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97話 急がば回れ

  多々羅大橋の麓の道の駅を出発した俺達は次の目的地である伯方島を目指す。ここから伯方島までは南下して約5キロ。普通に歩けば1時間もあれば到着する距離なのだが、足を痛めた影響か、2時間弱程度かかると思っていた方が良いだろう。


  濱内のスマホで見た感じ、ここから伯方島まで5キロ。伯方島から最終目的地点である大島大橋の終わりまでは約6キロと表示されていた。だが、それは宛にならない。橋に入る時と終わりのルートがスマホの地図は少しおかしいのだ。その為、スマホの距離だけを合計するとアイス屋さんから終点の大島までは計22キロと表示されてしまっていた。実際はこれよりも2、3キロ長い。


  そう考えると残りの距離は流石に15キロも無いが、13キロ位と考えていた方が良いだろう。そう考えると、5キロを2時間かけてゆっくり歩くとしても、かかる時間は5時間ちょっと。


  現在時刻が11時半である為、昨日と同じように16時位には着けそうだ。この絶妙な時間設定……流石だな。日が暮れる17時より少し手前で最後尾が着くように計算してルートを作っているのだろう。宿泊場所までは昨日と同じ様に到着地点から車で行くものの、歩行終了地点は完璧な計算であった。


  道の駅を出ると周囲にはポツポツと家が見え始めた。ただ、それ以外には特出すべき物は無い。綺麗な一本道だった。大三島に渡る前は真横に見えていた綺麗な海も堤防があるせいで良く見えない。ここら辺にもなるとサイクリングロード沿いには茶色い縦長の表示板が1キロ程の間隔で設置されている。この看板には主要地点までの距離や現在地などが記されている。どちらかと言えば、スマホの地図よりかはこちらの方が正確である。だが、これもあまり宛には出来ない。山の分岐板と同じだと思えば良いだろう。


 



  しばらく道なりに進むと左の堤防にアートが刻まれていた。さまざまな容姿のイルカの絵が堤防には描かれており、見ていて退屈しない。決して上手いとは言えない代物だが、それぞれ描いた人がどの様にして描いたのかを想像するだけで楽しめるだろう。


  更に道を進むと道は国道から県道へと移行し、少し道が狭くなる。だが、本質的な事は殆ど変わらない。一直線の道は何処までも続いていた。


  県道に入ってから1時間弱ほど道を進むと、再び道は国道に切り替わる。そして、景色もガラッと変わった。


「やっと海が見える様になったな」


  俺は手元のカメラで写真を撮る。それに周りの建物も散々としていて、道路でない部分まで道路の様に見えた。しかし、ここに似た景色は何処かで見た様な気がする……。


  そうだ。宮島だ!宮島は宮島でも観光客があまり行かない方向の場所だ。宮島には多くの観光客が訪れる世界遺産がある場所とそれとは別にカキを養殖している場所がある。そのカキを養殖している場所に今俺達が歩いている場所は類似していた。


  そして、この道の先で一部の先輩達や、ペースダウンしてきた青空達のグループと合流した。青空のグループからは速瀬は抜けていた。その代わりに孤島がこのグループに加わっている。となると先に進んでる一年生は茂木と、材木と湖穴、速瀬か。速瀬以外は意外な人達だな。


 気がつくと、道は坂道に切り替わっていた。もう既に橋が近いのだろう。橋前には必ず傾斜を登らなくてはならない。


「知ってるか?ここ裏ルートがあるんだぜ?」

「ああ、あそこか」


  松村先輩が何かを言い出した。松村先輩に、うっかり屋さんの渡図先輩のコンビだ。何も信用できない。だが、歩くのがしんどくなってきた俺達は歩行距離が短くなると聞いてその案に乗ってしまった。


  通常ルートは山に連なる蛇の様に唸っている坂道をひたすら登るルートなのだが、松村先輩が提案したルートは森の中に突っ込んで上の車線にそのまま入ってしまうと言う物であった。


  そのルートは以前は誰かが管理していたらしく、階段などの道が整備してあった。だが、近年徒歩でしまなみ海道を渡る人は殆ど居ない。自転車で山道を走るのは無謀でしか無い。それ故に自然消滅してしまったのだろう。森の中の道には様々な植物の蔓や、茨が蔓延ってしまっていた。


  近くに行ってみるとその蔓や、茨の凄さがより分かる。茨や蔦は先が見えない程複雑に絡みついた。直ぐそばにある筈の道路すら見えない密度である。いや、これ無理だろ。普通に行った方が絶対早い。俺はここまで来て確信した。


「競争しようぜ。俺達は通常のルート行くからそっちはその裏ルートな!」

「いや、俺もそっち……あ……」


  そんな中、山猫がある提案をした。だが、俺達が判断の声を出すまでも無く山猫は無理矢理青空達のグループを押して通常ルートに行ってしまった。アイツ、ワザと人に嫌われる事やってないか?


  俺は彼の方へと手を伸ばしたまま、口の端をピクつかせた。俺達の方が遅かったら後で文句言ってやる。


  俺はそう思いながら、先輩達の後ろに付いた。正直、これは登山で言うジグを無視して崖を直進する様な物だ。ここは高低差が山ほど無い為、あそこまででは無いとは思うが、その代わりに茨の要素が追加されている。こっちの方が早く行ける訳が無い。そもそも、先輩はこの茨をどうやって抜けるつもりなのだろうか?


「一年でここまで伸びたか……」


  松村先輩は手にゴム手袋をはめて、十徳ナイフを取り出して茨を掴み、強引に全身を預けて複数の茨を断ち切った。


「痛ってえ!?」


  駄目だこりゃ。そもそも去年もこのルートで行ったのかよ!?ゴム手袋用意できたなら、十徳ナイフじゃなくてサバイバルナイフとか、鎌とか用意出来たんじゃね?


「思ってたより手強いねぇ」


  あ、渡図先輩は何もしないんですね。分かります。俺達は一人植物と格闘する松村先輩とそれを俺達と同じように一歩下がった所から傍観する渡図先輩を見て悟った。うん。絶対普通に行った方が早い。


宮島の牡蠣養殖している方と言うのは包ヶ浦の方の事です。


この場合は一応ちゃんと道あるので近道しても迷う可能性は低いですが、道かどうか分からない道での近道は危険ですのでやめましょう。

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