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ドールのカーラが語ります  作者: 猫野沙子


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第5話 エルフ

カーラの昔の知り合いがふらりとやって来た。

「カーラ」

と嬉しそうに声を掛けてきたのは、エルフだった。緑がかった銀髪に、水色と黄色のグラデーションになった不思議な色合いの瞳をしている。

「げっ、エルじゃない?!」

 宿のカウンターでおすましして座っていた魔道人形(ドール)のカーラは、嫌そうな声をあげた。

「珍しい魔道人形(ドール)がいる宿があるって聞いてね。やっぱりカーラだった」

ほほ笑むエルと呼ばれたエルフは、宿にいた女性たちの視線を全てさらったが、いつもの事なのか周囲を気にすることもなく、カーラと会えた喜びを素直に顔に出していた。男性陣は嫉妬しているかと思えば、エルのあまりの美貌に言葉をなくしていた。

「何しに来たのよ」

 嫌そうな口調のわりに、カーラはエルを受け入れているように見えた。

「ふふ。カーラは相変わらずだね。昔みたいに話しをするだけだよ」

エルはカーラを抱き上げて、カーラの顔を覗き込んだ。「ね?」と、少し首をかしげて言うエルの不穏な美しさに、いつの間にか宿の中はシンと静まり返っていた。

「エル、近いわ」

と、カーラの声にようやく周囲が音を取り戻した。

「カーラにお客様?」

 ミミがそう言いながら近づいてきた。警戒しているのだろうが、そんな雰囲気はかけらも感じさせないのが、元一流冒険者としてのミミの実力を想像させた。

「ミミ。こちらはエル。昔馴染みなの。エル、こちらはミミ。私のお友達よ」

 エルに抱きかかえられたままのカーラが双方を紹介すると、エルは優美に笑って、

「僕はエル。ご覧のお通りエルフだよ。ミミって、確かザガン遺跡踏破した子だよね?」

「まあ、そんな昔の事をよく覚えてらっしゃるのね」

「僕にとっては少し前だからね。確か、マックスって言う剣士もいたよね?」

「ミミの旦那さんよ」

「そうなんだね。カーラは結婚しないのかい?」

 間違いなく宿中が「いや、カーラは魔道人形(ドール)だから!」と突っ込みたかったに違いない。

「私はあの方に心をささげたから、結婚はしないわ」

「ああ。もう亡くなってずいぶん経つんじゃないかい?」

「そういうエルこそ」

「ああ、一本取られたね」

 エルは軽く笑い声をあげて、すぅっと視線を移動させてミミの目をまっすぐに見て、笑みを深くした。ミミはぞっとしたが、目はそらさなかった。

「カーラが幸せそうでよかったよ」

「当たり前でしょ!ミミはとっても優しいんだから」

 カーラがそう言うと、エルの不穏な空気は霧散して無邪気そうに笑った。

「カーラ、今度僕とデートしない?ハトラのダンジョン、面白いらしいよ?」

「冒険は嫌よ。汚れるし。だいたい、”死者の家”で置いてきぼりにしたじゃない!」

「ごめんごめん、だって、急な仕事が入ったんだ。君を連れて行くわけにはいかないじゃないか?」

「う、それはそうだけど……。まあ、ミミと出会えたから許してあげる」

「ありがとう、カーラ」

エルはカーラを優しく抱きしめて、カーラをカウンターの上に戻した。頭をなでてから、

「気が向いたらまた来るよ。しばらく近くにいるから、会いたくなったら連絡して?」

と、宿から出て行った。


 どこか息をつめていた宿が、呼吸を取り戻したような空気の中、ミミはカーラに聞いた。

「あの人って、S級冒険者のエルよね?」

「え?あ、ああ。そうよ。S級冒険者」

少し歯切れの悪いカーラに疑問を感じつつも、人がいる場所で聞かない方がいい気がしたミミはそれ以上追求しなかった。

「意外な人と知り合いなのね」

「うん。お母様とあの人は関わりがあったのよ。私の事構うのは、お母様のせいなのよ」

カーラはちょっと笑って、少し懐かしいような寂しいような顔で、エルが出て行った扉を見つめていた。


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