Ⅳ-2・地獄門の崇~千段の爺兄弟~孫娘43歳~爺と仲良し
-冥界-
「むぅ?」 「何奴?」
地獄門の前に闇霧が近付く。地獄の書記官・司録と司命が、警戒をして立ち塞がると、闇霧はカジュアルな装いの青年の姿になって、2人の前に立った。
「随分と見た目が変わったが・・・」
「・・・オマエは酒呑童子だな。」
「一発で見抜くか。さすがは、我が宿敵の側近だ。
だが、今の俺は、かつての鬼の名は捨てて、崇と名乗っている。」
青年は酒呑童子の魂。大半の妖気を失い、肉体は滅びた。彼の魂は、基本的には彼を封印したメダルの中で眠っている。だが、「今は動くべき時」と判断して、メダルから抜け出し、宿敵の居城を訪れた。
「貴様等の主はいるか?
・・・まぁ、聞くまでもなく、
地獄の番人が、地獄門から離れる事なんて無いだろうが。」
「何用だ?」
「閻魔に少しばかり、頼みたいことがあってな!」
「散々、大王に敵対をした鬼の頭領が、頼み事だと?」
閻魔大王は冥界の王。冥界の覇権を狙う酒呑童子からすれば、目障りであり、度々、覇権を奪う為に攻め入ったことがある。一方の閻魔大王は、人間界から逃げ帰った酒呑に、その都度、追っ手を差し向けたが、捕らえることはできなかった。閻魔と酒呑は、長きに渡る争いに決着が付かないまま、今に至るのだ。
「停戦の提案だ!閻魔に協力をして欲しい!」
「それは、大王の軍門に降るということか?」
「あくまでも‘協力’だ。悪い話ではないと思っている!通してもらえぬか!?」
酒呑童子は、目の前の2人と話すフリをして、あえて大きな声で、居城の奥に居る閻魔大王に聞こえるように喋っていた。
〈ほぉ?悪い話ではない・・・とな?〉
居城の奥から、威圧的な声が響き渡った途端に、地獄の書記官達は片膝を付いて畏まる。
「しかし、大王様。」
〈構わぬ。其奴の、人間界での、酒呑童子らしからぬ変化は見ていた。
冥界で発生した奇異(輝く闇)が絡む事案であろう?〉
「さすがは閻魔。話が早い。」
〈面白そうだ。司録、司命、その者を通してやれ。
其奴では、儂を騙して隙を突く力も有るまい。〉
「ははぁっ!」
地獄門通過の許可を得た酒呑童子は、地獄の書記官の横を通過して奥へと進む。
-燕真・高1夏-
佐波木燕真は、美宿市内で中堅の布津迂高校に進学をしていた。部活動を終えて帰宅途中、進行方向が赤信号に変わったので自転車を止める。横断歩道の対面では、大荷物を背負って両手も荷物で塞がった腰の曲がった老人が、信号待ちをしていた。
(荷物で潰れそうなだな。)
信号が青に変わったので、燕真は自転車を漕いで道路を通過。反対側の歩道に到達したところで、腰の曲がった老人が、ようやく横断歩道を渡る為に動き出す。燕真は「大丈夫かな?」と思いながらすれ違い、少し気になったので振り返ったら、老人が3歩ほど進んだところで、青信号が点滅を開始する。
「おい、ジイさん、危ねーぞ!」
燕真は慌てて自転車を駐車して、老人に駆け寄って引っ張り戻した。
「邪魔をするな、若造!」
「邪魔じゃなくて助けたんだよ!
死にに行こうとしてたワケじゃね~んだろ?」
「儂は、この先にある家に帰りたいだけじゃ。」
「解った解った。
目の前でジイさんが轢かれたり、クラクション鳴らされてんのは見たくない。
ジイさんのスピードじゃ横断歩道を渡る前に信号が変わっちゃうだろうから、
俺が向こうまで付いて行ってやるよ。」
燕真は、老人と一緒に信号待ちをして、青信号に成ると同時に、老人を連れて横断歩道を渡る。メッチャ足が遅いので、半分ほど通過したところで信号が点滅を開始した。だが、今更、戻ることもできない。燕真は、老人の通過待ちをしてくれる先頭車や、状況が解らずにクラクションを鳴らす後続車に頭を下げながら、老人を対面歩道まで導いた。
「じゃ、ジイさん。俺、行くな。気を付けて帰れよ。」
「ありがとうの。
儂は、この大荷物を抱えながら、1人で家まで帰らねばならないのか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大荷物を抱えているのはジジイの勝手。大変って自覚があるなら、荷物を小さく纏めるか、タクシーかバスを使ってほしい。
燕真は大きな溜息をつきつつ、老人の両手の荷物を預かり、屈んで背中を向ける。
「家、何処だ?近いんだろ?」
「隣町じゃ。」
「背中に乗ってくれ。送ってやるよ。」
2つの荷物を片手で持ち、大荷物を背負った老人を背負って片手で支え、隣町を目指して、ヨタヨタと歩く燕真。それでも進行速度は、大荷物に潰されそうな爺さんが1人で歩くよりはマシ。1つ目の町を通過して、道路を横断して、老人が指定した町に入る。
「その角を曲がった先じゃ。」
「あいよっ!」
言われた通りに角を曲がった燕真は、目が点になった。「一体、何段あるの?」と段数を数える気すら失せるような石階段が聳えている。
「・・・え?この先?」
「若い頃は、千段程度の階段など、どうってことは無かったのじゃがな。」
「・・・・・・・・・1000?マジか?」
ジジイは、千段の階段を降りてきたのか?半日くらい掛かったんじゃないのか?転がり落ちたのか?燕真は、軽く疑問に感じながら、「じゃ、俺はここまで」と老人を見捨てることはできずに、千段の一歩目に足を乗せた。
-20分後-
ようやく、階段を上がりきった。体力と持久力には自信があるので、単身なら10分もあれば上がれるだろうが、ジジイと荷物があるとキツい。庭を通過して、家の前で背負っていた老人を降ろしてやる。表札には「木津郷」と表示してある。「きづごう?」それとも「こつごう」と読むのだろうか?
