六十四、秋の味覚と晴明と黒雲の信頼関係
六十四
季節は秋、とはいえ残暑が残る。
食欲の秋とはよく言ったもので、たくさんの栗や梨、きのこが康仁の屋敷にも献上された。九月の朝である。
「キノコご飯は体にいいですし、うまみも出ます」
「そちらは?」
「栗の皮をむいて、梨の汁で煮ました」
本来ならば、栗は砂糖で甘露煮にしたかったが、梨で代用する。
ほかにも、渋皮を残して茹でこぼして、ワインで煮た栗のワイン煮もうまいのだが、あいにくワインやブドウはないため諦めた。
「キノコはマリネにしても美味しいですよね」
「マリネ……?」
「お酢と油と塩で和えるんです」
今日の朝ごはんはキノコの炊き込みご飯に、栗の梨煮、おかずは鶏肉のピカタだ。
「この、鶏肉の料理はなかなかうまいな」
「はい。作るのも簡単なんですよ」
鶏肉に下味をつけて小麦粉をつけた後、卵に潜らせて焼くだけだ。シンプルながら、とてもうまい。ケチャップをつけて食べてもいいが、そのまま食べても十分に食べられる。
「味噌も、この前天地返ししましたし」
味噌は仕込んでから三ヶ月ほどで、上下を返す。こうすることで、発酵のむらをなくすのだ。
まどかの味噌も、ちょうど仕込んで三ヶ月ほどだったため、先日よく混ぜ合わせた。
「栗もうまいな」
「はい」
「だが、栗もいいが、ミルクレープは美味かったな」
思い出しているのか、康仁が目を細める。気に入ってもらえたのはなによりだが、砂糖が手に入らなければどうにもならない。
いや、クレープだけならば、別の食べかたがある。
「食事としてのクレープをお出ししましょうか」
「菓子ではなく?」
「はい。野菜と鶏を巻いた、食事用のクレープも美味しいんですよ」
ほう、と康仁が息を吐く。
昼ごはんはクレープに決まりだ。
「それでは私は、晴明さんたちに朝ごはんを運んできますね」
先に食事を切り上げて、まどかは康仁の部屋を後にした。
晴明たちは、別室で厳重な結界のもとにいる。三種の神器を守るためだ。これを狙う霊たちも少なくないのだとか。
「朝ごはんお持ちしました」
「ありがとうございます」
晴明が相変わらず柔らかな笑みを浮かべている。しかし、視線は三種の神器から離さない。
黒雲が膳を受け取る。
「晴明さま」
「ありがとう」
そうして、さも当たり前のように、黒雲は晴明に料理を食べさせる。黒雲が運ぶ箸に、晴明が口を開く、食べる、また口を開く。
「おかしいですか?」
見透かすように黒雲が笑った。
じっと見すぎたかも知れない。
「いえ……その……」
「晴明さまが食べ終わったら、今度は私が三種の神器を見張り、晴明さまが食べさせてくれるんですよ」
その顔に、羞恥は一切ない。嬉しさや慈愛、それより先に、信頼で結ばれている気がした。
「私、失礼します」
「ええ。また」
黒雲が控えめに笑った。
羨ましいとさえ思った。あの安倍晴明に信頼を寄せられる黒雲が。黒雲の、晴明への思いを隠さないところが。
「はぁ」
ため息が漏れる。と同時に、康仁の顔が思い出されて、ハッとした。
ふるふると頭を横に振って邪念を払う。
今、なにを思った?
「疲れてるのかな……」
くりに戻って洗いものをする。この気持ちを落ち着けるために、いつも以上に念入りに洗った。




