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Ⅳ-3・閻魔とメダル~雅仁の旅立ち~刈部と自称1軍

-文架市・粉木邸-


 敷地の形状や建物の様子、駐車場に駐められた粉木の愛車は、粉木が引っ越してきた頃と変わらない。ただし、敷地内に建つ『妖怪博物館』は、今風に『YOUKAIミュージアム』と名前を変えていた(中身は変わらない)。


ピーピーピー

「妖怪出現!何処や!?」


 茶の間で寛いでいた粉木が、妖怪センサーの警報を聞いてYOUKAIミュージアム事務室へ向かう。だが、履歴を確認するまでもなく、明確に「此処に妖怪が居る」と強い妖気を感じていた。


「どういうっちゃ?妖怪の襲撃か?」


 一定の警戒をして、妖気が最も強く感じられる事務室の扉を開けた。ソファーに、「大王」と書かれた冠を被り、道服を着て、笏を持った、赤い肌で大柄の妖怪が座っている。


「・・・オマンは!」


 粉木は、その妖怪と遭遇するのは初めてだが、名を聞かなくても、何者なのか直ぐに解った。それは、テレビや本で見る‘典型的な閻魔大王’の姿をしていた。竦んでしまうほどの高圧的な妖気を発しているが、敵意は感じられない。


「コナキカンペエという人間に会いに来た。」

「粉木はワシや。閻魔はんが、なんでワシの名を知っとる?

 そない有名人になったつもりは無いんやが・・・。」

「酒呑童子の依頼で、オマエを訪ねた。」

「酒呑・・・やと?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんだ?来客に茶も振る舞えんのか?」

「・・・・ん?」

「客が来たら、茶と茶菓子でもてなすのが人間の作法なのだろう?」

「あぁ・・・そやな。ちと待っとれ。」


 粉木は、自宅に戻って煎餅と湯を持ってきて、事務所で茶を入れて差し出し、話を再開する。


「酒呑・・・やと?ヤツは死んだはず。」

「肉体は消え、僅かな精神体となって動くのみ。

 敵対関係だった俺がその気になれば、一握りで潰せるだろう。

 ヤツは、それを承知で、俺の所に依頼に来た。

 ゆえに、酔狂としか思えぬ話に乗ってやった。」

「依頼とは?」

「この閻魔に『人間の為に力を貸せ』という依頼だ。

 白メダルとやらを貸せ。俺の力をくれてやる。」


 粉木は、閻魔大王の言い分が信じられなかった。だが、酒呑童子のことは一定の信頼をしており、且つ、閻魔から敵意は全く感じられない。言われた通りに白メダル1枚を差し出すと、閻魔は握り締めて魂を送り込んだ。数秒後、閻魔が手を開くと、白メダルは『閻』の文字が浮かび上がったメダルに変わっている。


「俺には地獄の審問があるゆえに、俺自身が封じられるわけにはいかぬ。

 だが、魂の一部を封じ込めた。

 これで、メダルを通じて、俺の力を使えるであろう。

 ただし、俺のメダルは使用者を選ぶ。」

「有能な霊能力者か?」

「俺が好む者。」

「閻魔はんが好むて・・・。」


 閻魔大王は、審問で、殺生、盗み、邪淫、飲酒(毒の使用)、妄語(嘘)、邪見(仏教の教えとは相容れない考え)を嫌い、該当する死者を地獄に落とす。

 盗み、邪淫、毒の使用、邪見に該当しない者は、探せばそれなりに存在するだろう。殺生については、小虫を殺した者は懺悔をすれば許される。


「妄語(嘘)の無い聖人など、この世に存在せんで。」

「自分に嘘を付く心の弱者には、俺を扱えぬ。

 自分自身に嘘を付かない者と解釈しろ。

 ・・・その者は、数ヶ月のうちに、オマエの前に現れるであろう。」


 閻魔大王は、『閻』メダルを粉木に託し、茶菓子を2つほど食べて茶を飲み、闇霧と化して蒸発するようにして消えた。

 粉木は、『閻』メダルを眺めながら考える。「自分自身に嘘を付かない」ことも、かなり難しい。人は、たいていは、自分の心を誤魔化す生き物だ。


「そないヤツが現れるとは思えんが・・・

 現れた時の為に、使えるようにしとかなならんか。」


 粉木は、退治屋中枢の近くにいて唯一信頼できる者=東東京支部の砂影滋子に、『閻』メダルの錬金塗膜を依頼する。砂影は、「また厄介ごと」と渋りながら、粉木の依頼を引き受けた。




-燕真・高3夏-


 燕真は、高校以降もバスケットボールを続けていた。布津迂ふつう高校のバスケ部は、平本へいぼん中学校のバスケ部ほど強豪揃いではなかったが、燕真の最終的な地位はチームの7番手。点差が開いて勝ちが決まった試合か、スタメンが不調の時しか出番が回ってこない。ベンチの応援要員で燕真は引退試合を終えた。


