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Ⅳ-4・爺と再会~雅仁とYウォッチ~就職活動

-放課後-


「・・・おいおい。」


 自転車で帰宅途中の燕真は、横断歩道の向こう側で、大荷物を背負って両手も荷物で塞がった腰の曲がったジジイ2人が、信号待ちをしているのを発見した。


「2人同時かよ?さすがに背負えんぞ。」


 燕真は、「帰路を変えようか?」と思ったが、ジジイ共がこちらに手を振っているので、観念して横断歩道を渡り、自転車を駐車しながら話しかける。


「久しぶりだな。最近見なかったから、引っ越したと思ってたよ。

 おばさん(孫娘)と悪ガキ(曾孫)共は元気か?」

「買い物をしすぎて運べなくなって、困っていたんじゃ。」

「運べなくなるほど1度に買うな!少しは学習をして、大荷物は孫娘に頼めよ。」

「家まで送る届けてくれるのか?いつも、すまないな。」

「誰も、運んでやるなんて言ってねー!」


 さすがに2人分の荷物を抱えて、ジジイ2人を背負って歩くのは不可能なので、ジジイには歩いてもらい、大荷物だけを預かった燕真がヨタヨタと歩く。ジジイに歩調を合わせながら、町を一つ越え、千段の階段に到着。荷物の重さで引っ繰り返りそうに成りながら、足を踏ん張らせて、ようやく上まで登った。


「鍵を開けてくれ。荷物は居間に運べば良いのか?」


 玄関戸に手を掛けるが、鍵が閉まっていたので、振り返って解錠の催促をする燕真。しかし、ジジイ2人は居なかった。


「おいおい、階段の途中で行き倒れてねーだろうな?」


 心配になった燕真は、荷物を玄関前に置いて千段を駆け降りる。すると、ジジイ共は最下段で腰を降ろして待っていた。


「心配したぞ!何でそんなところに居るんだよ!?」

「上まで背負ってもらう為に待っていた。」

「少しくらい自力で登る努力をしろよ!」

「荷物はどうした?」

「家の前に置いてきた!」

「愚か者!家の前に放置したら、盗人に持って行かれてしまう!」

「千段を登って荷物を盗みに来る奴なんていねーよ!」

「ならん!急げっ!」


 あまりにも荷物の心配ばかりするので、ジジイ1号を背負って千段を駆け上がる。玄関の鍵を開けてもらい、ジジイ1号と荷物を押し込み、「自力で登る努力」を全くしてくれそうにないジジイ2号を迎えに最下段へ。案の定、一歩も動くこと無く、最下段で腰を降ろして待っていたので、背負ってフラフラになりながら三度目の千段を登る。


「・・・若造。儂等はオマエのことが気に入った。」


 背負われながら、ジジイが話しかけてくる。


「・・・はぁ?急になんだよ?」

「高校卒業後の就職先は決まっているのか?」

「何の話?」

「文架市にあるYOUKAIミュージアムを訪ねろ。

 オマエの天職は、其所に用意してある。」

「いや・・・あの・・・

 コネを使って就職の面倒を見てくれるのは嬉しいんだけどさ・・・。

 俺、4年制大学を志望しているんだよな。」

「・・・なに?どういう事だ?」

「どういうこともなにも、進学するから、

 まだ就職は考えていないってことなんだけど・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんかゴメン。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 半年後、燕真は、県外の浪埜なみの大学に合格をする。司録と司命の予定は、ちょっと狂っちゃった。閻魔大王は粉木に「数ヶ月のうちに、『閻』メダルの適正使用者が、オマエの前に現れる」と言ったが、季節が2つ通り過ぎて春になっても、粉木の前には、そんなヤツは現れなかった。



 ただし、この時点では、退治屋側の準備も整っていない。

 東東京支部の妖怪退治課では、2課長、兼、開発アドバイザーの砂影が、電話越しに粉木と喧嘩腰なヤリトリをしている。


「勘平!このメダルちゃ、いったい何なの!?」

〈前にも言うたやろう。閻魔大王が置いていったメダルや。〉

「そんなことを聞いとるんでないが!

 YフォンやYケータイで起動させられんメダルなんて、

 どうやって使えって言うがよ!」

〈新型システムはどうなんや?〉

「まだ開発中のシステムで使えるかどうかなんて、解らんわちゃ!」

〈やったら、使えるように開発せい。〉

「ダラなことを言わんといて!

