71話 コンプレックス
文化祭当日。文化祭は大盛況だった。一日の来場者は二千人を優に超え、あの狭い学園内に人が収まるのか?そう思わせる程の賑わいっぷりだった。志道学園の生徒は自由な校風故か変人……ユニークな生徒が多く、それを求めて他校からは女子などがやってくる。自由な校風が気に入っているのか、地元に住んでいる人までもが、学園祭には押し寄せた。
だが、女子が沢山来たからと言って俺達がモテる訳では無い。メインはあくまで高校生なのだ。だが、高校生もモテる訳ではない。モテるのはごく一部の部活などで元から女子にモテていた人間など。そんな人物ばかりだ。ここら辺は他の学校となんら変わりは無いのだ。寧ろ、半分程の生徒がオタクの様な感じである為、話にありつけたとしても基本女子達とは話が合わない。男子校であるが故に、女性とのコミュニケーション能力も不足しているのである。
話せる奴は話せる。話せない奴は話せない。至極普通である。ただ話せない奴の割合が異常に多いだけで……。
俺達は基本アニメやゲームの話題で盛り上がる事が多い。アイドルに全資金を貢いだ物、自作ゲームを開発した物、夏コミに18禁の同人誌の絵を描き、他人名義で出品させて貰っている者、自作ゲームを開発したものです、アニメのクラブでDJをやっている者、撮り鉄、数学オリンピックで優勝した者など、オタクはオタクでも種類は様々である。
何をしていても基本バカにされる事は無い。ここの生徒達はそれを個性として尊重できる頭を持っていた。寧ろ、そんなに凄い事が出来るのか!もっと見せてくれよ!俺もやってみたい!の精神である。一つの事にそこまで熱中し、自分ならではの世界で生きているのがカッコいいのだ。だが、世間一般がそれと同じとは限らないのである。その為、俺達が生きているのはある一種の異世界であった。自分達に新たに刻まれた常識。それが外界とのコミュニケーションを阻害してしまっていた。
何かに特化している故に、他のことに疎いのは天命であった。ただ、俺達のジャグリングショーは一般的にも大ウケだった。そこで俺は優越感を感じた。これだ。俺が求めていた物は!度々思ってたんだ。他の部活の奴らの話を聞くたびに。
基本的に部活をすると他の学校との関わりがある。だが、登山部は無かった。あったとしてもそれは高校生のみ参加の大会関連の合宿だ。俺達に他校との合流は無いのである。それに他の運動部と違って試合がある訳でも無い。その為、女子にキャーキャー言われる事も無かった。高校生になって大会に出たらキャーキャー言われるのだろうか?俺が見たタイムレースに挑む先輩の姿で抱いた第一印象はカッコいいでは無く、『怖い』、『狂気染みている』、そんな印象だった。俺も大会内容を知らないのだ。
そもそも、大会自体どうやって見ろと言うのだろうか?そもそも見る人などいないのでは無いか?見たところでカッコ良さが伝わるのだろうか?いや、伝わらないだろう。ワンゲル部に所属している俺でも分からないのだ。伝わる筈が無かった。
当然、男子校の為、野球部にもマネージャーはいない。なのに何故、こんな感情が湧き上がって来るのだろうか?久し振りに会った友人にすら
「その部活何するの?」
と尋ねられて答えられない俺。その為、俺は周りにはただキャンプしていると思われているのだ。それはしょうがない事だ。それなのに何故か俺はワンゲル部に対して違和感を覚えていた。当初の目的は自然と触れ合う為だった。何が自然だ。女子なんか、どうでも良いじゃないか。それ以前に俺はちやほやされたくて運動部に入ったんじゃない!
志道学園に入って半年が経過し、俺は少しずつ学校に馴染んでしまっていた。女子がいない環境。半年前までは一切そんな事を考えた事が無かったのに。中学一年生。丁度心と身体が大きく成長し、性の知識も付いて来る時期。俺の心は荒れていた。
噂話に寄ると公立の中学校に行った奴は既にデキてしまっているらしい。そんな事はどうでも良い。その筈なのに俺の中で何かが渦巻いた。
小学校時代の淡い記憶が、俺の中で甦る。ずっと人と違うとイジメられ、仲間に入れて貰えなかった数年間。ある日は生意気だと言う理由だけで、上級生にコンパスで手を貫かれたり、集団で殴られ川に突き落とされりしていた。あの時はそこまでやられても弱音は一切吐かずに殴りかかって行っていたのに今はどうしてしまったのだろうか。最近文句しか言っていない気がする。
塾でも疲れ果てて休憩時間に寝ていた所、机に涎が垂れたのをキッカケに始まったイジメ。毎日、山川菌として俺は生き、周りに避けられていた。イジメは徐々にエスカレートし、俺の親の携帯電話で警察にイタズラ電話されたり、アルコール液を無理矢理飲まされたりした。自分が反撃すれば、相手の親から苦情の電話がひっきりなしに掛かって来る日々。俺の目に映るのは死にそうな顔で謝る母親の姿。世の中は理不尽だ。
最終的に俺は気付いた。奴らに応対するだけ無駄だ。自分が折れて流した方が楽だと。今の俺は丸くなった。以前の面影もない程に。
その為、縁を奴らと切って別の環境を見つける。そんな奴らを見返してやる。俺はそう思って必死に勉強した。それでこの学園に入学した。もうあの劣等感は味わいたくない。自分が周りに比べて劣っている。そうなってしまえば周りがまた全て敵になるかも知れない。それだけは嫌だ。俺は劣等感に対して強いコンプレックスを抱いていた。別に優越感を得たい訳じゃないんだ。
ただ、俺は……。
そこからは何も言葉が浮かんで来なかった。
「どうした?山川?クラスの打ち上げの時間までカラオケ行かね」
「え?」
俺の顔は相当引き攣っていたのだろう。だが、近藤は笑って言った。
「18時からでいいか?」
「ああ」
俺のクラスの打ち上げ18時半からなんだけどなぁ。俺はそう思いながらも、今置かれている環境に感謝し、頬を緩ませた。
イジメの話は私の実話です。最近教員同士のイジメなども話題になってますが、イジメられる側は間違いなく反撃した方が良いです。耐えてもエスカレートするだけです。
無責任な事言うなと言われるかも知れません。ですが、私が責任を持つ義理も無いです。ただ反撃しても状況は悪くなるので、やはり一番は環境を変えるって事です。自分と意見が合うであろう人が居る場所に移る。それに限ります。場所だけ変えても、同じ事になります。
イジメられている方、自分の意思を強く持って下さい。そうすれば自然と周りは気にならなくなります。あ、何だこの程度の人間か?そう思ったら少しは気持ちが楽になる筈です。これは私の意思を押し付ける訳では無いので一つの手段として考えて見て下さい。少しでも私の声が悩んでいる人の心に響いて救えたのなら幸いです。
長々とすみませんでした。
無意味にこの話を書いた訳ではありません。ネタバレになるのであまり言えませんが、少し先の主人公の心情意識に関係して来ます。




