89話 天然リゾート
「お、そう言えば濱内はスマホだよね?」
「うん」
「写真撮らない?」
「良いよ」
生口橋入り口付近。俺はふとある事を思い出して濱内に提案する。山猫がやりたがっていたワープジャンプである。結局あの時はなんだかんだでワープジャンプをしなかった。
ワープジャンプって言う物は動画を使ったトリックみたいなものだ。橋の入り口でジャンプする動画を撮影し、橋の終点でも同じ様にジャンプした動画を撮影する。飛ぶ際の映像は橋の入り口。着地する時の映像は橋の終点で撮影したものを編集で繋げ合わせる事で俺達があたかもワープしたかの様な映像が作れるのだ。
「せーのっ!」
俺達は通行人が周りにいない事を確認して跳んだ。俺達三人が跳んだタイミングと同時に地面に置いたスマホのカメラが俺達の姿を捉える。
「おお、中々良いじゃん」
濱内のスマホの中には俺達が橋の前でジャンプする映像が綺麗に映っていた。
生口橋を進む事約10分俺達は生口橋の終点まで来ていた。自動車と歩行者は全く橋を降りる場所が違う。料金所を通過して緩やかな下り道を降りている時だった。近くに植えられているヤシの木に捕まっている見覚えのある人影が見えた。
「ウッキーッ!」
「良いっすね!松村先輩似合ってますよ!」
そこに居たのはかなり前に出発していた筈の松村先輩と山中先輩、青山先輩、古岩先輩、植木先輩、颯先輩の六人だった。松村先輩はヤシの木の太い幹に抱きついたままどこから持ってきたのか、バナナを手に握って写真撮影をしていた。
何やってんだ……あの人。
馬鹿っぽいが、実はあのポーズにはかなりの技術を要する。巨大なヤシの木の幹は人数人分程の幅がある為、並の人間の場合幹を傷付けずには登れない。だが、松村先輩はコアラの様にヤシの木に登り、片手で身体をキープしていた。松村先輩は鬼登先輩と同じで、クライミングを専門にやっている。それ故に身についた技術であろう。
これ見つかったら怒られるんじゃないか?あまり関わらないでおこう。あの六人は随分前にチェックポイントを出てる事からここでずっと遊んでいた事が分かる。恐らくこの後も内山先生に何か言われるまではここで遊び続けるのだろう。俺達にはそんな余裕は無い。時刻は既に十四時を過ぎている。そんなに時間は残っていないのである。
先輩達の事だ。どうせすぐ俺達に追いつくだろう。
遊ぶ先輩達を横目に俺達は曲がりくねった道を進んだ。料金所の先は森の中の様だった。サイクリングの人でも道を下りやすくする為か、場所自体はぐるぐるしているだけなのに、歩行距離は結構なものだ。近くに階段でもあれば楽なのに。俺はそう思った。結局料金所から1キロ近く歩いて、橋の真下に出た。1キロ歩いて進んだ距離はごく僅か。料金所はすぐ上に見えている。
「そう言えば、動画撮るの忘れたな」
「あ……」
ワープジャンプを撮るならば料金所を越えてすぐ辺りがベストポイントだったのだろう。だが、その時俺達はヤシの木に捕まっている先輩達に気を取られてしまっていた。しまった……。だけど、再びワープジャンプを撮る為だけにあそこに戻る時間は無いし、もう足がしんどい。次の橋でやろう。俺達はそう誓った。
今日のゴール地点までは後五キロ。生口島の海岸線沿いに北へ歩くだけである。生口島の橋下付近は因島とは違い、家などは殆ど見受けられない。緑が豊富なイメージである。冬にも関わらず、左岸は緑で潤っており、サイクリングロードは自然歩道に近い形になっていた。
歩道の脇にも植物が植えられており、視覚的にも飽きる事は無い。しばらく道を進むと大きなヤシの木が定感覚植えられているのが見えた。今の季節は冬であるが、ポカポカとした陽気と、ヤシの木は何処ぞのリゾートの気分を俺に味合わせる。
しまなみ海道良いな。機会があれば自転車でも来てみたい!俺のマンネリとしていた感情はとうの昔に消え去っていた。俺は登山よりもこういうのほほんとした企画の方が向いているのかも知れない。自転車で行くのも良いのだろうが、歩いて周りの景色を見ると言うのはまた違った景色が見れる。
周囲のゆっくりと流れていく景色。地域の人々との交流。一歩一歩を踏みしめ景色自ら自分の方へと引き寄せられている様な独特な感覚。歩くって楽しいな。登山もそう考えれば根本は変わらない。
歩く際に大きな危険があるか無いか、道が足場の悪い急傾斜の道か、そうでないか、閉塞感があるか無いか。それくらいの違いなのだ。だが、体力の無く、遊びと言う概念が気楽にするものと言う認識の俺にとってはその点が大きな痼りとなっていた。この痼りすら取り除ければ、登山も楽しくなるだろう。
でも、友達と気楽につまらない話をして笑う。これ程楽しいことは無いのだが。山では気楽におしゃべりをする事は命に関わる。それも痼りの一つであった。
更に数十分海岸線を進むとヤシの木は消え、歩道にはモザイクタイルが敷かれお洒落になっていた。隣には学校やソヨゴなどの木も見られ中々綺麗である。太陽光発電所などが見え始めたら辺りで内山先生が俺達に追いついた。
「お、いたいた。あそこがゴールだよ。ラスト1キロ位でラストスパートかけようか」
後ろを振り返ると百メートルほど後ろからは松村先輩達が走ってこちらに向かって来ていた。いや、まだアイス屋さんも見えてないのに早すぎるやろ……俺はまだ、走る気は無かった。だが、ゴール地点のアイス屋さんの看板が既に見えていた為俺達は走った。
そして、時刻は16時手前。目的地であったアイス屋さんにたどり着いた。
生口島は芸術の島とも言われています。街の至る所に彫刻があり、瀬戸田レモンなどが有名ですね。
アイス屋さんは言わずもがなドルチェさんです。毎年しまなみ海道に行った時は寄らせて頂いています。閉店時刻が17時なので早めに行きましょう。
ソヨゴはモチノキ科の植物です。クロガネモチなどの仲間ですね。ツルツルとした幹が特徴で、全体的にのっぺりしている印象の木です。葉は丸く分厚いです。




