第6話 カーラの部屋
カーラのお部屋へご案内します。
ミミとマックスが住んでいる家には、魔道人形のカーラのための部屋がある。元は子供部屋で、宿を営んでいる息子がかつて使っていた部屋だ。部屋は2階にあるが、カーラは魔法が使えるので移動するのに問題はない。
今日は風魔法でふわりと自分の体を浮かせて、トスッと軽い音を立てて2階の廊下に降り立った。
「マックスはまたどっか行っちゃったし、ミミはまた買い物中にお友達につかまったのかしら?」
二人がいないと、家の中はとても静かで不思議な感じがした。コトコトと歩く音がいつも以上に響く気がした。自分の部屋の前まで行くと、ドアにカーラ用の小さなドアがあった。マックスがずっと前に作ってくれたドアだ。この前壊れかけたのをソーヤが直してくれたばかりだ。
カーラが押すとスムーズにドアが開いて、温かい日差しがあふれた部屋が現れる。カーラはこの瞬間がとても好きだ。床には薄いがかわいい柄のついた敷物が敷かれている。かつてミミが冒険者だった時に隣国で見つけて気に入って買ったものを、カーラに譲ってくれたのだ。
入って左手には書き物机が置かれている。椅子はないが、その代わり窓側の方にカーラが使うのにちょうどよいサイズの梯子が取り付けられている。カーラが上りやすいようにと斜めに立てかけてあるのがポイントだ。書き物机の対角上にはベビーベッドが置かれていて、こちらにも同じように梯子が取り付けてある。ぐるりと囲んでいた柵の一部が切り取られて、カーラが上り下りしやすくなっていた。
カーラは少し悩んで、
「今日は久しぶりに梯子をつかってみようかな」
と、書き物机の方のはしごをゆっくりと慎重に上った。人形の体の動きはどうしても少しぎこちない。魔法の方が断然楽なのだが、たまにカーラは梯子で上るのを楽しむのだ。ゆっくりゆっくり上って、机の上に立った。
「登頂!」
一人ではしゃいで、机の上を見回す。カーラにちょうど良いサイズの衣装ダンスが一つ。カーラサイズの机と椅子。ミミのロッキングチェアにそっくりなミニロッキングチェア。
カーラにちょうど良いサイズの衣装ダンスは、手先が器用な宿の常連さんが本当に使えるものを作ってくれた。ミニロッキングチェアは、近所の人がプレゼントしてくれたもので、カーラサイズの机と椅子はマックスとソーヤが作ってくれたものだ。
カーラは衣装ダンスを開けた。中にはちゃんとカーラが着られる服が2着、ハンガーに下げられている。ミミが作ってくれたものだ。夏用と冬用のドレスで、どちらもカーラは気に入っている。カーラは暑さも寒さも感じないが、季節が感じられる服はなんだか人間だったころの様でくすぐったい気持ちがする。
衣装ダンスの扉を閉じると、カーラはベビーベッドへ魔法で飛ぼうとして、壁にかけられた古風なレースと少し濃いめの青色のワンピースが目に入った。マックスの最新のお土産だ。
「本当に着られたらいいんだけど」
本当は着てみたいが、なんだかマックスに悪い気がする。それに、マックスが買ってくる服はカーラの好みど真ん中なので、眺めるだけでも嬉しいのだ。
カーラはベビーベッドまで魔法で飛ぶと、きちんと整えられた糊のきいたシーツの上に降り立った。そのままポスンと座り、少し迷って仰向けになった。眠る必要もないけれど、こうやっていると、本当に眠れそうな気がする。ベッドの天井には、ミミが刺繍したお花畑が広がっている。テーブルクロスにしていたが、色褪せたから捨てるというのをカーラがねだってソーヤに天井に張り付けてもらったものだ。
「ミミって、本当に器用ね。私より刺繍上手だし」
貴族だったころは嗜みとして刺繍をしていた。ミミほど上手ではなかったけれど、心を込めて丁寧に一針一針刺繍をして、あの方にプレゼントした。
「――様は少しだけ目元を柔らかくして、受け取ってくれたっけ」
呟いたカーラの耳に、ミミが帰ってきた音がした。
「ミミが帰ってきた!」
カーラはまたふわっと魔法で今度は床に降り立つと、ミミを出迎えるため急いで玄関へ向かっていった。
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