 適正使用者がおるかどうかも解らんメダルの為に、

 新システムの調整なんてできるわけが無いでしょうに!」

〈そこを何とか頼む。ワシとオマンの仲やろうに。〉

「私にだって、できることとできんことがあるがよ!」


 『閻』メダルは、旧型システム(Yケータイ)や現行システム(Yフォン)に装填をしても、いきなりリミッターが掛かって機能しない。要は、メダルに封印された妖怪が強すぎる。

 新システムは、「封印妖怪の出力を上げたうえで、システムによって変身者の負担を軽減する」という設計思想で開発をしているのだが、まだ完成していないシステムで『閻』メダルが機能するかどうかなんて、解るわけが無い。


「なーんもう!厄介ごとばっかり持ち込んで!」


 砂影は、受話器をブン投げたい気持ちを抑えて、電話機に叩き付ける。粉木は、20年前に左遷をされた立場だが、本来の有能さ、銀メダル事件を鎮圧した功績、文架市での実績で、一定の評価を取り戻していた。

 しかし、発言力を取り戻した途端に、この調子だ。しかも、本部や東東京支部に呼び戻そうとしても「一生、現場が良い」と拒否をして、文架支部から動こうとしない。

 尤も、電話口では厳しく反発をした砂影だが、システムの向上を求める気持ちと探究心は粉木と同じ。預かった『閻』メダルを機能させる思案に手を抜く気は無い。




-狗塚雅仁・24歳-


 『閻』メダルの些細な悶着から4年が経過。


「退治2課の砂影課長はいらっしゃいますか?

 14時に面会の約束をしている狗塚です。」

「少々お待ちください。」


 砂影に呼ばれた狗塚雅仁が、明治神宮の本社ビルを訪れていた。1階の総合受付で、砂影へのアポを依頼する。数分後、エレベーターが降りてきて、中から待ち人が現れた。


「お久しぶりです。」

「息災かい?」

「はい、それなりに。」


 雅仁は砂影に促されてエレベータに乗り、システム開発フロアがある上階へと上がる。


「ご用件は?」

「直ぐに解っちゃ。」


 エレベーターが止まり、砂影は開発フロアの事務員から頑丈なアタッシュケースを受け取ってから、「打合せ室を借りる」と断りを入れて雅仁を案内する。


「あんたを呼び出いたのは、このシステムを見てもらう為ちゃ。」


 砂影がカバンを開いて取り出したのは、腕時計型のアイテムだった。


「これは?」

「Yウォッチ。現行システム・Yフォンの発展型ちゃ。」


 退治屋の装備は、ヘイシシステムと妖幻システムの2つに大別される。


 ヘイシシステムは、初期型とⅡ型に分かれ、退治屋創生期に開発をされた妖怪の能力を封じ込めたプロテクター。主力として活躍をしたのは、1970年代後半~1990年代前半。コストパフォーマンスが良い為、現在は一般隊員用の装備として使用されている。


 封印妖怪をプロテクターとして召喚できる妖幻システムの場合は、初期型とⅡ型に分かれる。

 初期型・Yケータイの主力時期は1990年代後半~2010年代前半。改良型Yケータイでは、『炎』や『雷』などの属性メダルや、妖怪の能力を付加した武器の使用が可能になった。

 銀色メダル事件の失敗、及び、文架支部(妖幻ファイターハーゲン)の実績をフィードバックして、「変身者と封印妖怪の相性」に着目しつつ、変身者の負担を軽減したのが、現行Ⅱ型のYフォン。Yケータイでは高い才能の有る者しか使えなかった武器メダルが標準装備になり、2010年代後半以降の主力を務めている。


 そして、現在、砂影と雅仁の目の前にあるのが、ロールアウトしたばかりのⅢ型・Yウォッチ試作機。多様性を目的として、且つ、Yフォンよりも更に、封印妖怪の戦闘能力開放と変身者の負担軽減に重点を置いている。


「Yフォンではなく、Yウォッチ?・・・改良型ではなく新型ということですか?」

「試作を重ねていくうちに、Yフォンとはなーんの別物になっしもたのちゃ。」

「その新型を俺に?」

「高性能のカスタム機になるさかい、

 信頼と実績を持つ人に優先的に使うてもらいたいが。

 受け取るかどうか、判断はあんたに任せるわ。

 もちろん、使えるかどうか解らんシステムを、

 いきなりあんたで試すつもりも無い。

 かぁシリアル2。

 シリアル1は、うちの隊員に試用してもろうて、今のとこは問題無し。

 ただし、長期間の使用で、どんな弊害があるかは不明。

 使うがなら、Yフォンとは互換せんさかい、Yメダルの再調整が必要になるわ。」

「今までよりも強くなれるのであれば・・・他に選択肢はありません。」


 砂影は、雅仁が強さを追求する性分を把握しており、危険性を感じていたので、本音では試作機を渡したくなかった。だが、上層部の指示を無視することはできない。喜田CEOは、実戦経験が多く、且つ、部外者の雅仁にYウォッチを試させて、問題が発生しなければ、シリアル3以降を自分の子飼い(息子の派閥)に提供するつもりだ。


