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29話 設営実演

「よし、着いたね。一応班長点呼取って。想定よりも時間回っちゃったけど、今から高校生達にデモンストレーションをやって貰おうと思うから集まって欲しい」


  俺達は今日の幕営地に到着した。俺達は鬼登先輩の点呼を受け、キャンプ場へと足を進めた。木場山のキャンプ場は下山ルートからすぐ側にある。どちらかと言えば明日のルートの場所の方が近いが、その距離の差も五百メートル位だろう。


  管理センターには大きめの駐車場が備え付けられており、中には売店が設置してある。トイレや、お土産屋さん、自販機、冷暖房全て完備である。登山靴の汚れを落とす為の空気を射出する機械まで入り口に設置してある徹底ぶりだ。それに加えてwi-fiまで完備してある。山とは思えない程快適である。


  駐車場には沢山の車が止まっており、他にもキャンプ客が複数いる事が窺えた。俺も車で来てバーベQしながら楽しむキャンプがしたかった。そう思いつつも、俺は幕営地へと向かった。


  駐車場を跨ぐとすぐにキャンプ場は見えてくる。そのキャンプ場には俺達が持ってきたテントとは比較にならない程大きなテントが設置されていた。ここではバンガローや、常設テントを使う事が出来る。常設テントは地面に固定されているテントで、元々キャンプ場にあるテントだ。テントを張る必要も無けれ

 ば、テントを回収する必要も無い為、キャンプだけを楽しみに来た人には一番良いだろう。


 値段もそこまで高くない上、テントすら持っていないけどキャンプしたいと言う人にも優しい為、かなり人気の高いテントである。


  だが、当然俺達はそんな所に泊まらせて貰えない。そんな中俺達を待ち構えていたのは高校生の先輩達だった。一足先に幕営地に到着した先輩達は既に定位置にテントを張り終えていた。ただ一つを除いて。


 その部隊は至道学園ワンゲル部の中でも最もエリート……A隊と言われている部隊だった。国背先輩の兄はその部隊の中でも唯一の高校三年生だ。先輩に聞いた話によると、他の学校は普通高校三年生まで大会に出るそうだが、至道学園は進学校の為、基本的に高校二年生までしか大会に出場させて貰えない。だが、その中で国背先輩の兄は特例処置を得て出場している。俺は大会が何をするものなのか知らないが、国背先輩の兄から溢れるオーラは俺達に何かを感じさせた。


 この人。只者じゃない。国背先輩同様に細い肉体だが、国背先輩と比べてかなり足腰に筋肉が付いている。それは長ズボンの上からでも容易に見て取れた。


「国背と言います。中学生にオレの弟がいます。デモンストレーションをするって話を聞いていたので今からテント設営のデモンストレーションを始めようと思います。テント設営はテントをザックから出す所から始めてテントを設営、ペグ、張り綱全部済ませて荷物も中に入れた状態でフィニッシュとするよ」


  国背先輩の兄……毎回その名前で呼ぶのもアレなので仮称でエースとするが、エースはザックを中心部に集積してニコリと爽やかな笑みを浮かべた。イケメンだ。高身長の爽やかイケメンである。


「主に中学三年生は見ておいてね。使うテントはエスパースタイプでポールの端とかがこの枠内から出たりしないか?とか細かい点にも注目して欲しい。」

「準備は良いかな?」

「ええ、いつでも」


  野原先生の問いかけにエースが答えた。そして、野原先生のストップウォッチを止める指が動いた。


「開始!」


  その合図が出るや否やエースは動いた。いや、エースだけでは無い。四人が同時に動いた。テントをエースが広げる間に残りの二人はポールをザックから出して猛スピードで組み立てる。


  いや、違う。組み立てながらテント本体にポールを通しているのだ。その為ポールは周囲の邪魔には一切ならない。だが、俺達がアレをやろうと思ったらポールがテントの中でうまく連結できずになかで分裂してしまいそうだ。


  その間にもう一人はペグを取り出し、テントの周囲にばら撒いていた。無作為にばら撒いている様に見えたが違う。ペグを打つべき場所に的確にばら撒いているのだ。ウレタンマットなどのマットも既にザックから出してあり、集積されたザックの上に乗せられている。


  地面に接しているのはペグとテント本体のみだ。


「「せーのっ!」」


  こうしている間にポールはテントを全て通った。そして、先輩達は合図を取るとポールを押し込んだ。これによってテントはテントの形を成した。早い!?まだ二分も経っていないのに!


「テント張るぞ。対角線!」


  そして、メンバーは二人対角線上に付いた。最初にメンバー一人がペグを的確な位置にばら撒いていたお陰でメンバーが定位置に付く速度は速かった。迷う事無くペグを打つ位置に付くと二人は合図を取り、ペグを打ち始める。二人の手にはいつの間にか軍手が嵌められていた。全員右利きなのか軍手は左手に嵌めていた。


  そして、その二人がペグを打ち終わる頃には残りの二人はウレタンマットをテントの中に敷き詰め、荷物も中に収納し終わっている。正に連携行動。それを意識した行動である。ペグの角度も完璧、打つ速度も速い。この領域になるとテントを張る程度作業なのだろうか?そう思わせる程にA隊のテント設営は手馴れていた。


  嘘っだろ!?俺はそこで更に驚かされる事となる。最初にメンバーがばら撒いたペグの位置……テントを張った後にもう一回調整はしているもののこれは完璧過ぎだ。張り綱様のペグの位置まで合っているのは流石におかしいとしか良い様が無い。この時俺は気付いていなかったみたいだが、これに関しては一足先に荷物をしまい終わった先輩が靴でテントとの距離を測って置き直して居たらしい。


  フライを被せ、フライもペグで固定し終えた先輩達は一斉に張り綱の所に集まった。


「せーのっ!」


  そして、張り綱を同時に引いた。



「!?」


  完璧。それ以外に言葉が出ない。正直に言うと綱の張り具合はかなり難しい。張り過ぎるとテントの入り口が閉まらなくなってしまうし、テント本体の形も不恰好になってしまう。だが、張り綱が緩いと浸水は免れない。それを一発で合わせるのはチームの阿吽の呼吸があってこそだ。一人足りとも無駄な動きは許されない。そう言わせる程の動きだった。


「四分弱」

「まぁまぁ、こんなもんかな」


  先輩達の設営は全部で四分かかっていなかった。ただ早ければ良いと言うもんでは無い。だが、完成度はほぼ完璧なのだ。俺はそれでも満足してなさそうな先輩達から底知れぬ力を感じた。


 



 



常設テント……常設されているテント。屋根も高く中で大人が立てる程の広さがある。安価で泊まれてキャンプを楽しめるのでおすすめ。ネットで検索したら出ます。

A隊……高校山岳部隊の一軍

連携……四人部隊と言うのは役割分担がしやすい人数だと個人的に思います。


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