48話 懐疑心
前回の登山合宿から一週間が過ぎた。土曜日にはクライミングの練習会があった。これは自由参加型の練習会で火曜日のクライミングボード利用と同じ様に希望者のみが参加する練習だ。
広島駅から一つ離れた駅が最寄り駅。その場所の近くにクライミングセンターはあった。クライミングセンターZEROここは県内でも気軽にクライミングを楽しむ事が出来る施設である。施設を使用するには怪我をしても施設は責任を負わないと言う契約書にサインする必要がある。
クライミングには危険が付き物だ。それを理解した上での契約書である。このクライミングセンターは初回登録時には会員証代金と施設利用料を払う必要がある。費用は会員証代金と合わせて三千円程度なので高くは無い。利用料金だけで言えば千円程度である。
この利用料金の中にはクライミングシューズやハーネスのレンタル料なども含まれており、施設利用可能時間はその施設を出るまで適用される。その為かなりお得だし、道具を持っていないと言う人でも入りやすい。このクライミングセンターを経営している方は三十歳を超えてもクライミングの世界大会で上位に入るなどの実力を残している方の為、ここを練習に使っている選手達も県の大会で記録を残していたり、と中々先鋭揃いだ。
綺麗な女の子とかが、地上十五メートルはあろうかと言う真っ逆さまの壁を登っているのだから大会に出る選手達の身体能力には驚かされるばかりだ。だからと言ってクライミングは以前学校で体験した通り簡単では無い。トップロープですら俺は一番下の難易度を登るので精一杯だ。一年の中でレベル2をクリアしたのは速瀬のみである。あの運動神経の良い速瀬ですら、練習無しでは難しい。その時点で他の選手達がどれだけの鍛錬を積んだのか。という事が容易に窺えた。
結局、俺は二時間ほどクライミングをした後は、足や手の指が曲がらなくなる程痛かった為、施設内に設置されていたスラックラインの設備で遊んでいた。
手の指は勿論の事、慣れていないクライミングシューズを長時間履いていた事により足の指も痛かった。クライミングシューズの適正サイズは自分の足のサイズ−1センチだ。足の指が若干曲がった状態で丁度いい。それくらいのサイズ感である。その為、当然慣れていないとクライミング中は足の指にも力を込める為、本当に指が痛い。この辺も慣れていかなければならないだろう。
クライミング練習会はほぼ毎週土曜日に開かれている。個人で行くのとの違いはやはり、練習する相手や指導してくれる先輩達が居ると言う事だろう。とは言っても志道学園ではクライミングを進んでやりたいと言う人が少ない為、クライミング練習会の日来ていた先輩は少なかった。
そんな事もあって俺は土曜日も休みたいし、毎週行く程の事では無いかな?と感じた。そもそもワンゲル部に入った要因の一つに土日のスケジュールが空いていると言う点だった。その利点をわざわざ自分で潰すような事はしない。
俺達が合宿に行く前……ゴールデンウィークに県外で大規模なクライミング合宿があったそうだ。そこには県内のクライミングセンターとは比べ物にならない程大きな設備が整っていると言う。そこで大会選手の強化を行う為、先輩達は二日間ひたすらクライミングに勤しんだ。この合宿も希望制で、希望者が余りに少ない場合は取り止めになる感じだったそうだ。俺は興味が無いが。
そして、月曜日。今日の部活は新たな練習をすると言う。今日は初めてサッカーでは無い練習だ。今日は肘山と言う山に登るらしい。肘山は広島市の南区に位置する山で、志道学園から2.5キロ程の距離の場所にある山だ。標高も70メートルと然程高くは無い。2.5キロは正直大した事無い。だが、小学生以来まともな運動をしていない俺にとっては2.5キロはかなり長かった。1.5キロの持久走。それ以来である。一度に走る距離は2.5キロと高低差70メートルの坂道だが、往復となると合計で5キロメートルだ。運動を普段しない人にとっては辛く思えてくる距離である。
「よっしゃ。今日は肘山行くぞ。辛かったら直ぐ言えよ」
国背先輩はサッカーボールを手に持ち、走り始めた。何も景色映えしない河川敷を俺達は走る。
息が上がる。ペースはかなりゆっくりで、信号などで休憩は出来る。だが、単純に俺の持久力は不足していた。いや、俺だけでは無い。一年生は速瀬を除いて皆、息を切らしていた。小学生で走るトレーニングをしていた人はあまり居なかった様だ。運動部なのに……俺にはこんな疑問は一切湧かなかった。寧ろ何故、速瀬がワンゲル部なんかに入ったんだ?そう言う考えが頭を巡った。
元々小学生の時にサッカーや、バスケ、マラソンなどスポーツをやっていた人は大体その部活に入っている。その影響でワンゲル部に入る人は小学生の時にスポーツをやっていなかった……それこそ、俺の様にキャンプがしたい一存で入った人が程どである。
こんなつもりでは無かったのに。
俺の頭にこんな煩悩が過った。いや、俺だけでは無い他の人もこれを思っていたのかもしれない。だが、誰も顔には出さない。登山に使う道具は高い。それを買ってしまった以上は後には引けないのだ。それに俺の場合はあれだけ道具を譲ってくれたり俺が山に興味を持ってくれた事に対して喜んでくれた大叔父への申し訳無さもあった。
しかし、俺は運動はどちらかと言えば嫌いだ。思っていた部活と違う。俺は前回の合宿から、自分のこの部活に対する懐疑感を抱き始めていた。
クライミングセンターは結構、いろんな県でもありますのでネットで最寄りのクライミングセンターで検索して見ると案外直ぐ見つかります。興味がある方は是非検索してみてはいかがでしょうか?
山川君はこのモチベーションの中、いつまで部活を続けられるんでしょうね……。




