27話 黒人パイプ
トラバースを俺達は進む。滑りそうな苔の生えた橋を慎重に渡り、俺達は緩やかな左カーブに入った。そこで俺は気付く。地面の土が違う……。サラサラなこの土は……鬼登先輩が言っていたまさ土でほぼ間違い無いだろう。橋を過ぎて少し進むと左に尾根が見えた。
俺達は今先程見えていた小高い丘のピークの真横に来ているのだ。木で出来た階段を更に下ると大きな岩が道の半分を塞いでいた。右下の崖を確認するとその崖には大量の笹が群生している。
トラバースを終えると、再び看板が目に付いた。
『管理センター2.2キロメートル 立煮干駐車場1.3キロメートル』
地味に結構歩いている。トラバースだったからだろうか?あまり距離を歩いた様には感じない。最初の様な苦痛は殆ど感じていなかった。だが、数時間歩き続けた影響か俺は小指の痛みに顔を歪めた。靴擦れである。登山靴には慣れていないのだ。指が痛くなっても仕方が無いだろう。息が苦しくないだけまだマシだ。
管理センターは今日の行山の終着予定点である。若干看板の距離数値がおかしい気がするのだが、俺はそれを気にしては居なかった。もう既にそんな事はどうでも良いのだ。とにかく早く休みたいのだ。そもそも登山なんてしたくないのである。
ピンクテープが張り巡らされているコルを少し進むと俺達は尾根の上へと乗った。ベンチが等間隔で設置されているが、壊れており、しばらく整備されている気配は無い。設置されている看板にはスカイラン実施の旨が書いてあった。この山は県民の森と言う事もあってしばしばトレイルランの大会が開催されている。俺の大叔父もそのトレイルランの幹事の一人である。その事もあって結構頻繁に登山道を整備しに来ている様だ。
右側には大きな谷が出来ており、滑落でもしたら一貫の終わりである。谷の底まで真っ逆さまだ。登山道が、それなりに広く滑落防止の為か、木々が植えられているものの、登山道ギリギリを歩くのは怖い。
しばらく尾根を進むと道は大きくカーブしていた。ほぼ折り返しである。道を間違えない様に折り返し地点の木にはピンクテープがちゃんと括り付けてあった。若干下り坂になっている道を下ると、右側の崖に大きな起伏がある事が読み取れた。勿論読図カードは設置されていたが、俺達中学生は歩行ペースが遅い事もあり、毎回読図をしていたら時間が無くなってしまう。その為、野原先生が軽い説明をして大体はスルーしている。
谷を伝って流れてくる小さな川を跨ぎ、
先に進み、窪地を超えると地面からは黒色のパイプが露出していた。そのパイプは山の水を排水していたり、県民の森管理センターに水を供給していたりと用途は様々だ。冬季に登山道が凍って危険な時に温水を流して表面の氷を融解させると言うのが冬シーズンの主な使い方だろう。先輩達は黒人パイプと呼んでいるが、何か他のネーミングは無かったのだろうか……。偏見ではあるが、確かに暑い地域に住んでいる民族や黒いパイプのイメージや役割から意味は合ってるのだが……。
大きなカーブを右に曲がり緩やかな道を進むとすぐに展望殿地だ。しかし、展望殿地手前で俺達は立ち止まった。道が分かれているのだ。幸い、その場所を少し進んだ場所に看板があったから良かったもののこの看板が無かったら二度手間になる所だった。登山道が記されている地図には一本しかルートが書いていなかった。
地図を見ればどちらに曲がるのかは容易に分かる事ではあるが、せめてもう少し手前に看板を設置して欲しいものだ。分岐点を少しだけ過ぎた場所に設置してあった看板にはこう書いてあった。
『展望殿地0.4キロメートル』
うん。この看板は要らない。俺達は分岐点を左に曲がり、砂利道を進んだ。その結果俺達は展望殿地に着くことが出来た。展望殿地の右側には小さな小屋がある。だが、小屋の方向に進むと展望殿地への登山ルートから外れてしまうと言う盛大なトラップである。
「よし、十分間だけ休憩を取ろう」
時計の針は既に十六時を指していた。マジかよ。俺達は五時間近く歩いていた。俺は鬼登先輩の指示に従って荷物を集積すると展望殿地にあるベンチに腰掛けて水筒の水を飲んだ。水筒の中からポツリと雫が滴れる。
「やべ。水切れた」
俺は絶望した。結構沢山入れていた筈の水がもう全て無くなっていたのだ。それもそうだ。俺のザックの背中は汗でビショビショに濡れており、俺の服も汗が絞れそうな程濡れている。これだけ登山は汗をかくのだ。
「俺の水を使え」
「良いんですか?」
「どうせ、こう言う奴が出てくると思ってたわ」
絶望している俺を見た鬼登先輩はため息を吐きながら俺の方へと近づいてプラティパスのチューブの口を俺の水筒の上に近づけた。鬼登先輩がプラティパスのチューブの口を摘むとプラティパスの口から水が溢れた。五百ミリリットル程水を補給した所で鬼登先輩は口を摘むのをやめた。
「予備の水も持ってるから気にすんな」
「ありがとうございます」
予備の水を持つと言う事は重りを持つと言う事だ。だが、それを物ともせず後輩に水を分けてくれる鬼登先輩はカッコよかった。そして、俺は行動食の溶けたチョコレートが付着した銀紙を舐めた。
「チョコはマ◯ブルチョコとかだったら溶けないぞ。ほらそろそろ時間だ。行くぞ。ザックアップ」
「はい」
あと少しで今日の行山は終わり。俺の腹が大きく鳴った。五時間も歩き続けたんだ。幾ら行動食があるとは言ってもお腹も減るだろう。
飯が食える。それに休める!俺は気力を振り絞ってザックを背負った。そんな俺の足は既にぷるぷると震えており、体中が痛かった。脚だけでなく、重心が後ろに下がっていた影響か、胸などの部分も痛い。管理センターまであと一キロを切っているし展望殿地からは下り坂だ。もう楽になるだろう。俺はそう思った。
まさ土……ここで示しているのは風などで堆積したタイプのまさ土。水はけが良く、サラサラしている。崩れやすい為、注意。土砂崩れなどが起こりやすい。
黒人パイプ……先輩達が名付けた非公式の名前の黒色パイプ。冬季などに路面が凍結するのを防ぐ為に使う。中に水を流す事で、路面の雪や氷を溶かしてスリップなどを予防する安全装置。飲み水で使われるパイプは別にある事が多い。黒人パイプは直径20センチ位の割と大きめのパイプである事が多い。
行動食 (チョコの場合)……チョコは溶けます。マ◯ブルチョコの様な外がコーティングしてあるタイプのチョコレートは外と中の融点が違う為、溶けないです。山でチョコ食べたいならコーティング系のチョコレートをお勧めします。私個人的には羊羹が好きです。高カロリーのメイト系やグミや飴系などが一般的だと思いますが、これも結構ベトベトしますね。基本的に砂糖使ってるものは全部ベトベトします。




