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81話 採点

「『K』……?」

「何を戸惑っている。これは明らかに尾根に対して差し込んだ谷じゃないか」

「そうですよね」


  俺は苦笑いで答えた。明らかに俺の気が抜けていると感じたのだろう。戸山先輩は定点がKである事には殆ど触れなかった。今回のポイントは北西から差し込んだ谷と北北東に少し見える小さな尾根の合流地点。そこが読図ポイントとなっていた。ここは間違える事は無いだろう。


  もう登山行動も終わり。街中には定点ポイントは設置できない。街はすぐ目の前に見えていた。だが、俺の目には再びピンク色のカードが吊るされている木が映った。


「ええ……」


  ポイント自体は然程難しくは無い。読図ポイントからは北北西の街に降りている尾根の姿がぴったしと見え、地図と重なった。尾根の先で西側から伸びる谷とぶつかっているのが特徴の尾根で、尾根本体の特定も難しくは無い。


  だが、ここでポイントLが出て来た事により、俺の中の定義が壊れた。ポイント数は11と丁度良い数でも無い。それに加えて、最終読図定点ポイントZでも無い。終点への道はあとほんの僅か。だが、この下り道の短い間隔で定点ポイントを二つ詰め込んできたと言う事はまだ出る可能性がある。俺は地図を眺めた。


 


  しかし、結局定点がL以降出題される事は無かった。それも普通に考えたら当然だろう。定点Lから街までは百メートル程しか無いのだから。山を下り、俺達は最寄りのアストラムラインの駅まで歩みを進めた。


  最寄り駅に着くや否や、俺達は提出用である読図定点記入用を取り出し、通行人の邪魔にならない様に記載を始めた。


「定点Bの詳細を述べよ」

「え、ここですか……?これそのまま写せば良いんじゃ無いですかね?」

「いや、違う。ここはどの要素で取ったかを聞いているのだ」

「……忘れました」


  時刻は10時40分。記入に費やせる時間は二十分しか無い。登山中にメモとして定点を記入しておいたコピー地図を元に提出用の地図に定点を書き写すのだが、これがまた単純に書き写せば良いと言うものでは無い。


  前言ったとおり読図定点の採点は正解地点のポイントからの距離だけで採点されるのでは無い。線を引く角度なども重要になって来る。そこを傾斜変化で取ったならば登山ルートに対して垂直に、尾根や谷で取ったのならばその目安とした谷や尾根と平行に。など、採点者が意図を読み取れる様な解答を描く必要があるのだ。当然、読図定点をコピーに描いた時から時間が経っている為、記憶は薄れて来ている。それ故に、提出用の用紙に書き写す作業は難航していた。


「定点D。これどっちにするか……そちらの意見を聞きたい」

「僕的には、こっちなんですけど……先輩にお任せします」


  難しいポイントなどは、コピーに複数候補の線を引き、この様に最終的に相談して判断する。近くに似たような要素が沢山あったり、要素が無さすぎたり、確信を持てる様な強い要素が無い場合にはこうする場合が多い。


  その結果。俺達が読図用紙を提出したのは10時57分。ギリギリであった。後ろから回収した読図カードを持った大潮先輩も俺達に合流し、10時59分。全ての班の提出が終了した。





「ええ、今回は一年生にとっては二回目の読図講習会?となりました。二人組で読図講習を行うと言うのはさぞ新鮮だった事でしょう。今回定点ポイントの最後をZには敢えてしませんでした」


  それから早15分程で先生達の採点は終了し、講評会となった。開幕伯江先生の口から放たれた言葉は俺が後半ずっと考えていた定点Zの事についてだった。


「読図と言うのは、登山の基本技術です。地図を読む事は読図テストがあるからする……と言う為の物ではありません。自らの命を守る上で大切な技術なのです。今回は途中で定点Zを置く事によって、そこから気が抜けて途端に地図を読まなくなる事を懸念して最終定点をLにしました。それで焦った人も居たのでは無いでしょうか?」


  伯江先生は半笑いで話した。うん。俺みたいな人の事だな。定点Zで終わる物だと思ってたから焦ったよ。でもお陰で先生の思惑通り、最後まで読図は欠かさなかった訳だけどな。


「定点ポイントの数をキリの悪い数にしたのもその理由からです。一年生だけで無く、二年生以上でも焦った人は居たと思われます」


  伯江先生が特定の人物の方を向くとその人物は目を逸らした。露骨である。


「次からは定点ポイントZを出した後も定点ポイントA’などを配置して行くかもしれませんので、気を抜かない様にして下さい。それでは講評に入ります。今回の山は比較的読図がしやすい山を選んだつもりです。その割に平均得点はあまり好ましくありませんでした」


  伯江先生は手元の提出用用紙をペラペラとめくった。


「平均得点は11分の8.5点。正答率8割弱と言った所でしょうか?最高得点の11点を取ったチームは3組あります。それでは順位を発表します。提出用紙は『しまなみ海道縦断』の際にコピーした物を各自に配りますので回収しません。次の電車まで時間も無いので今回はポイント解説は短めに簡潔にします。『しまなみ海道縦断』の時に各班でどこのポイントがあってて間違えたか、各ポイントの解説などを書いた紙を一緒に渡しますので、その時にしっかり復習して下さい。『しまなみ海縦断』に参加しない人に関しましては冬休み明けのミーティングで渡します」


  結局俺達は11点分の7点で14組中9位だった。最低得点は6点。点数別の内訳はこんな物だ。11点が3組、10点が1組、9点と8点が2組、7点が5組、6点が1組と言った感じである。その為、平均点は8.4点程だ。9位とは言っても点数的に言ったらブービータイである。俺達は先輩含めてまだまだ鍛練が必要そうであった。


読図講習会はこんな感じで採点します。自分の解けなかったポイントを的確に知る事が出来るので良い鍛錬になりますね。

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