「あぁぁ・・・しまった。」
「ん?どうした?」
「荷物を一つ忘れてきた。」
「・・・はぁ?」
「多分、横断歩道の所。家の鍵が入ったバックを置いてきてしもうた。」
「え?なら家に・・・?」
「入れん。若造が急かした所為で忘れたのじゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
かなりイラッと来たが、荷物の置き忘れを確認しなかった自分にもミスはある。
「しゃ~ない。取ってきてやるよ。どんなバックだ?」
「ダメじゃ。若造が善人面をして持ち去るかもしれん。儂を連れていけ。」
「・・・信用ねーな。
まぁ、最近は老人をターゲットにした詐欺とかあるから、
初対面の俺が信用されなくても仕方無いか。」
燕真は、千段をもう1往復する覚悟を決め、老人に背中を向けて屈んだ。老人は、大荷物を持ったまま、燕真の背に乗る。
「おいおい、荷物は置いていけよ。」
「ダメじゃ。家の前に放置したら、盗人に持って行かれてしまう。」
「千段を上って荷物を盗みに来る奴なんていねーよ!」
「ダメじゃ!」
「・・・はいはい。」
燕真は、「二度とこのジジイには会いたくない」「会ってもガン無視をする」と思いながら、老人を背負って大荷物を持ったまま千段を降りて、ヨタヨタと歩いて横断歩道まで戻り、置いてあったセカンドバック一つを確保して中身を確認してもらい、他に忘れ物が無いかを隈無く確認してから、老人の家に向かう。
「礼に茶でも飲んでいくか?」
「早く帰って飯を食いたいから、遠慮しとくよ。」
老人は、少しは燕真を信用してくれたようだ。だが燕真は、ジジイとは早く縁を切りたいので、適当に対応をする。やがて、千段を上りきって老人の家に到着。家の鍵を開けて中に入るのを確認して、再度「茶を飲んでいけ」と言われたが断り、千段を降りる。
「・・・ん?」
千段の一番下で、老人が座って休んでいるのが見える。散歩中の近所のジイさんだろうか?大荷物を抱えている。もう、嫌な予感しかしない。。
「ふぅ~~~・・・・この歳で、千段を上って、家に帰るのは辛いのう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
燕真は気付かないフリをしたかったのだが、燕真が擦れ違うタイミングで、ポツリとぼやきやがった。
「ジイさん、念の為に聞くけど、上の家に住んでるジジイか?」
「そうじゃ。連れて行ってくれるのか、若造?」
「・・・なんで、千段を3往復もせにゃならんのだ?」
さっきのジジイとは別のジジイに、また「背負って上れ」と催促をされてしまった。燕真は「二度と下界に降りてくるな」と思いながら、屈んで背中を差し出し、老人を背負って大荷物を抱えながら千段を上がる。体力と持久力には自信のある燕真だが、流石に疲れてきた。
「すまんのう、若造。礼に茶でも飲んでいけ。」
「帰って飯を食いたいから、遠慮しとくよ。」
「遠慮は要らん。
ミス美宿と言っても過言ではない自慢の孫娘に準備させるから馳走になれ。」
「まぁ・・・そこまで言うなら。」
なるほど、ジジイ相手に大損をさせられたのは、アニメやドラマでありがちな、自慢の孫娘に出会う為の伏線か。燕真は、ジジイの茶には全く興味が無い。だが孫娘には興味があるので、屋敷に上がって、茶を飲んでいくことにした。
「おっばっばっばっば!うちのお爺ちゃんと大叔父さんがお世話になったわねえ。」
「は・・・はい。どういたしまして。」
茶をもてなしてくれた孫娘は、木津郷朱希、43才、既婚。過去はミス美宿だったかもしれないが、今は見る影も無かった。
「ちなみにお子さんは(爺の曾孫)は?」
「居るわよ。暴れん坊の息子が3人。」
「ああ・・・そうですか。それは良かった。」
現実なんて、こんなものだ。変なジジイに親切に接したら、スゲー可愛い孫娘と出会えた・・・なんてパターンは、アニメやドラマの世界にしか存在しない。燕真は、出された茶を一気に飲み、おかわりを遠慮して、10分程度の世間話の後に、ジジイ×2と孫娘に見送られて、ガッカリとしながらジジイ宅から帰る。
