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47話 後片付け

「はぁ……」


  俺は思わずバスの椅子に深く腰をかけ息を吐いた。空気が一気に詰まる。


  ああ、さっきまで広々とした所にいたからか。俺はこの謎の息苦しさに違和感を覚えた。点呼が終わると、バスは動き出した。志道学園までは二時間はかかる。バスの中は行きと違ってかなり静かであった。


  中学一年生は殆どが疲れているのかうとうとと頭が上下している。俺も閉じそうになる重い瞼を少し開け、周囲の様子を確認していた。しかし、十分もしない内に俺の瞼は閉じた。




「ん」


  トイレ休憩か。俺は口から垂れている涎を腕で拭い、乾いた口に水を含ませて、周囲を見渡した。俺が目を覚ました時にはバスは途中のサービスエリアに駐車していた。もう既に木場山を出発してから一時間が経過していた。当然、サービスエリアでの買い物は禁止である。点呼が済むと再びバスは進み出す。そして、俺も再び眠りについた。



  志道学園に着いたのは午後五時頃だった。


「後片付け終わった所から高校生以外は班長の指示で解散。お疲れ様でした」


  野原先生は志道学園に着くや否や、指示を飛ばして職員室の方へと向かっていった。え?もう終わり?そして、当然俺の耳に届いた声は班長である鬼登先輩の声だ。


「よし、さっさと後片付けするぞ」

「え、今からですか?ああ、勿論だ」

「テントは倉尾と俺が立てる。その間にお前らはゴミの分別と食器洗っとけ」


  俺は良芽先輩に教えて貰いながらコッフェルにこびりついた米などを洗剤と金タワシを使い、全力で落とす。しかし、当然一日放置した汚れは全然落ちない。焦げを落とす作業にはかなりの労力を必要とした。その上、放置された食物から放たれる異臭は強烈であった。俺のザックにはゴミ袋を二重にしていたにも関わらず生ゴミの汚臭がこびり付き、鼻を刺した。


「マジかー。全然とれねー」


  俺の隣で必死に黒焦げの鍋を洗っている茂木を見て俺はそっと視線を逸らした。コメ職人が居て良かった。決して他人事では無いのだが、茂木が腕を動かしても動かしても一切焦げが取れてない所を見ると苦労が窺える。俺と良芽先輩が食器と鍋を洗っている間、明道はペグに挟まった土を落とし、洗っていた。


  ペグの隙間に挟まった砂は直ぐに払っておかないと水道水で流すだけでは中々取れない。ペグはエスパース式テントで十二本、ダンロップ式テントで十六本ある。袋に入っている予備のペグ数本も砂が付くので結局洗う。


  鬼登先輩達はテント設営を完了させると、テントの足を持ち上げ、ハンドボールコート内の防球ネットに引っ掛けた。フライはウレタンマット同様に地面に広げて天日干しだ。俺達は食器を洗い終えるとウレタンマットの上に丁寧に並べて自然乾燥を促した。


  直射日光が当たればウレタンマットは光を反射し、より早く食器を乾かせてくれる。鬼登先輩達がホウキでテントの中のゴミを掃いている間に俺達はバーナーやブタンガスなどの団体装備を元あった場所へと戻していく。ブタンガスの様な消耗品は専用のブタンザックに入れる。


  当然全ての作業を終えた時、まだテントや食器は乾いていなかった。現在時刻は五時半。半分しか日が出ていない状態で三十分で乾くわけが無いのだ。


「おい、ヘブンで何か奢ってやるから来い。初登山祝いだ」

「え、良いんですか?」

「ああ」


  鬼登先輩はニタっと笑い、倉尾先輩は露骨に視線を逸らした。


「俺達三年生で割り勘な。一人五百円以内で頼む」


 俺は今の倉尾先輩のギョッとした顔はずっと忘れないだろう。ヘブンイレブンでカップ麺やアイスクリームを奢って貰った俺達はテントが乾くまでの間、テントの前でそれを食して乾燥を待った。




 三十分が経過した。まだ日は出ているものの周囲はかなり薄暗くなった。


「こりゃ、乾かねえな。明日朝早く来て乾かすか」

「そうですね……」




  結局俺達は六時過ぎにテントを畳み、解散した。明日の朝は七時に集合する約束をして。はぁ……また明日も始発か……。俺は項垂れた。宿題もまだ残ってるしどうしよう。俺は電車の中で重い腰を下ろした。





  家に帰って直ぐ。俺は玄関に出た。そう。登山靴の整備である。使用後の登山靴は丁寧に洗う必要がある。登山靴は長く使うものだ。値段は高いがその分ちゃんとした手入れをしてあげる事によって、長持ちする。


  登山道を手入れするのに必要な主な道具はクリーナー、撥水剤、保革剤、歯ブラシ、タオルなど様々だ。これは登山靴の素材によっても異なる。俺の場合レザータイプの為、保革剤と撥水剤が調合されている様な物を使う。これは予め登山専門店などで登山靴コーナーで販売されている。登山靴を買う際に一緒に買うのが良いだろう。種類が分からない場合は店員さんに聞けば直ぐに適したものと処置の仕方を教えてくれる為悩む事は無い。


  登山靴は蒸れて細菌も繁殖しやすい為、臭いが気になる人は消臭剤なども一緒に買うのがおススメだ。


  登山靴の洗い方に関してだが、まず乾いたタオルなどで表面の砂や汚れを払う。そうしたら、タオルを少し濡らして靴を拭く。その後、歯ブラシなどで靴裏に挟まった小石などを取り除き、水を付けて歯ブラシで靴全体を擦り、洗う。


  あとは汚れがある程度落ちるまで最後の動作を繰り返すだけだ。その後は先程説明した保革座や撥水剤を説明書に沿って噴射するだけである。昔はこの保革剤なども液体では無く固体だった。パテの様な物を塗り付けて靴底の修理なども行なっていた事を考えると今は便利な物が販売されている。


  靴紐などが縮れて来ていたりした場合はスペアの紐と入れ替える。これも大事である。俺が靴を洗い終えると時刻は既に八時を回っていた。道理で外が真っ暗な筈だ。


  そのまま風呂に直行した俺は家での食事を楽しみ、布団に入った。


「あぁ……これぞ至高」


  風呂は全身の疲れを落とし、家で食べるご飯は暖かくて美味しく、布団はゆったりとしており快適だった。マジで天国や。家で寝れる事の幸せ。俺はそれを深く実感した。


 レジャーもたまには良いかもしれないが、家に帰るとやっぱりホッとするな。


「……何か忘れてる様な……いや、まぁ良いか。明日も早いから早く寝ないと」


 俺は部屋の電気を消し、目覚ましをセットし眠りに入った。眠りに着くまでの時間はほぼノータイム。それ程、俺はぐっすりだった。今の俺は正にばたんきゅ〜と言うのに相応しい姿であった。


後片付け大事です。登山用具は長く使うものです。修理、手入れはキチンとその日の内にしましょう。このシーンの描写には無いですが、寝袋なども翌日天気が良ければ天日干しするのが良いでしょう。


靴の素材に合わせた手入れのやり方などは登山用品店の店員さんが熟知してます。品種にあったやり方と道具を進めてくれるので、初めての方は最初に道具を購入する際に手入れの仕方も聞いておきましょう。


実際にモデルになった山には予習がてらに何度か登りました。この山は数十回登ってるんですけど、ここが違う!ってのはあくまでフィクションなので勘弁してください……。

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