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38話 青ル、煽ル、仰グ?

 拓けた鞍部を超えた先には水準点が設置されていた。水準点である石塔に刻まれている数値は1061メートル。あと少しだ。あと少しなのだ。俺は水準点から少し足を進めた所で視界を上げた。


「はぁ……?」


  思わず俺は声を漏らす。俺の口から声が出た声は疲れに満ちた様な声……もう勘弁してくれよ。とでも言いたそうな悲鳴の声であった。毛ヶ死山山頂目前にして俺の目の前には急な上り坂が待ち構えていた。山頂までの距離はおおよそ百五十メートルと言った所だ。そして、毛ヶ死山の山頂は1143.7メートル。現地点との高低差は百メートル近い。角度にして三十度。人が登るには少々厳しい角度だ。


  道は地獄の様な道だった。左の木に括りつけられたピンクテープを睨み、俺は大量の二酸化炭素を吐きながら体を前へと押し進めた。ほんの少しの時間だったのだろう。だが、酸欠寸前で頭も回っていない俺はその時間が異常に長く感じた。毛ヶ死山直前の登山ルートにはアカマツなどの植物も生えているが、山頂は名前の通り低木層が主で禿げていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


  俺は毛ヶ死山の山頂に着くや否や、ザックを急いで集積し、登山道から外れて地面に横たわる。


「急に動き止めたら危ないぞ」

「……」


 俺は大量の汗を流しながら虚ろな目で水筒の水を口に含み、少し気持ちを落ち着かせる。


 マジで死ぬかと思った。


  心臓の鼓動や動悸が収まった所で俺は重い腰を上げて周りを眺めた。景色はいい。だが、何も無い。毛ヶ死山から後ろを振り返ると先程俺達が登ってきた苛立山の姿が目に映った。俺には苛立山を登っている別の登山客まで鮮明に見えていた。


  あそこまで距離が離れていても案外こうして見ると近く見えるものだなぁ。山の山頂からは世界が小さく見えた。俺は今下界を見下ろしているのだ。


「あっ」

「おい馬鹿っ!」


  帽子が宙を舞った。


  素っ頓狂な声をあげたのは青山先輩と写真を一緒に撮っていた古岩先輩だ。二人は風に煽られながら写真を撮るのに夢中になっていたのだ。その矢先だ。



 毛ヶ死山の強い風に煽られて青山先輩の帽子が宙を舞い、彼方へと消えて行ったのは。


「待てっ!」


  青山先輩は必死に帽子を追いかけた。だが、当然何も遮る物が無い山の山頂で風に煽られた帽子は猛スピードで山底へと消えて行った。


「何をしよるんなぁ。青山ぁ!じゃけえ、キャップキーパー付けろ言うたやろ?」

「すみませんでした!」


  野原先生が声をあげた。何をしよるんなぁ!は広島弁で何をしているんだ!と言う意味を表し、語気はかなり強い。じゃけえはだからと言う意味だ。だが、野原先生の顔はそこまで怒っている顔では無い。どちらかと言えば呆れの表情だ。


  いつもは無関心そうな野原先生でも怒るのか……。俺はそこに一番驚いていた。


  野原先生が怒った点は二つだ。キャップキーパーを付けろと指示してあったにも関わらず青山先輩がキャップキーパーを付けていなかった事、それと山頂に着くや否や気が抜けて周りが見えていない様な行動を取った事に関してだった。


  やはり山でのマナーは徹底しておかなければならない。あとマジで毛ヶ死山は風が強く毛が死にそうだ。青山先輩の頭がハゲていたならば、帽子が飛んだ瞬間に笑いが起きていたに間違い無い。


「今度から気をつけろよ。お前ら今度帽子飛ばしたら、帽子を山頂で飛ばすことを青山と風が煽るって動詞をかけて青ルって言う動詞を新たに作るからな?」


  野原先生は最後にボケた。だが、ネタが全く面白く無かったからか笑いは殆ど取れなかった。


「……。休憩時間は十分とする」


  可愛い。


  野原先生は自分の小ネタが受けなかったのが悲しかったのか、少し拗ねた口調で言い放った。野原先生の強面もあってギャップ可愛い。


  冗談だった。和ませようとした……か。んんん。何でもない。


  帽子を失った青山先輩はザックからナルトが描かれている独特なタオルを取り出して頭に巻いた。いや、ラーメン屋かよ!?青山先輩の小肥りな体型と相まってその見た目はネタ感が強い。正直さっきの野原先生のギャグよりこちらの方が面白い。


  帽子を被る理由は影を作って頭部周辺の温度を下げたり、直射日光を避け、日射病などを防ぐ為である。登山は長時間行動をする為、日焼けもする。鍔が長いものを持ってくると良いだろう。帽子は帽子で中が蒸れて暑い為効果があるのかどうか微妙ではあるが、何も被っていないよりかは良いのだろうな。


  次の目的地である日出雲峠までは約一キロメートル。標高は百五十メートル下る。俺は次のルートを確認し、ザックに手をかけた。次のルートはあのピンクテープがある場所の方向だな。


  俺は登山ルートである緩やかな下り坂と地図を見比べる。


「次こそは転ぶなよ」

「わかってますよ」


 鬼登先輩は俺を煽る様に弄った。鬼登先輩俺があれだけ豪語していたにも関わらずさっき転んだ。という事もあって俺を馬鹿にしてるな?


 俺は少しムッとした。


 また激しいアップダウンがあるから……って、そこまで弄るか?でも、どうせ下るなら下るだけにしてくれよ。上下運動を繰り返す山道に俺は心の中で八つ当たりし、天を仰いだ。


  結局、青ルと言う動詞は不幸か幸いか、青山先輩が在学している間は後輩達が引き継ぐ事になり、主に弄り目的で使われる様になった。

 


キャップキーパー……山頂付近は風が強いので必須品です。帽子に関わらず、山頂付近で風で物が飛んだらほぼ取り戻すのは無理です。


酸欠……息切れが激しい時に休む際はゆっくりと歩きながら呼吸を整えた方が良いです。主人公みたいにこの状態で水を飲むと咳き込む危険性があり危険なのでやめましょう。酸欠の度合いが酷い場合は低山の場合酸素不足と言うよりかは過呼吸などの肉体的ショックや、精神的ショックも大きいと思いますので適切な処置をした下さい。 袋を口に当てて呼吸を整える方法は有効ですが、空気穴をキチンと開けとかないと窒息の危険があり危険です。一人は救急分野に詳しい人を同伴させる事を推奨します。 救急分野なども詳しくは大会編で解説しますので今は省略させていただきます。


※作者の私は実際に救急部隊にいた事があり、数回症状判断して応急処置を施し、急病人を、山から地上まで背負って下山した事があります。

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