「終わっちゃったな・・・。」


 負け試合を終え、仲間達は泣いている。燕真も泣いていた。辛いことも沢山あった。仲間と後輩にスタメンを取られ、1回もスタメンを取れなくて悔しかった。だが、総じて、中1から6年を捧げたバスケは楽しかった。もっと続けたかった。改めて、バスケが好きなことを思い知る。だけど、バスケの推薦入学ではなく、一般入試で進学をしなければならない燕真は、いつまでもバスケに未練を残せない。




-狗塚雅仁・20歳-


 名門狗塚家の跡取り・雅仁が、砂影と喜田CEOに見送られて、退治屋本部から旅立つ日が来た。


「最後にもう一度聞くが、学んだ仲間達と共に退治屋として生きていく気ちゃ?」

「ありません。砂影さんや皆さんには感謝をしています。

 しかし俺には狗塚の責務があります。

 鬼は、俺が殲滅しなければならないのです。」


 雅仁は、幼少期に、父を除く家族の全てを鬼に皆殺しにされ、父・宗仁は、酒呑童子に致命傷を与えた代償で戦死をした。鬼の殲滅は狗塚家代々の悲願であり、同時に、鬼への復讐が雅仁の行動理念になっていた。


「・・・責務け。厄介な呪いやちゃ。」

「何か困ったことがあれば、いつでも我々を頼りたまえ。」

「ありがとうございます。」


 深々と礼をして、荷物片手に立ち去る雅仁。

 身寄りを亡くした彼は、退治屋本部に引き取られ、高校卒業後に退治屋候補生と共に陰陽を学び、砂影滋子の弟子を経て独り立ちをする。

 陰陽就学から妖幻システムを得て独立をするまで1年半。この成長スピードは、約20年前に「数百年に1人の逸材」と評価された退治屋の反逆者を越える。

 狗塚雅仁と、かつて文架支部に在籍をした源川有紀は「数百年に1人の逸材」と同等以上の才能を持つが、雅仁は退治屋ではなく、有紀は正規ルートの教育を受けていない為、退治屋の有史に、その優秀さはカウントされない。




-燕真・高3秋-


 布津迂高校は、例年、2割が国公立4年制大学、3割が私立4年制大学、3割が短大、残りは専門学校に進学をする。希に、トップクラスの4年制大学に進学する者もいる。燕真は、志望先を国公立4年制大学に決めて、受験勉強に励んでいた。


 そんなある日、クラス内で事件が勃発する。体育の授業が終わって教室に戻ってきたら、クラス1のガリ勉・刈部勉かりべ つとむの教科書が落書きだらけになっていた。刈部曰わく、朝の時点では無かった落書き。

 クラスの皆は、体育の授業中に「トイレに行く」と言ってしばらく戻って来なかったグループを疑う。彼等は、派手な存在感だけでクラス内の一軍を気取った連中だ。4年制進学を豪語していたが実力が伴わず、担任に進路変更を提案されたのが不満で、4年制を狙える者に嫌がらせをしたのだろう。だが、奴等は威嚇と暴力を武器にするので、誰も何も言えない。


「と、隣のクラスの友達が、体育の授業中に、

 笑いながらクラスから出てきた君達を見たらしいけど・・・」

「はぁ!?オマエ、俺達を疑ってんの!?」

「い、いや・・・そうじゃなくて・・・犯人を見てないかと思って。」

「見てねーよ!オマエ、普段から暗いし、嫌われてんじゃねーの!?」


 刈部の問い対して、彼等は威嚇で返した。クラスメイトが謂われの無い嫌がらせを受け、皆は心配しているのに、彼等は同情の一つもせずに笑っている。


「睨んでんじゃねーよ!気持ち悪いっ!」


 突き飛ばされて後退する刈部。近くに居た燕真が、後ろから支えてやる。


「先生に頼んで、新しい教科書を取り寄せてもらいなよ。」

「・・・で、でも。」


 刈部は自分が嫌がらせをされたことを、担任に知られるのを拒む。だけど、それが「自分の心に嘘を付くこと」であり、「未来になって後悔すること」を燕真は知っている。


「そんな落書きだらけじゃ、開く度に悲しくなって、勉強に集中できないでしょ?

 だからさ、新しい教科書に替えてもらいな。」

「・・・う、うん。」


 燕真が割って入った理由は、「刈部が可哀想」という感情もあったが、それ以上に、傍観する自分が許せなかったから。

 燕真が刈部を連れて、教務室に向かおうとする。嫌がらせに対して、横槍が入って、刈部が大したダメージを追わなかったこと、そして、嫌がらせの事実を早々に担任に知られてしまうことを、クラス内の一軍を気取った連中は不満に感じる。


「おい、佐波木!オマエ、ソイツと友達じゃねーだろ!?

