界にゎ帰りたくない・・・

 この世にぃたぃ・・・。」


 武者は、鬼姫に突き立てた刀に力を込め、刀身を更に深く押し込んだ!鬼姫は全身の力を失って満仲にもたれ掛かる。そして、何度も「人として生きたぃ」「この世にぃたぃ」と繰り返しながら、実体を失い、霧散して消えた。



「ふん!イヤな夢。」


 覚醒後の初夢は最悪。夢の中で過去の記憶を見た紅葉が、目を覚まして不満そうな表情で起き上がった。


「おはよう、クレハ。」


 生徒集団暴走事件(牛鬼事件)の翌日なので、今日は調査の為に休校。先に起床した亜美が、ベッドに座ってスマホを弄っていた。


「おはよ、アミ。」


 紅葉に「人間ではない自覚」はあるが、他の鬼達と一緒に野宿をする気にはなれなかった。だが、母が戻っているかもしれない家に帰宅をするワケにはいかず、少ない所持金ではホテルに泊まることもできず、深夜に亜美に連絡を入れて、「ママと喧嘩をして家には帰りたくない」と説明をして泊めてもらったのだ。

 亜美は、トレードマークのツインテールを結わえていない‘ロングヘアの紅葉’に「いつもと雰囲気が違う」と違和感を感じつつ、受け入れてくれた。


「ちゃんと帰って、お母さんと仲直りしてね。」


 いつもの‘お泊まり会’ならば、亜美が「もう寝よう」と言っても、紅葉は「寝る時間が勿体ない」と、いつまでも遊んだりガールズトークを望んで、全然寝てくれない。だが、昨夜は、生徒集団暴走事件(牛鬼事件)に巻き込まれた亜美の調子を気遣って、二~三言の会話をしただけ。亜美は、「紅葉の雰囲気がいつもと違う」と感じたが、「母と大喧嘩をして機嫌が悪い」と判断して、あまり多くを聞かなかった。


「・・・ぅん。」


 紅葉は、一応は返事をするが、母親と仲直りをする気は無い。


「泊めてくれてアリガトね。ァタシ、行くね。」

「えっ?もう行くの?」

「ぅん。ァタシ、やること、いっぱいあるから。」


 紅葉は亜美の部屋が2階にあるにもかかわらず、窓を開けて飛び出した。


「ちょっ・・・クレハっ!」


 慌てて窓に駆け寄って顔を出す亜美。軽々と地面に着地をした紅葉(魍紅葉)は、先程までとは違って、煌びやかな和装で、頭には角が生えている。


「みんなっ!いくよっ!」


 魍紅葉(紅葉)の呼び掛けに応じて、付近で野宿をしていた茨城童子&熊童子&星熊童子&虎熊童子&天邪鬼、そして昨日の本部襲撃後に復活をした金熊童子が集まって跪く。窓から眺めている亜美には、そのうちの1人が、見覚えのある先生に見えた。


「えっ?えっ?クレハに角?一緒に居るのは伊原木先生?

 どうなっているの、クレハ!?」


 呼ばれて振り返った魍紅葉が、小さく笑みを浮かべる。幼馴染みを巻き込むつもりは無い。


「アミゎイイ子だから、生き残れるようにしてあげるね。」

「な、なんのこと?」

「文架市にイヤな奴がいっぱい集まってるの。今日ゎ、おうちから出ないでね。」

「ク、クレハっ!!」


 魍紅葉は人間とは思えない跳躍力で向かいの民家の屋根に飛び上がり、更にジャンプをして隣の4階建てビルの屋上に上がった。鬼の力に覚醒した魍紅葉には、優麗高にあった結界と同じ物が、市街地に3ヶ所ほど立ち上がっているのがハッキリと解る。


「アレを全部ブッ壊すと、地獄と繋がるんだねぇ。」


 熊童子&星熊童子&虎熊童子&天邪鬼は闇霧化をして飛び上がり、屋上で周辺の景色を眺める魍紅葉の周りに着地をした。

 茨城童子だけが残り、冷たい目で亜美をチラ見する。




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