82話 しまなみ海道縦断
読図講習会から半週間。俺はしまなみ海道縦断の日を無事迎えた。装備品は殆ど大した物は入っていない。サブザックで事足りる量だ。着替えも重量軽減の為、最低限だが季節もあって防寒具は必須だ。それと雨天も見越して予備の服や雨具も入っている。それ故に思っていたよりも荷物は重くなってしまっていた。
それに今回の合宿はいつもの合宿と違い、ゲーム機などの持ち込みが許可されている。お店での買い食いなども可能で持ち物の自由度はかなり高い。許可されているのだからゲーム機などを持っていかないと言う選択肢は当然無いだろう。周りだけ宿でゲームしているのに自分だけ仲間外れとか嫌だぞ。
2日目はお楽しみ会があるが、その荷物は先輩達が持っている為、俺達が負担する事は無い。
先輩達の中では誰が一番変なものを持ってこれるか?など大喜利大会が勝手に始まっているとも聞く。しまなみ海道縦断は始まる前から盛り上がっていた。俺は広島駅の新幹線口の広場に着くと、お金が入った封筒を駅裏に立っていた伯江先生に渡す。今回の費用は宿泊費や、交通費、食費などを合わせて約一万五千円程だ。
交通費には帰りのバスの分と参与の車のガソリン代が含まれている。参与は安全管理の為、最前列から最後列までを車で往復し、把握する。今回は伯江先生と内山先生の二人しか参与は来ていない為、二人で巡回する形になる。
今日は野原先生が居ない。理由は定かでは無い。
考えられる理由としてはこの前本人が人間ドックがあるって言ってた事から、そこで何か異常があった。と言う可能性だろうか?しかし、彼の様子はどこか体調が悪い様には見受けられなかった。人間どこで体調崩すか分からない物だ。特に冬は体調管理には気をつけなければなるまい。伯江先生は野原先生の事に言及しなかったが
何か事情があるのだろう。
時期で言えば冬休み。教員達は生徒と違い、冬休みとは言っても冬休みでは無いだろう。部活の参与であれば、部活の遠征などに足を伸ばさなくてはならないし、溜まっている事務仕事を一気に処理する事が出来る機関である。決して休みとは言えないのは確かだった。
広島駅からは電車組と車組に分かれて尾道駅まで移動する。車組は人数に制限がある為、事前にミーティングで決められていた。確実に座れる上、乗り換えも必要無いと言うメリットは大きいのだが、そこには大きなデメリットも存在する。それは参与と同じ狭い空間にしばらく閉じ込められると言う事だ。
当然車に乗るとなれば運転手は必然的に参与だ。中で話をするにせよ、際どい話などは出来ないだろう。
広島駅から尾道駅までは電車で約一時間半。俺達は周囲の迷惑にならない様に各々の時間を過ごした。スマートフォンを弄っている人も居れば、お菓子の食べ比べをしている人もいる。冬休みの期間である為、人が多い事が予想されたが途中の駅を過ぎるや否や人は大きく減少した。
広島駅から乗り込んだ電車は糸崎駅行きの電車だ。糸崎は尾道の一個手前の駅で電車組はそこで電車を乗り換える必要がある。一駅ならどうせなら尾道まで行ってくれれば良いのに。そう思ったが口には出さない。基本的に広島駅から尾道駅まで向かう電車は滅多に出ていない。
出ているとしたら福山行きの電車だろう。広島から糸崎駅までは16駅。かなり長い。この間俺達はこれからの楽しみについて語り合う。何故だろう。ただ歩くだけの企画なのにとても楽しみなのだ。何が登山と違うのだろうか?しまなみ海道縦断は本当にただ歩くだけ。山と違って山頂に到った達成感なども無いだろう。それなのに、登山と違って俺の心は踊っていた。
そこでふと冷静に思う。そう言えば最初の登山前もこんな気持ちだったわ。俺の心の拍動は急に騒めきに変わる。未知のモノに人は心を動かされる。その感情は怖い、嬉しいなど様々だ。だが、良く良く考えてみると今回のしまなみ海道縦断と言うイベントは登山と本質的にはやってる事は変わらなかった。
いや、歩行距離だけで言えば今回の方が長い。ただ、登山と大きく違う点が一つある。それは、危険度である。登山は常に気を張り詰めて居なくてはならない。ちょっとした事でも死に繋がる。そう常に思って行動をする事が必要だ。今回のしまなみ海道縦断はそれを考える必要があまり無かった。
勿論、道を歩く以上完全に気を抜いてはいけないのだが、整備された歩道を歩くだけなのにそこまで気を張り詰めて歩く人が居るか?と言う話である。心の重り、張り詰めた緊迫した環境。今回はその大きな条件が無かった。
それに、最初の登山。俺がもう山なんて登りたく無い!そう思った原因は体力不足による疲労による物と必要知識量と必要経験値の多さによる脳のパンク。それによるものが大きかった。
今回はそれがあまり無い。その要素を考えた際、登山としまなみ海道縦断は似ている様で全くの別物である事が分かった。これなら多分楽しいだろう。だが、期待はしない。期待していない方が、心の落差は少ないからな。俺は冷静に合宿を分析した結果、ワクワク感と冷めた感情の二つが混同し、変な感情に到っていた。
広島駅をでてから約1時間45分。俺達は尾道駅へと到着した。しまなみ海道縦断初日は登山がある。その為、途中までは班行動だ。だが、いつもと違って決まった特定の班。と言った区切りは無く、五人ほどで固まって行動してね。と言った感じだ。
結局、普通に考えたら分かる話だが、このパターンで班を組めば同じ様な仲間がそろう。出来た即席班は殆どが同学年同士で組んだものであった。尾道駅からは舟で対岸の向島へと向かう。向島に着いたらしまなみ海道縦断スタートである。
『しまなみ海道縦断』に出てくる島や地名は実在する名前を使っています。流石に有名なので、その方が位置関係が伝わりやすいかなぁ。と思いました。
しまなみ海道と言えば、サイクリングで有名ですね。それにも関わらず私はしまなみ海道は歩いて渡った事しかございません。何回もやっているのに全部徒歩。物好きですね。どちらかと言えばこういう企画の方が《ワンゲル》という感じがしますね。
因みにこの作品に登場するワンゲル部は元々歩こう会として発足した物でそれが派生して出来た物という設定です。