 そんなネクラの肩を持つんじゃねーよ!」


 1人が燕真の肩を掴んで止める。「犯人はオマエ等だろ」と感じながらも証拠が無くて何も言えずに、内心で腹を立てていた燕真は、突発的に腕を振り回して掴まれた手を振り解いた。偶発的に、燕真の拳が一軍気取りの顔面にぶつかって弾き飛ばしてしまう。


「テメェ!何のつもりだ!?」

「喧嘩売ってんのか!?」


 燕真は「マズった」と青ざめ、一連の行動に腹を立てていた連中が燕真を囲む。机を蹴飛ばして威嚇をする者もいる。


「ご、ごめん。」


 咄嗟に謝った。暴力は嫌いなので、喧嘩履歴はは数えるほどしか無いが、相手の戦意を喪失させる術くらいは知っている。体力と筋力はそれなりにあるので、フルボッコにされる前に1~2人くらいなら伸せる自信はある。

 だけど、威嚇と暴力でしか存在感を発揮できない連中の面子を潰して、卒業までの残り半年を目の敵にされて過ごしたくはなかった。暴力沙汰で目立ちたくはない。連中のことがムカ付いて仕方がなかったが、頭を下げるのが、今の最善と考えた。


「殴っといて、それで終わりかよ?」

「ごめん、殴るつもりは無かった。」

「偶然のフリをしてわざとだろ!?」

「・・・だったら、どうすれば?」

「土下座でもしてもらおうか?」


 燕真が、威嚇に屈しそうになったその時・・・。


  『ガンバレ60番』


 3年前に出会ったツインテール少女の声が、脳内に響く。いつもそうだ。燕真が、自分に嘘を付いて妥協をしようとすると、あの声を思い出す。


「手がぶつかったのは偶然だけど、頭に来てるのは事実だよ。

 クラスのヤツが嫌がらせをされたのに、なんで君達は笑ってられるんだよ?」


 睨み付ける燕真。その言葉は、「犯人はコイツ等」と想像しながら、怖くて言えなかった皆が言いたかったこと。一軍気取りの連中は喧嘩腰になるが、今度は、燕真の行動に勇気付けられたクラスの仲間達が黙っていなかった。不満が一斉に吹き上がる。


「もう、そのくらいにしなよ。」

「ばーちゃん(燕真のあだ名)、ちゃんと謝ったじゃん。」

「どう見ても、ワザとじゃなくて、偶然手が当たっただけだったよ。」

「君達は、刈部くんが可哀想だと思わないの?」


 スクールカーストに興味を持たないクラスメイトが大半の中で、連中は一軍のフリをしているだけ。やるべき義務を放棄しているので実績も無く、威嚇と暴力と頭数でしか自己主張をできない。

 頭脳、スポーツ、リーダーシップなどを発揮できる真の一軍が声を上げると、クラスの足並みは揃う。そして、凡人なりに努力を続ける燕真は、真の一軍からはキチンと評価をされている。

 ちなみに、高校での燕真のあだ名は、「佐波木君」→「さばちゃん」→「ばばちゃん」→「ばーちゃん」と変化して、苗字の原形が、ほぼ無くなった。


「・・・チィ」 「ムカ付く」


 自称一軍は、クラス中が敵に回った状況では何もできなかった。


「行こう、刈部。」

「うん。」


 燕真は、刈部を連れて教務室へと向かう。


「ばーちゃん(燕真のあだ名)、凄いね。」


 教務室に向かう道中で、刈部が燕真に話しかけた。


「ん?急になに?」

「僕を助けて、連中相手に一歩も引かなかったじゃん。」

「ああ・・・それね。

 俺さ、あとで『○○しとけば良かった』って後悔すんのがイヤなんだよね。

 後悔を忘れる為に、自分に適当な嘘を付いて誤魔化すのもイヤ。

 あの状況で見過ごしたら、嫌いな自分になっちゃいそうでさ。」

「やっぱり、凄いよ。」

「あっ・・・でも、一歩も引かなかったわけじゃないよ。

 実は、スゲー怖くて、退きそうになったけど、クラスのみんなが助けてくれた。」

「ありがとう、ばーちゃん。」


 褒められた燕真は、恥ずかしそうに照れ笑う。


「アイツ等に逆らったら一生いびられるなら、御機嫌取りくらいするけどさ。

 どうせ、高校を卒業するまでの付き合いだろ?」

「・・・うん。」

「あんな、威張ってるだけの奴等が、勝組の権力者になるとも思えない。

 恨まれたくはないけど、機嫌を取る必要も無いだろ。

 あっ!今の、アイツ等には内緒な。」

「うん、言わない。」


 担任に説明をして、後日、刈部の教科書は新品に取り換えてもらった。「イジメ」については、職員会議の議題に上がったが、学校の「事勿れ主義」と「証拠が無い」と言う理由で有耶無耶のまま。ただし、担任が刈部の様子を注視するようになったので、自称一軍は手を出しにくくなる。

 燕真は自称一軍から眼を付けられてしまったが、真の一軍から評価をされている燕真は、真の一軍が傍にいることで守られた。

 この一件以降、刈部は燕真に一目置いて懐き、頻繁に寄ってくるようになる。燕真的には、今までと種類の違う友達なので少し戸惑ったが、拒否をする理由は無いので受け入れた。


「ふむ・・・相変わらず遠回りばかりしているのう。」

「だが、それがヤツの持ち味だ。大王様は気に入ってくださった。」

「さて・・・最終試験だな。」


 校舎から離れたビルの屋上で、司録と司命が燕真を眺めている。





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