第4話 お土産
お土産をめぐるほのぼの日常話。
ミミが自宅に帰ると、居間に久しぶりに見慣れた姿があった。
「あら、帰ってきてたの?」
「おう。ただいま。ソーヤが一人前になったって聞いてな」
「ミミ、お帰り。マックスから旅のお話聞いてたの」
日に焼けた顔をほころばせて、ミミの旦那のマックスがそう言うと小ぶりなカバンをミミに見せた。魔道人形のカーラはテーブルの上からそれを見て目を輝かせ、ミミは少し警戒した目線でそれを見た。
「今度は何を持って帰ってきたの?」
「ソーヤの役に立つものさ。もちろん、カーラのも、ミミのもだ!」
ミミは少しだけ遠い目をした。マックスのセレクトはいつもマックスが良いと感じたものを買ってくるので、もらう方が心からお礼を言うことは滅多にない。
「そうそう。私が使ってたマジックバッグは一人前になったお祝いに、ソーヤに譲ったのよ」
「そうなのか!ちょうどよかった。出物があったんだよ」
そう言ってマックスがまずカバンから取り出したのは、年代物という言葉ではフォローできないほどボロボロの”何か”だった。
「蚤の市で見つけたんだ。時間停止までついてるマジックバッグだ」
奇跡的に穴だけはないようだが、いくらマジックバッグでも駆け出しの冒険者すら見向きもしないだろう外見だ。ミミの視線は一層遠くなったが、
「ほかのバッグに入れたら使えそうだね」
とカーラが無邪気に言ったので、それもそうかとミミも思った。それに、マックスからのプレゼントが一人ひとつなわけない。ボロボロでもマジックバッグなら、ないよりはいいだろう。
「ありがとう、マックス」
マックスは照れたようにちょっとはにかんで笑うと、次を取り出した。
「これはカーラに。ほら、かわいいだろう?」
古風なレースと少し濃いめの青が、ちょっと背伸びをしたい女児に喜ばれそうなワンピースだった。もちろん、カーラが着るには大きすぎる。
「わぁ、かわいい!ねぇねぇ、ミミ。後でお部屋に飾って!」
カーラは大喜びだ。着れないと一言言ってくれればいいのだが、何故かカーラはマックスセレクトの着れない服が大好きなのだ。
「あとな、これ、ミミにいいと思ったんだ」
と言って取り出したのは、不気味な虹色の謎の固形物だった。
「……なに、これ?」
ミミの笑顔が張り付いたように固まったのを見て、マックスが慌てて説明する。
「どんな塗料でも落ちるって洗剤なんだ。なんか魔道技術が使われて、今売れてるって聞いて……!」
「どんな人が使うの?」
「えっ?!あ……んん。しょ、職人に……」
マックスがそっと視線をそらした。きっと、景気のいい売り子の言葉にその気になって後先考えずに買ってきたのだろう。ミミはその毒々しい石鹸をボロボロのマジックバッグに放り込んだ。
「後で宿にでも持って行ってみるわ」
ふぅっと大きなため息とともにミミがそういうと、ちょっとマックスがびくっと震えた。昔は泣く子も黙る超一流の剣士として名をはせたマックスも、奥さんの前ではただの男だった。
「あ、あとな、もちろん、ソーヤにも買ってきたんだ!」
「ソーヤは宿に帰るんだから、こっちには来ないわよ?」
マックスは「あっ?!」と言って少し固まった後、
「じゃ、じゃあ、持っていくか」
「もうそろそろ夕飯のお客さんで混んでくるわ。明日の朝にした方がいいと思うわ」
「わかった」
ちょっとシュンとして、マックスは素直にうなずいた。
翌朝、マックスとミミはカーラを連れて宿屋にやってきた。まだ忙しい時間帯だから、ミミはそのまま息子夫婦の手伝いに入り、マックスはソーヤと一緒に朝食を取っていた。思いがけず祖父にあったソーヤは嬉しそうだ。
朝食の時間も過ぎ、宿が落ち着いたころにマックスはソーヤにいよいよお土産を披露した。
「ほら、かっこいい剣だろう?モノクローム傭兵団の奴がもってたのにすごく似てたから買ってきたんだ!」
ソーヤの目の前には、双剣が置かれていた。薄い刃が美しく光を反射している。持ち手は素晴らしい細工が滑り止めの役割を果たしていて、飾り物ではない事を示していた。ソーヤが固まっているのを、素晴らしい双剣のせいだと思っているマックスも、
