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73話 予習

  第三回月例テスト。その結果は勿論良くは無かった。前よりは確実に点数は上がっていた。だが、下から50位のラインはギリギリのラインであった。俺は少し安堵する。この結果なら良かったと言っても嘘ではないだろう。


  着実に今までのテストの中では一番高いのだから。俺の成績目標は既に低迷していた。入学当初はトップを狙っていたものの、第一回テストは惨敗。トップどころかワースト入り目前であった。奮起した俺は平均順位を目指したが、成績は更に低迷、そして今回の目標は下から50位。半年で俺は気づかない内に目指すものですら低くなっていたのだ。


  勤労感謝の日。俺は読図講習会に行く為、電車に乗っていた。親に話したところ、テストが良かったと報告した事もあるが、合宿では無い為に自然と許可は降りた。テストが終わったばかりと言う事もあり俺に息抜きが必要だと考えたのだろう。非常に有難い事だった。


  今回の荷物は軽い。弁当、水筒と飲料水、軍手、タオル、ティッシュ、地図のコピー、マップケース、方位磁石、計画書、腕時計、赤ボールペン、雨ガッパ、ザックカバー、ゴミ袋、行動食、財布や小遣い。ざっと纏めるとこんな感じでサブザックで事足りる。ただ季節は既に秋の中頃。冬に入り始めている事もあって、服装は少し厚めだ。


  今回登る山は広島県の安芸区に位置する山の一帯を回る。今回登る山の最高標高も500メートル程と然程高くは無い為、日帰りの登山には丁度良い山だろう。


  遅刻者は基本的に欠席扱いだ。遭難などの危険性がある為、後から追いかける事はしてはいけない。素直に家に帰って後から謝る他無いだろう。


  読図講習会はみんなで山を登り、地点地点で止まってここはこういう読図の意図がある。と説明を受けて読図技術を向上させる会だ。基本的に行うのは木場山の時と変わらない。高校生達は班ごとに分かれて、互いに競う形で読図を行なっているが俺達中学生は顧問の説明付きだ。


  読図カードを設置するのは高校一年生の来年A隊見込みの者達である。それくらいのレベルになれば、問題の出題も出来るのだ。これはある一種の先輩達のトレーニングである。大会側、審査員がどの様な意図を持ってそこに読図ポイントを設置したのか、それを自分で考えながら設置する事でそれは大きな修練になる。到底俺達にはまだ無理な話だがな。今回読図を行うのは顧問と先輩が設置した読図ポイント数十カ所だ。移動距離が短い分、じっくりと時間をかけて読図を行う事が出来るのである。


「予習しっかりして来た?」

「予習ですか?登山ルートならちゃんと確認して来ましたが……」


  俺は凰来先輩の発言に首を傾げた。


「いや、そうじゃなくてどこがポイントとして出されそうか、予測して来たか?って事だよ」


  俺は凰来先輩の地図のコピーを覗き込み仰天した。凰来先輩の地図は何色もの色ペンで色付けしてあり、尾根や谷などが、明確に色付きのボールペンで記載されていた。


「オレも分かりやすい様に断面図作ってきたよ」


  隣の椿先輩は断面図まで作ってきた様だ。流石は二年生。心の持ち様が違う。流石に一年生でここまでやって来た奴は居ないだろう……俺はそう思って尋ねた。


「え?予習してないの俺だけ?」

「僕もしてないよ〜」


 うん。あんた達は知ってた。俺は茂木と材木からすぐに視線を逸らした。


「俺は尾根と谷だけは書いて来たよ」


  明道、濱内。この二人は凰来先輩と同じ様に尾根と谷を地図に書き込んで来ていた。マジか。二人も書いて来てるのかよ。先輩達にとっては書いて来て当たり前。みたいな所は有ったけど、コイツら予習して来いよ〜って言われただけでここまでやって来るのか……


「マジか」


 俺はこの二人の意欲と勤勉さに賞賛の美を送った。俺みたいに読図講習会の予習と聞いて登山ルートを確認するだけの奴とは根本から気合の入れ様が違うのである。


  時刻は集合時間を過ぎた。出発時間ギリギリで雲井が到着した為、遅刻者は0人であった。何だかんだ言ってみんな時間には正確だった。と言うより最寄駅と広島駅との電車の時刻が前後一時間程、計画書に記載されている為、この時点で迷う人はいないだろう。


 九時。俺達は駅から足を進めた。まだここは山に入っておらず住宅街の為、俺達は私語を慎み、路地を進む。


 しばらく進むと大きな看板が設置されているのが目に入った。


顕現寺けんげんじ憩いの森案内図』


 ポップな絵柄で書かれた地図はかなり簡略化されてはいるものの現在地を理解するのには一番良い目印となった。


 その看板通りに進むと顕現寺けんげんじの姿が目に入った。小さな社務所と庭園があるこじんまりとしたお寺だ。そう、ここが登山口である。お寺の傍から伸びた階段の周りは竹で覆われていた。


  へえ、竹林か。そう言えば地図には寺のマークの横に竹林の地図記号があったな。


  俺はそう思い再び地図を眺めた。次聞かれるとしたらここかな?俺は坂の登り終わりの鞍部と送電線が重なっている部分に気が付き、地図に印を付けて置いた。本当の予習ってのはこう言うのを全部家出る前や、前日に済ませて置くものなんだろうな。勉強だけでは無い。山に関しても現地でのインプット、アウトプットだけで無く、予習、復習は必要なのだ。俺は周りとの違いを痛感した。



 


読図講習会はちょこちょこダイジェストでポイントポイントを取ろうと思ってます。木場山編みたいに長くなると流石にアレだと思うので……。

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