表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/124

第89話 ムロ倒れる

 砂漠のオアシスでの休息により体力を回復したムロは、今日も早朝から炎天下の砂漠地帯を徒歩で進んでいる。

 その足取りは明らかに先日よりも快調のようで、二日目にして悪魔の岩山まであとわずかの距離までやって来ていた。

 当初ムロが想定していた日程よりも、格段に早い移動速度で砂漠地帯を横断出来ている。

 ドルビィに魔素回路を最適化して貰ったことに加えて、オアシスで飲んだ謎の聖水の効果により、ムロの体は人生で最高のコンディションに仕上がっているのであった。


「この調子であれば、日が沈む前には悪魔の岩山に到着が出来そうだな。しかし、目的地に着いたからと言って、Dのお目当ての大地の精霊の体と言うのは手に入るのか? そんな物が隠されているなんて情報は今まで聞いたことがないが、Dは大地の精霊の体が保管されている場所を把握しているのだろうな?」


(……実はそれが問題なのですよ。大地の精霊の体が保管されている場所は知っています。悪魔の岩山内部にある封印の間で、今も管理をされているはずです。転移魔法を使えれば簡単に移動が出来るのですが、己の魔素を持たない私には魔法が使えません。もちろん、転移魔法はあらゆる魔法の中で最も複雑な術式になりますので、ムロさんの魔素に刻むのは不可能でしょう。最低でも超越者や上位精霊クラスの魔素量が必要なのです。ですが、それ以外に方法がないわけではありません。300年前に滅んだカーラング家の隠し部屋にある転移陣を使っての移動です。隠し部屋の場所は知っているのですが、今現在でもそれが使えるかどうかになりますね。カーラング家が滅亡した後に、仕えていた者によって取り壊されている可能性もありますからね)


「カーラング家か。確かダークエルフの王族の名だったな。そう言えば、昔オアシスの冒険者ギルドに所属していたカムジさんが、300年前までカーラング家に仕えていたと話していたな。あの人もダークエルフ族で長寿だし、もしかしたら何か知っているかもしれないな」


(ほう、懐かしい名ですね。ムロさんはカムジさんと交流があったのですか?)


「Dもカムジさんのことを知っているのか? 俺が駆け出し冒険者だった頃に、色々と世話になったんだ。Sランク冒険者と言うだけあって、カムジさんは本当に強かったな。『道化のカムジ』の二つ名の通り、動きも剣筋も俺にはまったく捕えられなかった」


(クックック、彼の技は幻影魔法によるまやかしですよ。確かに、事前に情報がないと対処が面倒になるでしょうがね)


「幻影魔法だと? カムジさんは魔法を使っている様子など…… あ、もしかしてDの仕業か?」


(ええ、ご想像の通りです。私がカムジさんの魔素回路に幻影魔法の術式を刻みました)


「そうだったのか…… カムジさんは剣士だし、魔法詠唱もしていなかったからまったく気が付かなかったな。俺は魔法の知識がからっきしだから聞くが、無詠唱魔法を使う者はみんな魔素回路に術式を刻んでいるのか?」


(いいえ、これは私のオリジナルの方法になります。通常の無詠唱魔法を使用する場合には、マジックアイテム等による補助や、精霊の加護などが必要になりますね。初歩的な魔法であれば刺青として肉体に術式を刻む方法もありますが、人の体の表面では限界がありますからね。何より、術式が丸見えでは簡単に対策がされてしまいます)


「なるほどな。さしずめ俺はDの加護を貰ったようなものか」


(予測の出来ない攻撃と言うのは、格上相手にも有効な攻撃手段となります。ムロさんも無闇に自慢をして、他人に手の内を明かさないないよう注意をしてください)


「ああ、分かっている。カムジさんだって幻影魔法の存在を秘密にして、道化の二つ名を守っているのだろうからな」


(クックック、カムジさんが持つ道化の意味はそれだけではありませんがね)


「あの人にはまだ秘密があるのか?」


(カムジさんは私の家族の直属の部下になります。その辺はプライベートな話になりますので秘密ですよ)


 ズリズリ


 二人が雑談に気を取られていると、何かが這いずる音が後方から聞こえてくる。


「はあ、またか……」


 ムロは後ろを振り返って音の正体を確認をする。


(昨晩に取り逃がしたサラマンダーの幼体ですね。こんなに早く復讐に来るとは、中々泣かせる話ではありませんか)


「勘弁してくれよ。それに復讐とは限らないだろ? ほら、よく見てみろよ。なんとなく、仲間になりたそうな目でこっちを見ている気がしないか?」


(クックック、中々面白い冗談ですね。それでは、その鞭で調教でもしてみますか?)


 ゴゴゴゴゴ


 辺りには幼体のサラマンダーしかないため気を抜いているムロだったが、突然砂漠の中で何かが移動するような地響きを感じて警戒を強める。


「何か嫌な雰囲気を感じるんだが……」


(この揺れは不味いですね…… 探知魔法が使えないがために、ここまでの接近に気が付けなかったとは…… ムロさん、全力で逃げてください! この様子では一匹や二匹どころの話ではありません!)