「どう思う、司命?」
「千段に踏み込んだ時点で、此処が異界と解れば合格だったんだがな。
全く気付いていなかったな。」
「だが、赤点ではないな。」
「うむ、もう少し試してみる価値はありそうだ。」
ジジイ2人が司録と司命に、孫娘が使い魔の妖怪・オバリヨンに変化。彼等は、閻魔大王の指示で、燕真の素行調査をする為に訪れた地獄の使者だった。
ちなみに、崇の依頼から、調査の開始までに1年も期間が空いたのは、「紅葉と出会った少年」が何処の誰なのか探すのに時間が掛かった為。
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ある時は、ジジイが倒れていたので病院に連れて行った。
ある時は、ジジイがヤンキーに絡まれていたので「警察を呼んだ」と言って助けた。
ある時は、ジジイが財布を忘れて飲食をしたので、代金を立て替えた。
ある時は、ジジイ2人が往来で大喧嘩していたので仲裁してやった。
ある時は、ジジイが何処かに置いてきたセカンドバッグを一緒に探してやった。
ある時は、またジジイが倒れていたので病院に連れて行った。
ある時は、孫娘(43才)がヤンキーに絡まれていたので、「警察を呼んだ」と言って助けた。
ある時は、曾孫(小学生)が犬に襲われていたので助けてやった。
ある時は、またまたジジイが倒れていたので病院に連れて行った。
ある時は、曾孫(中学生)がヤンキーに絡まれていたので、「警察を呼んだ」と言って助けた。
ある時は、孫娘(43才)に誘惑をされたが、頑なに拒んだ。
ちなみに、2人のジジイの、どっちが兄で、どっちが弟なのかは、未だに見分けが付かない。
-燕真・高3春-
いつも通り、燕真が自転車で帰宅をしていたら、道の端っこで、大荷物を背負ったジジイが、また倒れていた。
「これで何回目だよ?ワザと行き倒れてねーか、木津郷のジイさん?
倒れても良いけど、次回からは、俺の通学路から外れたところで倒れてくれ!」
「ちょうど良いところに来てくれた。家まで連れて行ってくれ。」
燕真は、面倒臭そうに悪態を付きつつ、自転車を駐車して、ジジイに背中を向けて屈んでやる。
「・・・たくっ!仕方ねーな!」
ジジイの家は、千段の階段を経由して異界にあるのだが、燕真は全く気付いていない。ヤンキーは人間に化けた妖怪なのだが、燕真は全く気付いていない。孫娘は妖怪オバリヨンで、曾孫達も妖怪なのだが、燕真は全く気付いていない。
約2年間を通して、ジジイ達(司録&司命)が導き出した結論は、「少しくらい異常に気付け」「燕真には全く才能が無い」だった・・・が、
「悪ガキ共(曾孫達)は元気か?」
「おう、元気じゃ。」
「一郎は、今年、高校受験だよな?何処の高校を目指しているんだ?」
「よく解らん。」
「二郎は、バスケ頑張ってるか?」
「今度、また、オマエと1対1をやりたいと言っていたぞ!」
「三郎は、同じクラスの花子ちゃんと上手くいってるのか?
一番ガキのクセに、3兄弟で一番マセているよな。」
「おうおう、昨日も、長電話しとったぞ。」
この2年間で、燕真とジジイ一家はスッカリ仲良くなった。閻魔大王の指示で燕真の調査をしていた地獄の書記官からしてみれば、まさか、丸ごと、燕真のお人よしっぷりに抱き込まれるとは思っていなかった。佐波木燕真には不思議な魅力があった。
「どう思う、司命?」
「霊的な才能はゼロ。だが、嫌いではない。」
「うむ、ありのままを報告して、あとは、大王様のご判断にお任せしよう。」
燕真が千段を降りたのを見計らって、司録が結界を解除。階段上のジジイ宅が、神社の小さい社に変わる。同時に、操作をされていた付近住民の記憶は「其所にあったのはジジイ宅ではなく小さい神社」に置き換えられた。
以降、燕真の通り道で、ジジイ一家がトラブルを起こす事案は無くなった。




