88話 大海原
昨日は間違えて88話を投稿してしまい申し訳ありませんでした。
オーゾンの駐車場からは既に次の目的地である生口橋が見えていた。こうしてみるとかなり近く見えるが、実際に歩いてみると思っているよりも大分遠い。横を高速で抜けていく自転車や自動車が恨めしい。だが、流石に一人で行くのは精神的に保たない。道も分からないし不安だ。俺はそろそろ進もうと思って金属枠から立ち上がる。金属枠に座って休憩していた時間は五分にも満たない。流石に先生を待たせるのは気が引ける。
それに気がつくと周りはかなり静かになってしまっていた。あれ?もしかして、一年生ですらもういない?
「あ」
俺が周りを見渡すと二人と目があった。マジか。
結局、ここにまだ残っていた人は濱内と山田のみとなっていた。マジか。湖穴や孤島などがまだ残っていると思っていたが、彼らは既に出発していた。湖穴はマイペースな所がある。一人でもあまり気にならないのだろう。孤島も同じ理由だ。
茂木は材木と二人で、山猫は再び天咲に絡みに行って既にここを出ていた。彼は天咲に無視され続けていたが大丈夫だろうか?少し気になるところはあったがそんな事はどうでも良いし、俺が知る由はない。
「あ、僕たちも出ます」
「了解しました。後から追いかけるよ」
「分かりました」
最後尾の出発を待っていた内山先生の言葉で俺達は歩き始めた。オーゾン横のパチンコ店の脇を歩き、道路に出る。道路には割りかし広い歩行者用の道が整備されてあり、危険は少ない。青いしまなみ海道のルートであるサイクリング用の線も道路に書いてある事からこの線を辿っていけばゴールに辿り着ける事が分かる。
「これなら迷う事はないな」
「そうだね」
「うん」
やはり、いまいち会話が弾まない。ここまでこの三人とは一緒ではあったが、会話が無かったのだ。ここで急に会話が発展する方がおかしいだろう。普段話さない二人……と言うより普段から俺はあまりワンゲル部の部員とは話していなかった様な……。とにかく、この二人とはあまり話した事無い為、何の話題から振ればいいか分からなかった。
「うーん。そういえば二人って何でこの部活に入ったの?」
「えー。何でだろう。僕は家族でたまに山登ってたから入ったんだけど、深い理由は無いかな」
「おれは兄ちゃんが在学してる時にこの部活動入ってたから入ったよ」
ほう、山田には歳が離れた兄貴がいるのか。確かに少し弟って感じがするわ。濱内に関しては理由が他の人と似ているな。
「へえ、兄ちゃん良いな。俺は一人っ子だから毎日つまらないよ」
「確かに……。兄ちゃんが大学行くまでは遊んでもらってたんだけど、最近帰ってこないから少し退屈。ゲームとかしかやる事ないや」
意外だな。大体兄弟などがいる人にこの話をすると、一人っ子が羨ましい。と返ってくる事が多い。だが、山田の口から出たのは寂しい。と言う言葉だった。やはり歳が少し離れているとまた感覚が変わってくるのかな?
「そうか?僕は妹と弟いるけど、いつも邪魔してくるから少し鬱陶しいよ」
それに対して濱内は至って普通の反応であった。それにしてもゲームか。良い話題を聞いた。ゲームを最近よくしていると言う事は今回の合宿に携帯ゲーム機を持って来ている筈だ。折り畳み式のDの奴とかがメジャーだろうか?俺は今回どの機種にも対応出来るように折り畳みじゃないPの方もちゃんと持ってきている。
「それで、そう言えばゲームって今回何持ってきた?」
「ド◯クエとかかな」
「お、マジ?今回俺も持って来てるよ。どのタイプの奴?」
「モンスターで戦う方の奴やね」
「宿ついたら対線しない?俺強いよ?」
「いいよ」
『俺は話題づくりに成功した。山田剣山との友好度が1上がった』
こんな感じのコメントバーが頭に表示され、ド◯クエの例のポップ音楽が俺の頭部に流れた。
こんな話をしている間にも俺達は橋の真下に来ていた。
「え、ここ直進で大丈夫?」
橋の真下は交差点になっており、橋は左折方面から長く続いていた。だが、そちらの看板には
『こちらの方面からは本州に行けません』
などと記載されている為、俺達が来た方向の物では無いのだろうか?しかし、しまなみ海道のルートを示す青い線は直進方向に繋がっていた。
「直進じゃね?だって青い線こっちにあるよ」
「そうっぽいね」
結局、濱内の助言もあり、不安ながらにも俺達は直進を決めた。しばらく道を進むと後方から内山先生の車が俺達に追いついた。
「あ、この先左折ね。そこまで先行っとくから」
「了解です」
内山先生は車の窓を開け、声だけ俺達に伝えて走り去っていった。正直今のでかなり安心した。橋がある場所を通り過ぎたのだ。不安になるのも仕方が無いだろう。
数分歩いた先に、内山先生の車が道の脇に停まっていた。
「はい、こっち向いて」
内山先生はこちらにカメラを構える。俺達はそれに対して笑顔でカメラに写った。道路での撮影は危険が伴う。その為、内山先生は危険が及ばない様に道路脇から望遠レンズを使って俺達を撮った。
「ありがとうございました」
ふと上を見ると標識があった。
『←生口橋』
書いてあるじゃねえか。多分さっきの交差点の所にも標識あったな。山じゃなくても情報となるものはちゃんと確認するべきだな。俺は認識を深め、脇の道路に入って生口橋を目指した。
道路入って直ぐ。俺達の目にはみかん畑が見えた。そう言えば因島とかはみかんが有名だったな。ここから先は有料道路にあります。と書かれた看板を横目に緩やかな上りカーブを曲がると再びカーブが出現する。成る程、ここは橋の上まで緩やかな傾斜だが、距離がある訳か。橋の高さまで歩くのも一苦労だな。
「たまには良いなぁ。こう言うのも」
一苦労。だが、俺はそんな疲れも忘れ、心地の良い陽気に身体を預け、周りを見渡す。当然まだ橋の下の為、展望が良いとは言えない。
だが、真後ろに見える生口橋と、燦々と輝く太陽。そして、その光を反射して、煌めく青い海と緑色のミカンの葉、大きく実ったオレンジ色の身、更にはそれを上から見守る白い雲と絵の具で塗られていると思える程、真っ青な空。そのコントラストは俺の心を浄化していた。
12月のポカポカ陽気は最高に気持ちいいです。しまなみ海道などはミカンを育てるのに良い日光が当たる場所です。一度は行ってみる事をオススメします。