「素晴らしいだろう?」
と自分が買ってきた剣に見入っている。確かにそれだけの美しさがある。
「マックス。ソーヤに双剣は無理じゃないかしら?」
ミミの言葉にマックスは、
「使ってみなきゃ分らんだろう?ソーヤ、ギルドに行くぞ」
と言って、ソーヤを引きずるようにギルドへ連れて行ってしまった。カーラはちゃっかりマックスの肩に乗っていた。
マックスに無理やり冒険者ギルドの訓練場へ引きずり出されたソーヤは、困っていた。祖父は大好きだ。一流の冒険者だったし、今だってソーヤよりずっとずっと強い。けれど、お土産のセンスが壊滅的だ。
(絶対おばあちゃんの言う通り、使えないよ)
この前剣をダメにしたばかりなのに、こんな武器が扱えるはずがないと思いつつ、マックスに言われるままに双剣をもって構える。思ったより重くないのは薄い刃のせいか。
「ふむ、さまになっとる」
マックスは満足そうに微笑むと、
「ほれ」
と、軽く振った模擬刀は、老人とはとても思えないスピードでソーヤに向かってきた。ソーヤは何とか避けたが、「ブンッ」と言う音が過ぎるのを聞いて冷や汗が出た。
「ソーヤ、構えたままよけたのカッコイイ!」
カーラが無邪気に応援してくる。
(え?構えたまま?)
ソーヤは必死に避けたはずなのに、剣を構えていたと言われて疑問がわく。
「うむ。双剣初心者で構えを崩さんとは筋がいい。さすが俺とミミの孫だ」
とマックスがうれしそうな顔をしている。ソーヤが自分のとっさの行動に首を傾げる前に、マックスの剣が再び振り下ろされた。
「ひっ!」
ソーヤは無我夢中で双剣をクロスさせるようにして、模擬刀を受けた。
「ヤバい!剣が······!」
貰ったばかりの高価そうな剣を駄目にしてしまったかと思ったが、恐る恐る見ると、しっかりと模擬刀を受け止めていた。
「ソーヤ、すごーい!かっこいい!!」
カーラの無邪気さが、やはり固まっていたマックスとソーヤを正気に戻した。
「すまん、ソーヤ。だが、素晴らしい受けだ。双剣にこれほど適性があるとは!さすが俺とミミの自慢の孫だ!」
ソーヤはしげしげと双剣を見ていたが、マックスの言葉に顔をあげると最高の笑顔を見せた。
ソーヤはもらった双剣をしっかり装備して、マックスとカーラと共に宿に向かっていた。もう少しで宿につくというところで、ペンキの匂いが鼻についた。ふと見ると、ペンキを盛大にこぼしてしまって体の半分ほどがペンキに覆われた人が途方に暮れていた。
「道具屋のおじさん?」
「お、ソーヤか。そっちは懐かしいマックスじゃないか!いやぁ、恥ずかしいところを見られたな。看板を塗りなおそうとして、このありさまなんだ」
と力なく笑った。
「マックス!あの石鹸あげたら?」
「おお、そうだな!ソーヤ、ミミのところへ行って、昨日の石鹸を出してもらってくれ。お土産の石鹸と言えば分かる」
ソーヤは頷くと、宿屋に行って間もなく帰ってきた。手には不気味な虹色の石鹸が握られている。
「ほら、これをやるよ。塗料がものすごくよく落ちる石鹼なんだ」
「お前は変なのばかり持ってるな。使ってみるよ、ありがとう」
道具屋のおじさんはひきつった顔で礼を言って家に戻っていった。マックスたちはそのまま宿に帰り、今日のソーヤのすごさをミミやソーヤの両親に熱心に話して、家族全員でソーヤの才能をほめまくった。
宿も落ち着いてきたころ、道具屋のおじさんが駆け込んできた。
「マックス!あの石鹸すごいぞ!!俺はこれからあの石鹸を仕入れるぞ。どこで買った?!」
ミミは目を丸くして、
「あの石鹸使ったの?」
「ああ。一応、もらった義理を果たそうと思ってな。いやぁ、びっくりするほどペンキが落ちたよ。ただな。服を洗うのはお勧めしない」
「どうして?」
カーラが首をかしげて聞くと、
「全部真っ白い服になった」
と、道具屋のおじさんは笑い声をあげたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ミミの新しいボロボロのマジックバッグにはこれからもマックスのお土産が詰め込まれることになるでしょう。




