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【完結】人見知り歌姫は不機嫌王子を眠りに誘う  作者: HAL


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2.いざ帝国へ


 やっと着いたわ帝国に……


 イグレア国からエンドール帝国までの道のりは、転移魔法陣を使いまくって時短による時短。時間はかかってないけど、転移陣を多用しすぎても負担になるから、休み休み来たのよね。

 まぁ私はあんまり負荷はかからない体質みたいでケロッとしてるから、国から付いてきた侍女と騎士や魔導師の為(転移陣を使う為と護衛よ。一応姫だし)だけど。

 早速担当者に引き継がれて、私達は用意された部屋へ案内される。勿論身元の確認はしっかりと。婚約者候補のフリして皇太子を暗殺―――なんて事もあるだろうし。

 うちみたいなしがない田舎国は体裁を整える為に来た、くらいの認識しかされて無かったけどね。

 私、ほら地味だし存在感薄いし。

 お前が…?みたいな顔をされるのを何度となく経験しました、はい。


 侍女以外の二人は流石に王宮には警備上留まれないので、彼らは私が帰国するまで離宮にある騎士の宿舎みたいな所で寝泊まりするらしい。

 今、離宮を使う王族は居ないらしく(伴侶のいる王子とか、昔は側妃が住むためのものだった)、今回の婚約者選びの為に使えるようにしたんだって。

 王宮の方はよくわからないけど防犯の為の魔法がかけられていて、おいそれと部外者は侵入出来ないし、ご令嬢方がライバルを蹴散らす為に悪さしようとしても出来ない仕掛け(・・・)があるそうな。システムに関しては秘密ですよ、当然。

 ま、私如きの田舎娘に何か仕掛ける国は無いと思うけど。存在感無いし。

 案内された部屋は侍女と隣続きの部屋で、貧乏国の私からすれば充分上等なお部屋。まぁお金持ちのお姫様達からは文句出そうだけど、私はこの位でいいです。広すぎたってすること無いし…。


 侍女は衣装なんかを収納(手伝おうとしたら止められた)、私は部屋の内部や避難経路を確認していたら、さっきの案内してくれた騎士さんとは別の、侍女服(と言ってもドレスじゃなく、メイド服より上品なお仕着せ)を着た女性がやって来て案内を申し出てくれた。



「ルーナ・エルモアと申します。何かお困り事が御座いましたら私共『候補者担当侍女』へお申し付け下さい。同じ制服の者が担当者ですので分かりやすいかと」



 丁寧だけど一国のお姫様にする態度としてはちょっと軽いのかも?

 私は不快じゃないけど、うちの侍女がピクリと反応してたからね。まぁ何も言わないですよ、弱小国だし。

 多分だけど、この人身分が結構上の貴族女性だと思うのよね。そして、候補者はあくまでも候補者で、皇太子妃でもない人には必要以上敬意を払わない、っていうスタンスなのかも。ここでは皆一律の扱いです、って遠回しに宣言してるのかもしれない。

 私はその辺の事情知りたくもないので、受け身のまま波風立てず穏便にお勤めして帰国したい。



「ありがとうございます…」



 人見知り令嬢ではあるけれど、お礼くらいはね。人としてしなくちゃね。

 いざ!と人見知りを発動した私は侍女の影に隠れながら、ルーナさんの案内でお城見学ツアーへと繰り出した。侍女のマルティナは呆れていたけど。


 私達婚約者候補は来賓ではあるけれど、監視対象でもあるので、自由に出入り出来る場所は決まっている。庭園、図書室、第三ホール。庭園っていっても一つじゃないし、森レベルに広いし、図書室も巨大図書館って感じの蔵書量。第三ホールは婚約者候補とその侍女が食事をする場所で、なんとビュッフェ形式……!

 バイキングよ食べ放題だわキャッホー!!

 ―――と叫びたい気持ちを抑えて、神妙な顔して案内受けてました。真面目に。


 それにしてもこの侍女さん凄いな。

 大抵の人は私のこの人見知りステルス機能で視線が合わなくなったり、見失われたりするんだけど、ルーナさんはずっと私の方を向いて説明してくれた。プロフェッショナル…!



「―――説明は以上となります。何かご不明点やご要望がありましたら都度対応致しますので」

「あ、ありがとう。帰国日まで宜しくね」「………っ、はい。それでは私はこれで」



 ルーナさんが心なしか肩を震わせているように見える。



「……姫様。お立場上、帰る事を前提にお話されるのはどうかと思いますよ」

「あっ!」



 忘れてたよ。私が婚約者候補でここにいる、って事を。

 やっちまった、と、マルティナの背中に隠れてルーナさんに貴族令嬢がやる淑女の小さな手の振りをして見送った。彼女は更に肩を震わせて去っていったけど。知らない!






 夕食時のホールは「オホホ」「ウフフ」のマウント合戦かと思いきや、思ったほど人が居なくてまばら、というか、候補の人は少なくて、侍女さん方がカートに食事を乗せて去っていく姿ばかりが目に入った。

 皆、部屋で食事を取るのか。

 人見知り令嬢の私ですらこうして出てきたというのに。



「姫様。そういうのは姫様らしいご衣装を着てから仰って下さい」

「うぐっ」



 そう。

 今の私は地味な、一見侍女に見えそうなというかバッチリ見えちゃう服でバイキング会場(※違う)に潜入しているのだ…!


 いやー、だって帝国の、しかもお城の料理だよ?色々食べてみたいじゃない!

