35話 シラカバ
主人公の発言、脳内はある程度許して頂けると有難いです。山好きな方をバカにしている訳ではありません。寧ろ主は山好きです。主人公の心の成長に期待ですね。
高校生の先輩達を見送った俺達は、荷物を担いだ。
『←苛立山 2.0キロメートル』
俺はその看板を横目に見ながらキャンプ場を上から見下ろした。キャンプ場には川が流れており、俺達がこれから進む方向には滝が見えた。
『キャンプ場→』
と記されていた。苛立山は標高1148.9メートルの山で、木場山のメインルートとは少し外れているルートに位置する山で、白樺、ブナなどの木が主に群生している。現在のキャンプ場の麓の標高……詰まる所の管理センターの標高は八百メートル、登山道のスタート地点は九百メートル程なので、高低差は三百メートル程と山の中ではそこまで急な訳では無い。傾斜角度にしたら約8.5度である。
こう聞くとかなり緩く感じるだろうが、これはあくまで登山道の平均傾斜である。坂道はこれ以上に急だ。それに、先輩達が作成した山の断面図を見てみると毛ヶ死山の登りの部分などは距離八百メートルで二百メートル近く高度が上昇しているのが見て取れた。実に平均傾斜は15度。
あそこら辺の土壌はクロボクが多く分布している為、地盤も悪くタイムレースをするなんてあり得ない場所だ。苛立山から毛ヶ死山までの下りはそれ以上に傾斜が急だと言うのも馬鹿げた話である。タイムレースをしていたのが俺であれば体力的に登れないのはも勿論、下りで大怪我をする映像が目に浮かぶ。
断面図は先輩達が大会用に作成したものだ。製作手順は詳しくは知らないがかなり手間がかかった物らしい。大まかには地図の登山ルートを物差しで狂いが無い様に一定間隔で測り、その地点の標高を読み取りパソコンで打ち込みグラフを作っているみたいな事を聞いた事がある。概念図に至っては地図記号などを全てトレースしていた。登山ルートの傾斜が一目で分かる断面図はまだしも、あれは俺には何に使うのか全く理解できなかった。
俺達は登山道の分岐を左に曲がる。登山者が道に迷わない様に右側の木には赤いテープ、左側の木には黄色のテープが巻かれていた。
登山道の左側には巨大な谷があり、そこを滝から出た水が流れている。
「はぁ……」
急な坂道だ。坂道にも関わらず、滝からは流入する様な窪みは無いのに、登山道にはいくつもの川があった。そう。雪解けによって出来た侵食地形である。だが、それは途中から枯れ川に変わる。幾ら雪解けによって地面が侵食されているとは言え、まだ季節は春だ。水の川への流入量は然程多くは無い。
急な坂道を登り終えるとトラバースに入る。これは俺にとっての休憩タイムだ。周囲には笹の葉などがゆらゆらと風に揺さぶられて揺れている。トラバースの終わりに差し掛かる頃、野原先生からストップがかかった。ガチの休憩タイムである。
俺は上着を脱いだ。
「暑っ!」
「だから言っただろ?上着は暑いって」
身体を動かせば暑くなる。それは分かっていたが、まさかこれ程とは……。俺の衣服はびしょびしょに汗で濡れていた。今現在の気温はそこまでは暑く無い。寧ろ街中と比べたらかなり涼しいくらいだ。
湿度だろうか?
いや、それもあるのだろうが、それ以上に直射日光が暑い。山を登り始めて二十分。時刻は六時半だ。この間に太陽が一気に昇った。そう思わせる程に、登山を始めた瞬間と比べて日光は強くなっていた。山は太陽光を遮るモノが無い。木陰でも無い限り、太陽光は直に俺達を照らす。
それに、周囲の水や植物の葉の蒸散などで湿度はとてつもなく高くなっていた。湿度も暑いと感じる大きな要因だろう。
「ぷはぁ!」
水筒の水を一気に飲んだ俺は思わず声をあげた。やはり暑い中飲む冷たい飲み物は最高である。
トラバースを抜けると、当然再びな急坂道がよろしくとばかりに俺達を迎え入れた。尾根を登ると左右には巨大な谷が姿を見せる。この尾根を登ったら山頂か……。俺はそう念じ、筋肉痛の足を動かした。
だが、一向に山頂は見えてこない。クッソ。ゴールが見えねえ。
『→苛立山1.0キロメートル』
そんな俺に看板の文字が目に入った。ふぅ。少し落ち着くか。俺は落ち着いて周りを見た。自己中な怒りに任せて足を動かしていた関係か、俺は登山中、地図どころか景色すらまともに見ていなかった。
「おお」
綺麗な白樺林だ。こんなのマ◯クラでしか見た事が無い。俺は某建築ゲームのバイオームの一つを思い出した。現実の林で白樺林は広島県の様に暖かい地方では見れるところは少ないのだ。真っ白な白樺の幹は美しくそれが集まると一つの雪の様な景色にも見える。
雪とは違い、太陽の光によって白樺の木に映るのは光の反射では無く、葉の陰だ。白樺と共存する様にして生えているブナの木の明るい薄緑色の葉は白樺の白い幹によってより引き立てられ絶妙なコントラストを感じさせた。
湿度さえ、高くなければ良かったんだけどなぁ。季節が五月と言う事もあり、ブナの葉はまだ新芽だ。その為、普段の様子よりかは葉が少なく見えるのだろう。だが、逆にその小さく丸まった新芽は生命の息吹だ。
命を感じさせる新芽と朽を感じさせる白。絶妙なモノが持つ意味合いの重ね合いはこの時期にしか見られないのである。この時期はそう言う事もあって山菜採りも盛んだ。ただ、その場所が山菜を採取してもいい場所かどうかは事前に調べておく必要があるだろう。
苛立山……さっきマジで苛立ち山やな。とか思ってしまってすまなかったな。
だが、この一瞬の景色を見る為にこれだけしんどい思いをする。このどちらが良いのか俺はまだ決められなかった。いつか、この景色の方が良い。いや、先輩達の様に登山をする事が楽しいと思う事が出来るのだろうか。
俺は遠い目をして、揺らめくブナと白樺の林を眺めた。
断面図、概念図……詳しくは大会編で説明します。簡潔に説明しますと、断面図は登山道の断面を表す地図で、概念図は地図記号やルート、尾根、谷、エスケープルートなどを分かりやすく記した図の事です。安全管理の為、登山前に作成すると道に迷う事などは減ると思いますし、山の傾斜も一目で分かるので、心の準備も出来ます。
シラカバ……幹が白い事で有名な木。長野県などの比較的涼しい場所では山で無くとも良く見られます。
ブナ……明るい黄緑色の葉を持つ落葉広葉樹。葉は若葉の内は柔らかい毛が生えている。根から毒素を出す為、群生している場所はかなり珍しい。




