86話 石仏
俺達は内山先生の後ろについて綺羅垣山への道を歩む。道幅は広く、傾斜はかなり緩い。まだ参道に入っていないからだろうか?道は車が普通にすれ違えそうな程広い道路だ。綺羅垣山の途中までは車で向かう事が出来、駐車場まで完備されている。それにも関わらず内山先生は車を麓のパーキングエリアに止めて来たのだ。俺達の安全確保が優先とは言え、ご苦労な事である。
橋を降りてすぐフラワーラインに入るのだが、そっからは案内標識がある為迷う事は無い。そこそこ緩やかな道を進む事早、四十分。ロータリー式の交差点を過ぎ、山頂への坂道を俺たちは目指した。
それから20分。横には展望台や、駐車場が設置してある場所に出た。そこからは綺羅垣山への階段が姿を見せていた。
「え、登山無いのか……」
俺は思わず呟く。綺羅垣山は岩山だ。宮島にあるあの山とどこか似ている感じがするな。だが、宮島にあるあの山の登山道はかなり険しく、岩一つ一つが大きい。それに対してこの綺羅垣山の岩は大きいのだが、登山道の左右に迫り出した形になっている為、比較的登りやすそうだった。登山道は反対側にあった。俺達は一歩一歩大地を踏みしめて既に見えている山頂へと近づいていく。
階段の脇に設置されているお地蔵さんが優しく俺達を迎え、微笑んだ……様に見えた。山門を潜るとその先には驚きの光景が俺の目に飛び込んだ。
「何だここ……」
山門をくぐった先にはおびただしい数の石像が立っていた。石仏である。ここは五百年前修行僧が登る山だったらしい。その影響もあってこの山の山頂には沢山の仏様が祀られているのだ。この山頂の事はその大量に並ぶ石仏に例えられて五百羅漢とも言われているが、実際には七百程の石仏が祀られている。この石仏一つ一つが向いている方角には意味があるらしく、山の頂上から石仏は四国と中国地方を常に見守っている。
だが、当然俺達は石仏には興味は殆ど無い。それ故に関心はあまりなかった。しかし、この山の山頂に祀られている一つの岩。これに周囲の男達は強い興味を持っていた。
『恋し岩』
綺羅垣山の観音堂の裏に祀られている小さな祠に鎮座する重さ200キロ程度の大きいとは言えない岩。この岩にはとある伝説があった。
恋し岩は死に別れた恋人の悲しい伝説が残る岩とされ、心を込めてその岩にお願いするとステキな相手が見つかって末永く幸せに暮らせるらしい。そんな噂があるのだ。それを良いことに先輩達は俺達後輩達を差し置いて見苦しい姿を見せていた。
「来年リア充にして下さい!」
「可愛い女の子を!」
「二次元でいいから付き合いたい!」
男子校と言う恋愛とは程遠い環境に置かれた先輩達は藁にも縋る思いで岩に願っている。心の中で思うだけで良いのだが、それが声にまで出てしまっているのは先輩らしいと言ったららしいだろう。
綺羅垣山の山頂には大きな鐘があり、この鐘を鳴らせばその音は島中に響くと言われている。そこから繋がる展望台から見える景色は正に絶景。標高たったの220メートル。それでも、この山の周りには遮るものは何一つとして存在しない。広島方面を見れば、三原の街が見渡せ、反対側からは四国が見える。この山からは夕方になると水平線に沈む夕陽が見えるらしいが、生憎、今の時間はまだ真昼。夕日が見える事は無い。
山門の方を展望台から見ると五百羅漢の石仏が一様に並んでいる姿が目に入る。それを表す言葉は圧巻。それ以外に無いだろう。
鐘を鳴らした俺達は内山先生のカメラで写真撮影をした後、登山道を歩き下山した。この道はフラワーセンターがある場所に直接出る道だ。分岐を間違えない様に注意しなければならない。
この登山道にも沢山の石仏が道中に設置されており、見る者を飽きさせない不思議な楽しさもあった。登山道に入って行く俺達を見送った内山先生は急いで道を引き返していた。
登山道を下る事、20分。フラワーセンターの正面に出た。ここからは少しの間住宅街に入る。コンビニを抜けて、しまなみ海道の正規のルートに戻るまではサイクリング用の補助線が無い為、先輩達を見失わない様にしなければならない。とは言っても濱内や山猫などがスマホを持っている為、GPS機能を使えば迷う事はほぼないと思われた。
「コンビニっと。すぐ近くじゃん」
山猫がスマホのマップを開き検索をかける。そこに表示されていた距離は約1キロ。歩いて10分の場所だった。思っていた数倍近いな。因島大橋からここまで5キロ近くあったから3キロ位あるのかと思っていた。
俺はそこでとある事に気づいてしまう。
あれ?内山先生。俺達に追い付けなくね……?俺は再び内山先生の事を哀れに思った。既にここまで10キロ近く歩いて来ており、俺達は少し疲れていた。走っている時とは違い、膝の裏に少し違和感があるのだ。
「ついでに、今日のゴール地点までの距離も調べてみようぜ」
そんな中、山猫は現在地点から今日のゴール予定地である生口島のアイス屋さんを調べ始めた。今日のゴール予定地点はとあるアイス屋である。そのアイス屋さんはそこそこ有名な所の本店であり、広い駐車場がある。歩行距離的にも一年生が16時頃に着く様に計算し、その店が毎年1日目のゴール地点に指定されている。
一日の最後にアイスクリームを食べて、車で宿に向かうのである。この大所帯だ。宿も毎度お世話になっている民宿に泊めて貰う。何故真冬にアイスを食べるのかは俺が知った事では無い。何故か、これがしまなみ海道縦断の恒例になっているのだから仕方がないとしか言いようが無い。
そして、肝心の距離。それが俺の目に入った。
『15km』
「遠くね?」
これが俺の思った事全てだった。
本編には書いてませんが、内山先生は大仏マニアです。内心では今回かなりニヤニヤしてます。主人公は哀れに思ってますが本人は悲壮感ありません。
私がしまなみ海道の下見に最後に行ったのが2年ほど前なので大分記憶が薄れてます。また仲間集めて行こうと思います。
追記 87話が抜けて間違えて88話を投稿してしまいました。




