84話 因島
今回のしまなみ海道縦断はレースでは無い。ペースメーカーである最後尾を車で追尾している内山先生に急げと言われない限りは歩く速度を無理に速める必要は無い。
向島の中を歩いている間はほぼ街中で、『島』にいる感覚はほとんど無かった。最初の目的地である因島大橋までは約8キロメートル。単純計算で2時間弱で着く計算だ。因島大橋の手前まではしばらく町が続く。道に迷わないように注意しなければならない。
国道を1時間ちょっと歩き続け、俺達は自動車道のインターチェンジポイントの下を通っていた。俺達の上には本州四国連絡橋に繋がっている大きな自動車道が通っており、その道路は直接因島大橋に繋がっている。
その下のトンネルを潜り抜けた俺達は遂に海岸線沿いの道路へと出た。ここからは大きな橋や、海が視界に広がる。ここに来て俺はやっと『島』に来たんだ。と言う実感を持った。ひんやりとした爽やかな風が頬を撫でる。夏とは違い、乾燥した風だ。だが、真冬とも言える季節にしては少し暖かく優しい。そんな風だ。風を受けて身体がシバリングを起こす事も無い。心地の良い風であった。
島の割に不思議と風はあまり強くない。これはここが瀬戸内海だと言う事も影響しているのだろう。北側には中国山地、南側には四国地方、因島、向島付近では西側も中国地方に塞がれている。冬に日本は西高東低型の気圧配置になる。それ故に風は西側から吹く。その為、ここはまだ風が穏やかなのである。
海岸線沿いの道に出たらもう迷う事は無い。ここからは道路に路側帯に加えて青い線が引かれている。これはサイクリングを行う人の為の補助線である。この道を通ればしまなみ海道のサイクリングマップ通りに行けますよ。と示す物だ。無論俺たちはこの道を辿っていけば良い。この線があるだけで安心感は段違いである。
因島大橋は自動車道の下に歩行者道がある特殊な構造をしている。それ故に、橋に入る入り口も違う。普通の橋は橋の上に自動車専用道路と歩行者用の歩道が隣接しているものだが、因島大橋だけは歩行者や、自転車専用の道路が下にあった。
海岸線沿いに少し歩くと公園が見える。そこに伯江先生も車を停めていた。時刻は11時。いい感じのペースである。
「はい、茂木、材木、湖穴、孤島、山田、濱内、山川っと。これが最後尾かな?これで全員点呼確認完了しました。ここを出る時は私に声掛けて下さい。あ、これ薄荷さんのお母さんからの差し入れです」
「分かりました。マジですか?ありがとうございます」
伯江先生は手元の用紙に書いてある俺達の名前にチェックを入れて時刻を記入した。この様に大きな橋を渡る手前などでは必ずチェックを取る。点呼、確認は島に渡る前に済ませて置くのが原則である。そうでなければ教員達も次の島へと車を渡せられない。
俺達は薄荷先輩のお母さんから差し入れされたカステラを受け取り、公園で空いている席を探す。今ここの公園に残っているのは一年生と一部の二年、三年生辺りだ。高校生の先輩達はもう既に橋を渡り始めていた。
公園の裏の長い階段を登る先輩達の姿がチラリと見える。俺達が手を振ると先輩達は手をこちらに振り返した。あんな重い荷物背負ってるのに良く登るよ……。俺は思った。因島大橋の桁下の高さは五十メートル。塔の高さは百三十五メートルにも相当する。ここの公園があるのはほぼ水面と同じ標高。橋を渡るには公園の裏山を少し登る必要があった。
ただ今の所身体的に疲労感はあまり無い。ただ下らない話をして歩くだけ。それだったが、その時間は短い様で長い様で有意義な時間に感じられた。俺はメンバーで座れる場所を見つけ、カバンを地面に置き、腰を落とした。
「さーて、そろそろ飯にしますか」
俺は先程コンビニで購入したおにぎりを開封した。今回は流石に現地購入である。周りのメンバーも殆ど先程コンビニで購入した物を食べていた。
「あ、内山先生。ではわしは、因島の方に車回しますんで、最後尾よろしくお願いします」
俺達が飯を食っている間に車を走らせて来た内山先生と伯江先生は合流した。最後尾の俺達がここに着いたのが確認出来た為か、伯江先生は車を走らせてどこかに行ってしまった。恐らくは向島のインターチェンジまで戻ったと思われる。そこから車で自動車道に入る事で先輩達を追い抜く事ができる。先輩達も今橋を渡り始めた所だ。橋の全長は1.3km。先輩達が走りでもしない限りは追い抜く事が可能だ。
因島大橋を越えた後の予定には登山がある為、橋後の合流地点にて俺達は先生を待つ必要があった。だから、例え追い付けなかったとしても問題は無いのである。とは言え、流石に教員二人でこの行事回すのには無理が無いか?あの二人ずっと車走らせて奔走してるぞ……?
「あ、そろそろ。僕達も行きます」
「はいよ。最後尾、茂木、材木、湖穴、孤島、山田、濱内、山川。因島大橋麓にて出発確認」
飯を食い終わった俺は若干眠たそうにしている内山先生の元に歩み、出発確認を取った。内山先生の許可が出た事によって俺達は次の島。因島に向かって足を踏み出したのだった。
因島と言ったらポルノグラフィティの出身地ですね。




