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25話 分岐と車道

 やっと山頂が見えて来た。獣王山山頂付近に近づくと、登山道は更に綺麗に整理されていた。拓けた荒野にはプレハブ小屋の様な物が、複数建っており、登山道には木製の階段と石階段が設置されている。山頂付近の分岐を示す看板には


『馬野神社 1.8キロメートル』


 と記載されている事から俺達は相当歩いて来た事が窺えた。


 俺達を追い越した高校生グループは既に『獣王山』を出発していた。高校生達が熊野神社を出発してから早三十分。それ位の時間である。それに対して俺達は休憩を含めると約、一時間半もの時間を要した。


「よし、じゃあ十分ほど休憩を取ろうか。次は『立煮干駐車場』方面に向かうから地図を見ていてくれ」

「「ザックダウン!」」


  山の山頂に着いたってのにせっかちだなぁ。俺はそう思いながら鬼登先輩の指示に従って荷物を集積した。でも十分も時間があれば写真撮影位は出来るだろう。展望は良し、景色は大きく開けている。


  山頂に着くや否や俺の疲れていた身体にエネルギーが注入された。元々叫ぶつもりなど無かったのだが、自然に俺は腕を大きく広げて叫んでいた。




「やっほーー!!!」


  俺の声が山の間でこだまして反響する。気持ちがいい。


「ち◯こーー!!!」

「は?」


  隣で何か卑猥な声が聞こえた。全てが台無しだ。そしてその卑猥な声は大きく山の谷間で反響する。もう既に分かっている。茂木だろう。流石にそれはヤバイだろ……。


  案の定、茂木は野原先生に注意を食らっていた。幾ら山の上だとは言え山は公共の場だ。そんな場所で卑猥な事を叫ぶなど、街中で卑猥な単語を叫んでいるのと同じなのだ。奴は自粛と言う言葉を覚えた方が良い。俺はそう思った。


  だが、俺の言葉がベタ過ぎたのか山猫はニヤニヤと口元を綻ばせながら俺の肩に手を置いた。


「ちょっとベタじゃないのか?」

「ベタで良いんだよ。これ以外に言葉が浮かばなかったんだ」

「そうか。普通に叫ぶだけで良かったんじゃね?」


  いや、それもほぼ変わらんやんけ。俺はそう思ったが、敢えてそこには触れない。俺は山猫の汗でベタベタとした手を払い除けて、地面の岩の上に座る。


「写真でも撮るか?」

「良いな、それ。でもどうせならみんなで撮ろうよ」


  山猫はスマホを取り出し、周りの一年生を集めた。タイマー機能を使った写真撮影だ。


「あれ?上手く撮れないな」


 写真撮影後、撮れた写真を確認するとその写真には誰一人として映っていなかった。完全に逆光だ。雲一つ無い空から降り注ぐ日光により、タイマーによる写真撮影は困難だった。


「どうする?」

「ああ、私が撮るよ」


  野原先生だ。どうやら部活の活動誌に載せる写真を撮り忘れていたらしい。野原先生は、俺達のプライベート用の写真と活動誌用の写真二つを撮ってくれた。そして、こんな事をしている間に時間は来た。


「ザックアップ」


  各メンバーは各班の元へと戻り、隊列を入れ替える。ここが山頂という事もあって次の立煮干駐車場まではほぼ下りだ。下り坂は楽だ。俺は心を撫で下ろした。


「次からは下りに入るが、そこまで急な下りじゃねえし、クロボクの様な滑る要因も少ない。だから無いとは思うが転けるなよ?」

「?」

「ああ、クロボクは腐葉土とかが完全に分解されてない状態で出来る土の名称で、名前通り黒い土だ。かなり滑りやすいから注意が必要だな。今日のルートだとクロボクよりもまさ土が多い。まさ土は花崗岩を主成分として作られている土でここでは黄色の物が多い印象だ。そんで、それも表面がぼろぼろと崩れて割と滑りやすい。とにかく細けえ事は良いから滑って転ぶなって事だ」

「分かりました」


  地図を見るとここからは下りとは言ってもほぼ平坦な道を行く。ここまで注意されている事もあり、俺も警戒するし、流石に滑る事は無いだろう。後から聞いた話だとまさ土に関しては色々ある様で、表面に分布しているのは主に水はけの良いパラパラとした砂で、崩れやすく、危険。地中に分布しているものはそのパラパラとした物と水はけの悪いぬるぬるとした土が混ざっている感じだそうだ。


  主に地上で俺達が足を踏みしめる部分は風などで運ばれた物が主である為パラパラの物が多い。ズルズルッと足を滑らせない様に注意が必要である。




 俺達は、獣王山を降りた。左右にある笹の葉を掻き分け俺達は登山道を下る。右側にはこの先に車道がある事を表す看板が立っていた。獣王山を下ると傾斜は一気に緩やかになる。巨大な鞍部だ。


 左右から車が来ないか俺達は細心の注意を払いつつ、車道を渡った。標高1200メートルを超える場所でも車道は普通に通っているのだ。今俺達が向かっている場所が、立煮干駐車場って名前の時点で察しだろう。今の時代、ある程度の低山であれば車でキャンプが楽しめるのだ。


 一瞬俺達は何故ここまで歩いて来たのだろうと思ったが、それは口に出さない。そもそもバスで木場山までかなりの時間をかけて来たのに何で山だけ歩いて登るんだ!って言ってしまったら本末転倒だ。


 俺達は歩きやすそうな車道を横切り、真横の登山道へと入る。登山道は車道に沿って盛り上がっている為、ルート的には車道とほぼ変わらない。ここ歩くなら車道歩きたい。俺はそう思った。斜めがかって登山道にこんにちはしている木を跨ぎ、長い鞍部を眺める。若干下りだ。

 そして、周囲の植物は完全に陰樹林から陽樹林へと変化していた。ブナや、ヒノキ、笹など比較的視覚的にも明るい植物が周囲を覆う。登山道のすぐ左には車道があるものの、その左は大きな谷が出来ており、良く見えない。


 反対側は少し盛り上がっているものの、そこの更に右側には大きな谷があった。その事から自然歩道と呼ばれているこの場所は大きな尾根の一部である事が分かる。そんな中前方にピンク色のカードが見えた。


 読図カードである。


「よし、ここで少し時間を取るから読図をしてみようか?」


  野原先生は立ち止まった。ここで!?俺は少し動揺した。読図の一番のポイントである傾斜。これが殆ど無い……いや、ほぼ一定で、カーブもそこまで無いこの場所で読図をするとは思っていなかったのだ。いや、だからこそであろう。山は普段から油断をしてはいけないのだ。


  もしもの時、その時になって確認を始めたのでは既に遅いのである。


 


分岐看板……登山道が分岐する場所にある看板。分岐先の方向と大体の距離を示してます。自分が通っている登山ルートを確認するという意味でも大事な目印の一つです。


車道……山中にも結構通ってます。結構飛ばされている方が多い印象なので、飛び出し注意です。


山でのマナー……一応山は公共の場だと言う意識を持つ事は大事です。


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