「ダークエルフの里にはまだ距離がある…… とてもじゃないが逃げ切れないぞ……」


 ゴゴゴゴゴ


 地響きがどんどん激しくなっていき、ムロを取り囲むようにして周囲の地面が勢いよく盛り上がった。


 ザバーン


「くそ! 幾らなんでも多すぎるだろ!」


 現れたのは八体の成体のサラマンダーである。


「ギャイイイイイ」


 ムロのまわりを包囲しながらサラマンダーは雄叫びを上げた。

 しかし、昨日仲間を倒されているためか、サラマンダーは一定の距離を保ちながら慎重にムロの様子を伺っている。


「くそ、オアシスのあの骨はサラマンダーの群れのリーダーだったのか……」


(クックック、どちらにせよ絶体絶命ですね…… どうしますか? 最後の思い出にアイスシャリベンを使ってみますか? ムロさんでは魔素量が足りずに死んでしまいますが、あのサラマンダーの群れを道ずれにすることは出来るでしょう)


「こんな所で死ぬつもりはないが、どうやらアイスシャリベンを使うしか手はないようだな……」


 アイスシャリベンを使う決心をしたムロだったが、何かを察したサラマンダーの群れが一斉に炎ブレスを吐き出した。


 ゴオオオオ


 四方八方から高熱の炎がムロへと襲いかかる。


「く、先手を取られた! アイスシャリベン!」


 両手を広げながらムロはアイスシャリベンの魔法を発動する。

 ムロの周囲に八本の氷柱が出現して、襲いくる炎ブレスに向かって氷柱が撃ち出された。


 ボシュウウウウ


 氷柱は炎ブレスを突き破りながら、勢いを弱めることなくサラマンダーの群れを貫いた。


 ドドドドドドドド


「ギョエエエエエ」


 八体の成体のサラマンダーは、悲鳴とともに全身を凍らせて絶命をする。


(クックック、何と未熟なアイスシャリベンなのでしょう。まあ、ムロさんの魔素量ではこの程度の威力が限界ですかね。案の定、ムロさんの魔素は完全に空になってしまいました。このままの状態が続けば二度と意識が戻ることなく、あと数日でムロさんの生命活動も停止をするでしょう。クックック、数日あれば大地の精霊の体を手に入れるのには十分な時間ですね。私としてはムロさんと一緒に悪魔の岩山までたどり着きたかったのですよ。貴方との旅はそれなりに楽しかったのでね。ともあれ、このような結果になったのですから仕方がありません。気まぐれでアイスシャリベンの術式を刻んでおいて良かったですよ。さてと、それではムロさんの体の主導権を…… は? な、何故です! 何故、ムロさんの体の主導権を奪えないのですか!)


 ズリズリ


 死んだように砂漠に横たわるムロのもとに、離れた場所で様子を見ていた幼体のサラマンダーが近付いてくる。


(ま、まずい! このままでは幼体のサラマンダーにムロさんの体が…… な、何故なのです! 全ての魔素を失ったいまのムロさんは、意識のないただの生きた人形のはず! それなのに、どうして体の主導権を奪えないのですか!)


 ズリズリ


 幼体のサラマンダーはムロの体を見下ろしながら、幼くとも鋭い牙を剥き出しにして口を開いた。


(う、動け! 動いて下さい! ム、ムロさん、起きて下さい!)


「ふふふ…… ま、冗談はこの辺にしておくか」


(へ?)


 喋れるはずのないムロの言葉を聞いて、ドルビィは間抜けな声をあげる。


「ギョエ?」


 ムロは立ち上がりながら腰の短剣を抜くと、呆気に取られている幼体のサラマンダーの頭に突き刺した。


 グサ


 ドサ


 幼体のサラマンダーが力なく地面へと崩れ落ちる。


(な、な、何故ムロさんは動けるのですか!)


「Dが起きてくれと言っただろ?」


(貴方の魔素は完全に空になっています! 魔素を失った者が動けるはずありません!)


「恐らくだが、オアシスで飲んだ聖水のおかげだろうな」


(オアシスの聖水? 昨日ムロさんが言っていた、飲んだら体の体調が良くなったと言うやつですか? あれは冗談ではなかったのですか? あり得ません。どんなに優れた聖水であろうとも、魔素の代わりになるような効力など…… 魔素とは違う別の力? まさか……)


「一か八かの賭けだったんだがな。どうやらあの聖水には、魔素とは違う別の力を与える効力があるようだ」


(……)


 ドルビィにはその力に心当たりがあった。

 己の魔素に頼らず、老犬に自身をも越える力を与える存在を目の当たりにしていたからだ。


(なるほど、そう言うことですか。ドーラさんも悪魔の岩山に向かっているのですね。これは慎重にことを進めなければいけませんね……)


「それよりも酷いじゃないか。意識の無くなった俺の体を奪おうとするなんて」


(い、いえ…… あの場合は仕方がないではありませんか。まさかムロさんが無事でいるとは思いもよらずに……)


「ま、俺との旅を楽しんでくれているのは嬉しいがな」


(クックック、不本意ですがね)


 ドルビィは楽しそうに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