↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/122

26話 情報不足ポイントの読図

 俺は悩んだ。今俺達が居るのはどこだ?左右の地形を確認しようにも、生い茂る木々が邪魔して良く見えない。辛うじて見える左右の尾根や谷の僅かな起伏も数が多過ぎて特定出来ない。


「今回は難しいだろ?」


  倉尾先輩は眼鏡を押し上げて地図を確認すると俺の方を振り返って尋ねた。ああ、難しいってもんじゃない。左右の谷の起伏がどこの起伏なのか一切分からない。俺が歩いた距離はどれくらいだろうか?当然、ここまで地形や地図を全く意識していなかった俺がそんな物を覚えている訳が無い。


「山頂から近い地点だと自分が歩いた歩数で、大体の距離を見るってのもあるが、それは大きな誤差が出るし、実用的じゃない」


  俺があたふたと指を折り曲げて歩数を数えている様子を見た倉尾先輩は俺の肩を軽く叩く。


「登山中に毎回歩数数えるなんて、楽しくないだろう?」

「はい」


  そもそも登山自体があまり楽しくない。俺はそう思い始めていたが、それを言う訳にもいかない。先輩達は登山をするつもりで来ているのだろうが、俺はキャンプをするつもりで来たのだ。意識の違いによる解釈は仕方がないと見るべきだろう。


「俺が前に言った読図のポイントは覚えているかい?」

「あ、はい、傾斜と周りの山の起伏、地図では無く自分の目で景色を見る事です」

「まだ合った筈だ」

「……」


 


  出てこない。これ以外に大きな読図のポイントが何かあっただろうか?


「近くでは無く大きな地形……つまり尾根全体で見ろって事だ。あと、車道横切った時、手前にエスケープルートがあっただろう?あれもポイントだ」


  エスケープルートは先程の分岐点に記載してあった。エスケープルートは山を登っている途中に怪我人などが出た時にも使える登山道だ。登山道は途中で降りる道が少ない為、幾つか途中で離脱して下山出来る通路を確保する事も大切なのである。


  話が逸れた。


  倉尾先輩の指示に従って俺は地図を見る。


「大きな地形……大きな地形……」

「ちょっと待て、後ろに下がって右後方の尾根を辿って歩いてみろ」

「あ、はい」


  俺は尾根を指差しながら歩いた。するとその尾根は反対側の谷の方へと連なっている事が判明した。しかもその横の谷はかなり大きな谷だ。そして、その尾根の角度は隣の車道とほぼ平行であった。


「ここだ!」

「正解。やるね」


  俺は倉尾先輩のお陰で現在地を見つける事が出来たものの、車道が無かったら倉尾先輩のヒントがあったとしても俺は分からなかっただろう。それに、倉尾先輩は俺に教え始めた時点で既に読図をやり終えていた。俺はこの知識と経験の差を三年間で埋められる気がしなかった。


  水分補給をした俺達は時間が来るのと同時にザックを背負う。


  先程俺達が読図を行った場所から数分。看板が目に入る。


『展望殿地3.2キロメートル、馬野神社3.9キロメートル』


「え、3.2キロ……」


 俺は思わずえづく。展望殿地は立煮干駐車場の次の主要地点だ。そこまでの距離は俺が予想していたよりも遥かに長かった。嘘やん。俺は心の中でそう呟く。だが、馬野神社から俺達はかなりの距離を歩いていた。それも実感できた。


「お前なぁ……3.2キロって言ったってこの鞍部はほぼ平地だ。平地の直線距離なんて大した事無いだろ」


  俺の表情から何かを察したのか、鬼登先輩はため息を吐いた。確かにそうだ。急な坂道での3.2キロと平地での3.2キロは全然違う。俺はそれを失念していた。俺達は笹の尾根をひたすら歩く、看板があった場所から少し進むと道は緩い下り坂へと変化した。




  コルの中心部を超えると、道は再び上り始める。だが、その上りもすぐに緩い下り坂へと変化した、そこから始まる下りの石階段を数段降りると遂に次の主要地点である立煮干駐車場が見えてきた。下りの終わりは自然歩道の入り口で分岐した車道と合流している。そして、目の前には分岐を示す看板があった。


『↖︎煮干山0.3キロメートル →展望殿地2.8キロメートル ↓馬野神社4.3キロメートル』


  分岐地点の横には二又に先が割れた特徴的な木が立っている。今回のルートでは立煮干山は登らない。


 立煮干山は標高1299メートルの山で木場山一帯では一番標高の高い山だ。この山の近くには島根県との県境があり、県を跨ぐ山である。


 今からはキャンプ場に向かって下山するルートだ。立煮干駐車場の分岐から大きなカーブを曲がるとすぐトラバースが始まる。つまる所、それは道の傾斜が緩やかな事を示している。俺はその事実にほくそ笑んだ。道を大きく曲がり、俺達は看板の隙間を潜って分岐を大きく右折し、左にある巨大な谷を横目に別ルートの登山道へと入った。


  登山道に半分食い込んでいる巨木を避け、俺達はカーブを進む。トラバースを終え、大きなクネクネ道を進むと傾斜は坂道に変化した。とは言ってもすぐ側にピークが見えている為、そこまでの傾斜では無い。周囲の木々はヒノキなどが主に移り変わっている。



  それから俺達はピークと鞍部を交互に三回程繰り返した。最初のピークの近くには分かりづらい尾根がある。そこには読図カードが設置されており、単純にピークでポイントを取ると間違えてしまうと言う引っ掛けポイントになっていた。当然俺はそれにまんまと引っかかった。


  二つ目のピークには石柱が埋め込まれており、石柱の隣には朽ちて今にも崩れそうなベンチが設置してあった。石柱には様々な意味がある。山のピークを表す三角点の意味である物が多いが、登山道の道標、方角を表す物、戦時中の航空指標など様々だ。


  三つ目のピークには大きな木の根っこが登山道を跨ぐ様に道を塞いでいた。だが、この程度は跨げば問題はない。今更だが、ピークと言うのは尾根の頂点。詰まる所、一番凹凸が盛り上がっている場所である。


  三つ目のピークを越えるとやや急な下り坂が現れる。分かりやすい傾斜変化だ。その下り坂を下ると当然再び上り坂だ。坂を下った俺達の目の前には小高い丘が聳え立っている。また坂か……。だが、俺は地図を見て既に分かっていた。ここから小高い丘を越える為に再びトラバースする事を。




ピーク……尾根などの一番高い場所(頂点)

石柱……様々な意味を含む脛程の高さの長細い石柱。一番メジャーなのは三角点。三角点の場合は水準点とも言い、測量の基準になっていたりします。その他、方角、道標、戦時中の目印等

傾斜変化などの情報が少ないポイントでの読図……横切る尾根、谷、大きな地形での視覚情報と照らし合わせるのがやりやすいと個人的に思ってます。

エスケープルート……登山中は何かあっても直ぐには地上に戻れません。その為複数のルートが登山道のルートに分岐下山ルートとして含まれています。それを事前に確認しておきましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。