 給仕の人も殆ど居ないし、自由に取って食べられるなんて最っ高…!ありがとう、皇太子様。お嫁さんにはならないけど、小旅行だと思って楽しみます!! 

 取り敢えずは食べるぞー!と、マルティナと二手に分かれてお皿を山盛りにしていった。

 


「まさか…貴女、イグレアの…」

「ふえ?」



 だがしかし。

 悪い事は出来ないもので。

 大口開けてパイに齧り付いていたとこを、なんと、あのルーナさんに見つかってしまった。

  


「お、美味ひぃでふ…」

「…………」



 どうしたって止められない。

 もぐもぐ咀嚼しながら少しずつ距離をとってこっちへ来たマルティナの影に隠れた。今更だが。



「…っ…ふ、ふふ、そ、それは良かったです…わ……」



 ルーナさんは頑張って耐えている様だけど、もういっそ笑っちゃった方が早いんじゃないかな、と思うくらい隠せてなかった。涙まで見えるし。

 ひとしきり笑って?満足したのか、ルーナさんはふぅ、と深呼吸してから初対面の時とは違う、人懐っこい笑顔を見せて言った。



「ライト様は候補者全員が揃ってから立食式の晩餐会を開いて、皆さんにお会いするそうです。それまでは皆様、あまりこちらにはお出でにならないようですね」



 なるほど。

 皇太子に会えないならわざわざ出てこないわ、って事か。尊き人々の思考は分からないわ。一箇所で飲食してくれた方が準備も片付けも楽なのにね。



「そんな風に言うのは姫様だけです」

「え!口に出てた?!」



 マルティナとひそひそ話。

 人見知りだけど心の中と身内にはお喋りなのよね、私。だから前世もリアルは見せないVTuberやってたんだけども。



「シンシア様は楽しい方でいらっしゃいますね」

「!」



 シンシア。

 そう、私は姉の代わりにここに来てるんだ。粗相は出来な―――いや、粗相して早めに失格にしてもらった方がいいのでは?

 でも、私の思い付きに気付いたのか、マルティナにギロリと一睨みされる。普通に怖い。



「……姫様。お転婆(・・・)は程々に、です。さ、こちらのデザートをどうぞ。お好きでしょう?」

「ティラミス…!」



 わぁん、美味しいよぅ…!

 うちの国、果物採れるし生クリームもバターもあるのに肝心のパティシエがいなくてね。簡単なケーキ位は作って貰えるけど、前世にあったような凝ったデザートは無いんだよね。

 あー、ティラミスも美味しいけど、このダブルチーズケーキみたいなのも、苺のカスタードパイも美味しすぎる…!

 帝国万歳!!

 招いてくれた皇太子にもちょっとだけ感謝よ!



「……シンシア様は皇太子殿下に興味は無いようですね」

「私は……この通り、人見知り……でして。田舎でのんびり暮らすのが性に合ってるんです。とても、皇太子妃なんて……務まりません」 



 お皿に視線を向けたままそう答える。

 ゲームのシンシアは皇太子に会って、婚約者がいたのも忘れる程彼に夢中になって争奪戦に参加してたみたいだけど、私が代わりに来たからその未来の可能性は潰れたはず。



「晩餐会も壁の花をキープして乗り切ります」



 顔を上げてルーナさんを見る。

 彼女は笑顔とも不快とも違う、何か複雑な、思案するような表情で私を見つめていた。



「残念です……貴女のような『愛し子』が我が国に残って下ったら良かったのに」

「!そんな、買い被り、です」

「本当ですよ。我が主は少し気難しい所がありまして。シンシア様のようなお人柄であれば、とは思ったのですが……もし、妃候補者にならなくても良い、とするならば……お力を貸していただけますか?」

「それは、あの、は」

「お待ち下さい。姫様、そう簡単に口約束してはなりませんよ。言った言わないで国際問題待ったなしです」

 


 ルーナさんからのお願いに勢いで返事をする所だった。マルティナ、止めてくれてありがとう〜。流石私の侍女!



「申し訳ありません。この通り、人見知りで内に籠り、世間知らずの姫様ですので……至らぬ点はご容赦下さいませ」

「いいえ、私の方こそ焦りが出てしまい申し訳ありません。どうかお気になさらず。シンシア様のご意向はしっかり記しておきますので、大丈夫ですよ」



 あっ、やっぱり査定されてたんだ…!

 落選のハンコ、しっかり押しといて!

 

 マルティナがルーナさんの相手をしてくれたので、私のボロは出ずに済んだ様子。

 帝国怖い。


 ルーナさんが去って、私達は食事を再開したけど、何だかさっきの事で味がしなくなっちゃったからお腹もそこそこにして部屋へと戻った。マルティナはちゃっかり軽食として少し頂いてきてた。流石出来る侍女。


 ルーナさん、何か複雑そうだったなぁ。

 彼女も20代前半かな、若そうだけど攻略対象者だったろうか。

 私はテストプレイをちょこっとしただけだから、皇太子が女の子を口説きながら国を再建するゲーム、って位の知識しかないしなぁ。ハーレム作って国を強くする的な?

 お姉ちゃんが結婚さえしちゃえば、国として協力する方向でいけるし。皇太子と会わせないようにすれば、うん、何とか大丈夫。

 だってさー、ゲームのビジュアルだけどここの皇太子って………イケメンなんだもん。前世の私のどストライク。声優さんもばっちり。あぁ…あの女っ誑しの性格じゃなければ、って涙したわよ。


 そっか。

 あの顔面どストライクの男に会えるのか……うん、ちょっとだけ楽しみに思えてきた。ほんのちょっとだよ?

 






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