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72話 嘘つきは泥棒の始まり

  文化祭が終わり、ワンゲル部の普通の練習に戻る予定だった俺は窓の外を眺めていた。


「ああ、雨降らないかなぁ」


  文化祭の時に練習したジャグリングは楽しかった。それに強く実感したのは周りの成長だ。俺は部活を掛け持ちしている分、ジャグリングの練習量は少ない。その影響もあって技術は周りより劣っていた。近藤達は次々と新しい技を覚えているのに、俺はついて行けていなかった。最初に興味を持ったのは俺だった。それなのに、今隠実に上達しているのは間違いなく彼だ。近藤は今回の定期テストでも少し順位を上げていた。


  別に悔しくはないのだ。ただ、そろそろワンゲル部に飽きてきたのだ。いや、元から俺は意欲的では無かったのであろう。そもそも運動部なんかに入るべきでは無かったのだろう。いつも同じ事の繰り返し、何処かでサッカーをするか、走るか……。俺は運動は好きではない。なのに、毎日走るだけ。そんな練習に飽きるのは無理は無かった。走って体力が付いたからと言って大会も無い俺達は誰かに認めて貰える訳でも無い。体力が付いたとは言っても全く運動していない人が少し体力を付けたくらいで自慢出来る物でも無い。唯一の希望とやり甲斐だった自然との触れ合いも今は親に禁止させられている。俺の心を満たすものは何も無かった。


  それに比べてジャグリングは技を練習すれば習熟度にも変化が現れるし、新しい技に挑戦すると言う新鮮味が毎回あった。今日はここがダメだった。ここをもう少しこうしよう、これが出来たらアレをしよう。そう思える時間だった。文化祭の練習の時俺は久しぶりにジャグリングにのめり込んだ。ワンゲル部でずっと活動していた事もあってその反動が来たのだろう。部活の時間を目一杯使って行うジャグリングは最高だった。


  だが、掛け持ちをする際の原則は運動部優先だ。毎日参加自由のジャグリングと練習の参加が義務となっているワンゲル部ではどちらを優先しなくてはならないかは目に見えていた。


「山川どうした?もう16時半過ぎるぞ?」

「あ、ああ」


  明道の声がスッと離れた。




  俺はこの日、特に理由も無く初めてワンゲル部の練習をサボった。


「おい、どうした?今日部活無かったのか?」

「あ、ああ。ちょっと体調悪くてな」


  中庭に行くと近藤が驚いた顔で俺を見た。当然だ。近藤は俺がいつもの様にワンゲル部の練習に行った。と思っていたのだろうからな。


「そうか。それはしょうがないな」


  近藤はどこか俺の中身を見抜いている気がしていた。それに、俺は心の蟠りのせいかジャグリングの練習にも一切身が入らなかった。やっぱりちゃんと行こう。俺は心を切り替えた。





「山川、今日なんで来なかったんだ?」

「!?」


  教室に戻り、帰る準備をしていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、俺はびくりと肩を震わせる。


「いや、少し体調が悪くてな」

「へぇ、そうか」


  明らかにおどおどしている俺の様子と、俺の手についたカーボンスティックの黒い痕。この二つから俺が先程まで行っていた事は隠し様がなかった。


「まぁ、たまにはそんな日もあるか」

「あ、ああ」


  明道は何も見なかった事にしたのか、ニコリと笑った。だが、その目の奥は少し笑っていなかった。そうだよ。湖穴とかもミーティング以外来ていないじゃないか!俺が一日くらいサボったって何か言われる事は無いよな!


  俺はジャグリングの道具をカバンに仕舞い、学校の自分のロッカーに押し込んだ。


 




  次の日、俺はちゃんとワンゲル部の練習に行った。


「昨日どうしたんだよ?」

「ああ、ちょっと体調が悪くてな」

「もう身体大丈夫か?」


  青空は俺を見るや否や駆け寄り、優しい言葉をかけた。彼の目は本当に俺を心配していた。


「もう大丈夫だよ。元気さ」

「良かった〜俺心配したんだぜ!」


  青空は俺の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた。彼は優しすぎる。明道は真実を知っているのだろうが、口を割らなかった。彼は一旦俺の出方を見る事にしたのだろう。


  だが、嘘をついている俺は少し気まずかった。その他のメンバーは特に俺の事を気にしてはいない様でいつもと変わらない様子であった。特に茂木と材木は俺が居ても居なくてもマイペースだろう。簡単に想像出来る。




  そして、木曜日のミーティングにて突然の発表があった。日帰り登山の日程追加である。その他、文化祭明けの振替休日を使ったクライミング合宿の参加者募集、全国高校クライミング選手権大会の選考会に関しての題材であった。


  クライミング合宿は高さ十五メートルもの壁を登る事が出来る施設で行うクライミング詰めの合宿だ。俺は当然クライミングに興味は無い為パスだ。


 全国高校クライミング選手権の選考会も当然俺には関係は無い。そして、追加された読図講習会。つまる所の日帰り登山の日程は予定表には無かったものだった。日にちは勤労感謝の日。第3回月例テストが終わってすぐの日程だ。


 月例テストの結果は成績表に印刷されない。定期テストと合算した数値で印刷されて成績表として家に送られる。月例テストで点が良くても悪くても良い点だったと言い張れば、親は許してくれる筈だ。イける。


  行山予定表も現地集合で、朝9時から登山開始して、15時には終わる事となっている。最悪許可が降りなくても、土曜学習会みたいなものだと言い張れば良い。現地集合で教員も自費で俺たちの為に行うブラック行事の為、ガソリン代や引率代も発生しない事から、今回はお金も要らない。これならワンチャン誤魔化せる!


  俺はこの時相当悪い顔をしていたのだろう。俺は親に内緒で登山に参加可能の欄に◯をした。本来は参加必須なのだ。俺は悪い事はしていない。俺はそう思いながら月例テストに向けて勉強を始めた。


 


逃げに走るって意味では泥棒ですね。

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