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95話 筋肉疲労

  「先輩……着替えどうするんですか?」

「タオルで拭いてその上から服着るよ」

「風邪引かないでくださいね」

「ああ、オレ達も流石にそろそろ上がる。寒いわ」


  そりゃ、そうでしょうね。真冬の海に飛び込んで寒くなかったらそれこそ異常だ。俺達は苦笑いで、三人を見送り、先を目指した。ここから数キロ海岸線を進み、内山先生の車が止まっている場所に辿り着く。


  ここにはトイレと自販機がある為、俺達はここで用を足し、飲み干した飲み物のペットボトルをゴミ箱に捨て、温かい飲み物を購入し、横の坂道へと入る。ここの道は車道を通ると一キロほど余分に通らなければならないが、徒歩の場合横の階段を使ってルートをショートカットする事が可能だ。それに、軽車両はこの先の道を通るのにお金がいる。その点から考えると歩行者は楽であろう。


  道をショートカットして登ると茂木達の後姿が見えた。道路脇には大量のミカンが栽培されており、道路には砕け散ったミカンの果実などが散乱している。丘に登った影響か、日差しは強く、風も少し強い。


  丘の上で栽培しているミカンが転がって道路に落ちたのだろう。残念ながら地面に落ちた物は食べる事は出来ない。バイクなどに轢かれ、無残に果実を散らしている。それ故か、茂木達は地面に落ちたミカンを投げ付け合っていた。いや、それあかんやろ。


  元々ソフトボールをやっていた茂木の投げる球は速い。材木が避けたミカンは壁に向かって高速でぶつかり、オレンジ色の鮮やかな実を散らせ、壁に汁の痕を付ける。彼らがボールの様に朽ちたミカンを投げ付け合う度に、地面や壁にはミカンの砕け散った小さな実が付着する。雨が降れば、その汚れは次第に落ち、海に流れ出るだろうし、時間が経てば飛び散ったミカンの汁は蒸発して、目立つのは付着したミカンの実だけになるだろう。


  しかし、元からミカンはスプラトゥ◯ンの陣取り合戦の様に辺りに散乱していた。茂木達が朽ちたミカンでリアルスプラトゥ◯ンをしたところで然程影響は無いと思われる。彼らもそれを分かってやっているのだろう。事故防止様のクッション材などが置かれている場所に向かってはミカンを投げていなかった。


  俺はこの程度ならば止める必要は無いと考え、後ろからその様子を見守った。


  しばらく道を進むと休憩所が設置されていた。雨除けとベンチ。それだけの簡易休憩所であるが、そこから見える景色は絶景だった。


  自分の視界のすぐ下に広がるミカン畑。その先に広がる大海原。対岸に見える島にかかる巨大な橋。雲一つ無い青空と相まってその景色はかなりの絶景だ。俺茂木達はこの休憩所をスルーしていたが、俺は思わず持って来たデジタルカメラを取り出して写真を撮った。


  しゃがんで橋をメインに撮ってみたり、少し視線をあげて海の反射光を綺麗に撮ってみたり、空をバックに写真を撮ってみたり。急がなければならない。それを分かっている筈なのに、俺達は写真に没頭していた。


「お前らここに居たのか。先行くぜ」


  十分程写真を撮っていると後方から山中先輩達が俺達に追いついた。それに気が付いた俺達は時計を確認して荷物を纏めて休憩所を出た。流石に最後尾になるのは良くない。そう思ったのだ。


「うっ!」


  膝の裏に鈍い痛みが走る。そして、何となくだが、足の裏にもチクリとした痛みが走った気がした。


「大丈夫か?」

「やっぱり水だけ抜くわ」


  俺は休憩所のベンチに座って靴を脱ぐ。俺の足の裏。指の付け根の辺りと踵の辺りには一円玉サイズの水疱が出来ていた。踵に水疱が出来たのは薄い靴下を履いたせいだ。


  指の付け根の水疱は靴下の皺をキッチリ伸ばして居なかった事も多少は影響していると思われる。


「濱内、何か針みたいなの持ってないか?」

「安全ピンがあるよ」

「それちょっと貸してくれ」

「ありがとう」


  俺は濱内から借りた安全ピンを水疱の二箇所に穴を開けて水疱を潰した。水疱からジワリと水が流れ出し、一時的に痛みは少し引いた気がした。水を抜いた傷口には絆創膏を貼り付けた。そして、その上には靴との摩擦を減らす為にダクトテープを貼り付けた。


  基本的に水疱は潰した方が傷の治りは早いとされている。潰すと判断を下した場合は先程俺が行った様に、衛生的に綺麗な針などで二箇所に穴を開けて水を抜き、絆創膏などで蓋をするのが基本的な対処法である。


  本来であれば、この様に長時間歩く行事を行う際には事前に水疱が出来そうな場所にダクトテープを貼ったり、絆創膏を貼るなどして靴下などとの摩擦を減らして置くのが鉄則なのだが、俺はどこに水疱が出来やすい。何故水疱が出来るのか?などを理解していなかった為、事前対処が出来なかった。


  ただ水疱が自然に割れる前に対処出来たのは良かったのだろう。


  俺は靴下を奥までしっかりと履いて靴紐を強めに締めて地面に足をつけた。


「痛ててて」


  少し長い間座っていた影響か、膝裏が攣りそうな痛みに襲われ、俺は苦悶の表情を浮かべた。それに、テープを水疱が元々あった場所に貼っている影響か、少し歩きにくい。


  それに、処置をちゃんとしたからといって痛みが完全に引くわけでは無い。


「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。多々羅大橋超えるまで、あと3キロ位だろう?まぁ、何とかなるさ」


  多々羅大橋を渡ったとしても、今日のゴール地点まではまだ15キロ程あるのだが、一旦多々羅大橋を渡らない事にはどうしようもなかった。


長距離歩行の場合は体力では無く、筋肉の疲労と、慣れていない人は皮膚が耐えてくれません。


慣れてくると足の裏の皮膚などが硬化したりして、水疱などが出来にくくなります。歩行は歩行距離が百キロなどを超えると股関節などの筋への負担も半端ではないです。普段からの鍛錬が必要です。


水疱の処置……基本的には潰した方が治りが早いとされている。衛生的に綺麗な針などで二箇所に穴を開けて潰し、靴擦れ用の絆創膏などで処置をする。事前対処として、ダクトテープを貼ったり、軟膏を塗ったりすると良いと思います。


長距離歩行を行う時の靴の選び方……人によりますが、百キロなどを歩く場合は二万円程する靴を購入するのをオススメ致します。出来るだけ足と靴に隙間ができない物を選ぶのが良いと思います。私の場合は土踏まずが深いので、クッション性が高い物(24時間テレビなどで使われているもの)よりも踵から土踏まずにかけて固定板が入っているものを愛用しています。固定板が入っているものは走りにくいですが、疲れた時に足がガニ股になるのを防いでくれるので疲れにくいフォームで長時間歩く事が出来ます。


靴下は厚手の物が良いですが、それを履いた事により、足が蒸れてしまい、靴擦れを誘発する様であれば薄手の方が良いかもしれません。

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