96話 泣き龍
多々羅大橋の入り口は歩行者、自転車用、原付、車用と別れている。俺達は歩行者用のルートを通って行った。そんな中、俺達の隣を一輪車に乗った男性が駆けて行った。
「え?」
見間違いだろうか?俺は思わず目を擦った。だが、俺が見たものは見間違いなどでは無かった。一輪車に乗った男性は坂道にも関わらず、バランスを保ちスマホで地図を確認しながら橋に入って行った。中には物好きもいるもんだ。俺達はそう思いながら橋手前の公園で写真を撮影した。
ついでにずっと出来なかったワープジャンプの為の動画撮影も欠かさない。
橋から見える景色は絶景だ。周囲には遮るものは何もない。煌びやかな海が俺達をようこそと出迎える。そして、この橋の途中には愛媛県と広島県の県境もある。県境である場所の地面には白線が引かれており、分かりやすく県境が示してある。
それを跨いだ瞬間俺達は愛媛県へと突入した。自らの足で他県へと踏み入れた感覚。イマイチ実感は湧かないが、何処と無く嬉しい。少し嬉しかった俺は何度か県境の部分を往復した。橋の展望は良く、一キロ先にいる山中先輩達の姿もはっきりと確認できる。
そして、この多々羅大橋には名所がある。多々羅大橋中腹に位置する泣き龍と言う名所だ。この橋の高さ220メートルにもなる巨大な主塔が位置するこの場所で、大きな声を立てるとその声が反響するらしい。俺は試しにその場で手を叩いてみる。
「おお!」
するとどうだろう、周囲からは山彦の様に手の音が反響して何度も返って来るではないか。この不思議な現象はこの横にある二つの巨大な主塔がどれだけ精密に作られているのかを表していた。対極に位置するこの主塔の鉄骨に少しでも捩れが有ったならばこの音が反響し、自分の元へと何度も返ってくる事は無い。
当時のこの橋を作った職人達の技術の凄さそれを実感させてくれるのが、この多々羅大橋の名所である泣き龍なのだ。この場所には打ち木が設置されている為、大きな声が出せない人や、大きな声を出すのが恥ずかしい人、力が無くて大きな音を拍手で出せない子供や女性でも楽しむ事が出来る。
「あーーー!!!」
「ァーーーー!!」
「おぉ!凄え!」
お前そんなキャラだったか?泣き龍で山田の声にエコーがかかって音が反響する。山田は珍しく感情を表に出して楽しんでいた。
橋を渡り終えるとそこには道の駅がある。俺達は橋終わりの下り坂を歩いて道の駅へと立ち寄った。もちろん今回はワープジャンプをきちんと撮影した。現在時刻は11時前。少し早いが、朝7時から歩き続けている俺達にとっては昼飯に丁度いい時間帯であった。他の面子も同じ事を考えていた様で、ここで食事をしていた。
そして、このポイントは点呼ポイントでもある。そこには俺達を橋の途中で車で追い抜かした内山先生が立って、各メンバーの到着と出発を記録していた。この道の駅の中にはレストランがあるものの、俺達は長居するつもりは無い。それに、レストランの料理は少し俺達にとっては割高だ。
「タコの唐揚げと、デコたんアイスクリーム下さい」
「はいよ」
外には小さなお店もある。俺はそこでおつまみになりそうな物を購入して、外に設置してある椅子に座った。ここには一年生の大半が集合していた。青空達のグループはいち早くここに到着したらしいが、ここで飯を食べたり遅れてやってくるグループと話していたりしたらこの時間になってしまった様子でそろそろここを出る予定らしい。
せっかく、一年生が揃ったんだ。記念撮影でもしようと言う事で俺はタコの唐揚げとソフトクリームを受け取って裏のオブジェへと集まって全員で写真を撮った。内山先生も一眼レフで写真を撮ってくれた。裏の石のオブジェで撮る写真。これは間違いなく思い出の写真になりそうだった。地面に寝転ぶ山猫、それを覆うようにして撮った写真は最高の笑顔だった。
この写真は後で山猫が送ってくれるらしい。助かる。
だが、それとは別に俺の手元のソフトクリームは悲惨な姿になってしまっていた。うん。写真撮ってから買うべきだったな。このソフトクリームは果実100パーセントの特産品のミカンを使った代物のソフトクリームだ嫌味が無い甘さで、ミカン独特の苦味が癖になるソフトクリームだ。
タコの唐揚げは付属のレモンをかけて頂く。三原の辺りではタコが名産だったが、ここら辺でもタコが多く取れるのだろうか?しまなみ海道では海の新鮮な幸が味わえる。
「熱っつ!?」
口にタコを放り込んだ俺ははふはふしながら頬を抑える。完全にベロ火傷した!?タコの唐揚げは熱々だった。そして、濱内が入れてきてくれたカップ麺がそろそろ完成する。
「よし、3分経った」
「え?まだ早くない?と言うか今ここに置いたばっかりだよ!?」
俺はカップ麺は1分派だ。3分どころか2分も待てない。この速度でカップ麺の蓋を開けると、カップ麺を食べ終わる頃に世間で言う丁度いい麺の柔らかさになる。濱内が席までカップ麺を持ってくる間に1分は既に経過している。俺の食べ時はもう過ぎているのである。
「俺は硬めが好きなの」
俺はカップ麺を啜りながら、靴の紐を少し緩めた。治療をしたとは言え、靴を外せる時には外してストレッチをした方が良い。俺は片手で足の裏を念入りに揉み、膝裏を伸ばし、股関節を伸ばした。
俺だけでは無く、山田や濱内も足の裏に水疱が出来ていたらしく、二人は濱内の安全ピンで水疱を潰して処置を行っていた。山田は事前にテープを貼っていた。それにも関わらず、組織液の中にテープと皮膚が挟まり、内出血を起こした結果、血が混じって赤く染まった水疱は痛々しかった。
泣き龍の名所は有名ですね。
水疱ですが、事前にテープを貼っていてもあくまで出来にくくなるだけで出来ます。作者は書いていてしまなみ海道また歩いて行きたくなって来ました笑リアルが忙しくなくなって来たらまた行く予定です。
一輪車の方は以前、私がしまなみ海道を歩いてた時に見かけた方でして、一輪車でしまなみ海道を縦断されていた方でした。凄いバランス感覚ですよね。