「あんたなら、そう言うて思うたわ。

 Yメダルの再調整をするさかい、数日間ちゃ足止まっしゃいま。

 その間くらいはやわやわ休まっしゃい。」

「お心遣い、ありがとうございます。」


 試作型Yウォッチの狗塚家への譲渡が決まった。この数ヶ月後、雅仁(新生・妖幻ファイターガルダ)は単独で鬼の集いを奇襲して、幹部・熊童子と、その他の複数の鬼を討伐。Yウォッチの優秀さを充分すぎるほど示した。




-燕真・大学4-


 リクルートスーツを着た燕真が、電車から降りて、高層ビルが建ち並び、多くの人々が行き交う華やかな東京の街を眺める。


「俺は、この大都会で夢を掴む!」


 彼は、就職活動の為に上京をしていた。


「・・・と言いたいんだけど。」


 周りには、落第や退学をした者も少なからずいたが、燕真は勉学に励み、無事に単位を取得して、現在は卒業論文を纏めている。親元を離れて1人暮らしをして、自由な時間を過ごせたので、昼夜を問わず遊んだりバイトに勤しんだ。「資格を持っていると就職に強い」と聞いて、ネットで簡単に取れる資格を調べて、2つほど取得した。

 何をやっても得意分野が無いが、何をやっても無難に熟せる燕真は、一般的な大学生活を楽しみ、卒業をして社会に羽ばたくまで、あと半年に迫っていた。


「いい加減にヤベーな。そろそろ、何処かに引っ掛からんと・・・。」


 周りの学友達は、理想通りか妥協したかはともかく、企業からの内定を獲得している。都会出る者、地元に戻る者、在学地域に残る者、様々だ。大学院に進む者もいる。

 燕真は就職をするつもりだが、未だに一つも内定を取れていない。最初に面接をした大手企業2社は、ライバルがトップクラスの大学の生徒ばかりで、彼等の立派すぎるスピーチを間近で聞いて「場違い」を肌で感じた。以降は、中小企業に照準を定めて、それなりに手応えを感じることも有ったが、結果は不採用だった。


「就職浪人やフリーターは回避したい・・・。」


 スマホのマップで面接会場を確認したのち、一気合い発して目的地へと向かう。

 4年前にジジイ兄弟から「文架市にあるYOUKAIミュージアムを訪ねろ。」と言われたことなど、燕真は全く相手にしていない。どうせなら、大学で学んだことを活かした仕事をしたい。ネットで調べて、「YOUKAIミュージアムが個人経営の小さな博物館っぽい」ってことは知っているが、全く興味を感じられない。何の思い入れも無い県の、聞いたことも無い会社に就職をする気など無いのだ。




-明治神宮・退治屋ビル-


ピーピーピー

 妖怪出現の警報音が鳴り響き、総務課に備え付けられた巨大モニターに、街中で暴れる妖怪が映し出された。担当者が妖気履歴と過去のデータベースを照らし合わせて、妖怪の種類を確認する。


〈○○区、××付近にて、中級妖怪・以津真天いつまでん発生!

 3課は討伐に向かってください!

 商業地で人的被害拡大の可能性がある為、2課はサポートをお願いします!〉


 出現妖怪が中級クラスの為、担当部署の3課だけでなく、隣接地域担当の2課にも出動の要請が来た。


「行くよ!」

「はいっ!」


 2課長の砂影は、チーフ(妖幻ファイター変身者)と、詰め所で待機中の一般隊員に声を掛けて、移動車輌がある格納庫へと向かう。




-文架市・YOUKAIミュージアム-


 東東京の喧騒とは対照的に、文架支部は暇だった。粉木は、事務室のソファーに座って、数ヶ月前に本部から送られてきたアタッシュケースを開けて、収納されているYウォッチと和船バックルのベルト、『閻』メダルを含めた数枚のメダルを眺める。4年前に、閻魔大王が粉木に、「数ヶ月のうちに、『閻』メダルの適正使用者が、オマエの前に現れる」と言ったが、未だにそんなヤツは出現していない。


「どうしろちゅ~んや、閻魔はん。」


 Yウォッチはコストの高い新型カスタムタイプで、数少ない選ばれたエリートしか使っていない。そんな希少価値の高いシステムの一つが、文架支部に支給をされたのだが使用者がいない。

 本部では、数人の隊員が『閻』メダルのモニタリングをしたが、データ上で保証をされている強さは、全く発揮できなかった。粉木や、文架支部に配属されている部下(田井弥壱)が試しても、プロテクターが重くのし掛かるだけで、戦闘力は発揮されず、使い熟せなかった。


「宝の持ち腐れ・・・やな。」


 エリート意識が強い喜田CEOの息子に至っては、変身すらできずに面子を潰したらしい。砂影は「性格が悪いヤツは閻魔大王に嫌われて変身ができない」と皮肉たっぷりに、粉木に語ってくれた。そんな個人的な都合でシステムが起動しないなんて有り得ない・・・と言いたいが、変身者と封印妖怪の相性は重要視されているので、「ヤツは閻魔大王に嫌われている」は、あながち間違いではないような気もする。





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