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第9話 ミミズ少女とダイフク

 朝の光が荒野を照らし出すなか、ドーラと女神のような女性が死体となったドルビィを見下ろしている。


「どうですか? まだ使えそうですか?」


「残念ですが、すでに息絶えているようですね」


「あー、やっぱり? 内蔵を引きずりながらも動いていたから、もしかしたら死亡していないかもと思ったんだけどな。それじゃあ、魂もないから甦らせることは出来ないか」


「はい、利用価値はないかと…… !」


 女性はドルビィがつけている仮面に反応をする。


「どうしたんですか? その仮面が欲しいんですか?」


「……いえ、私には必要のない物ですね。どうやら機能も停止しているようですし、何の価値もない壊れた仮面です」


 女性はひび割れた仮面の傷にそっと指を触れた。


「なら、その仮面は死体と一緒にここに放置でいいかな。価値がないのなら私も別に要らないし」


「ドーラ様の思いのままに……」


「それじゃ私は村に戻ります。今度は生きている状態でロリコンを用意しますね」


 ドーラと女性は黒い靄へと入り荒野から姿を消した。

 残されたドルビィの死体を荒野の朝日が照らしつけている。

 どういうわけか、残されたドルビィの仮面からはひび割れた傷が消えているのであった。


 ドーラが廃村に戻ってしばらくすると、傷の癒えた老犬が意識を取り戻した。


「あ、気が付いた。おつかれさま」


「ワン」


 目を覚ました老犬は元気よく立ち上がると、尻尾を振って嬉しそうにしている。


「はい、約束したご飯だよ。魔族領の干し柿だから、あんまり美味しくないけどごめんね」


 老犬は干し柿に鼻を寄せて臭いをいだ。


「ワ、ワン」


 老犬は一瞬ためらうような素振りを見せるが、干し柿をくわえると黙々と食べ始めた。


 ムシャムシャ


「食べながらでいいから聞いてね。あなたの今後についてだけど、あなたがこの村に残るならワームを返してもらいたいんだ。父からこの力は秘密にしろと言われてるし、あなたに預けたままここに置いていくことは出来ないんだ。だから、もう一度言うね。良かったら私と一緒に行かない? 実を言うとね、犬を飼うのが子供の頃からの私の夢なんだ。小さい頃に父に何度もお願いしたんだけど、父は猫派だったらしく犬派の私とはいつも口論になっていたの。結局、最後には私に力でねじ伏せられて、暴力反対って平和をうったえて逃げていたわ。だからあなたが旅についてきてくれると凄く嬉しいの」


「ワン」


 干し柿を食べ終った老犬は、ドーラの誘いに肯定の返事する。


「ほんとに?」


「ワンワン」


「良かった。これからよろしくね」


 殺された飼い主のかたきを討ったことにより、滅ぼされたこの村にとどまる必要も老犬にはなくなったようだ。


「ディメンションワームを使えばいつでもこの村に戻れるし、たまには墓参りにでも来ようね」


 ドーラにとって一度訪れた場所なら、世界の果ても近所の肉屋も同じ距離なのでだった。


「じゃあ、あなたの名前を教えてくれる?」


「ワン」


「私が新しい名前をつけていいの?」


「ワン」


「そうだな…… 白い毛、元は黒だけど今は白いから…… ダイフクってのはどうかな? 父のガイドブックに載ってるんだけど、極東にある島国のお菓子らしいんだ。白くて真ん丸でとても美味しそうなの。この国だと王都にある支店で販売しているらしく、毎日行列が出来るくらい人気があるんだって」


 ドーラはヨダレをらしながら老犬を見つめる。


「ワ、ワン」


「え? 違うよ? あなたを保存食にしようってわけじゃないよ、本当だよ? じゅるる」


 慌ててドーラは汚れた口元を拭っている。


「ワンワン」


「そう、気に入ってくれて良かった。これからよろしくねダイフク」


「ワン」


「それじゃあ、今後の旅の計画を立てよう。私がこの村に来た目的は食料の補給だったんだけど、この村での食料補給は見込めないようだし、仲間が出来たことで今後の食料も二人分に増えちゃったからな。その他にも、人族の国で使えるお金を私は持っていないという問題もある。一応、ダイフクが目を覚ます前に村の様子ようすを少し調べたんだけど、お金になりそうなものは何にも残ってなかった。ドルビィさんが組織とやらに持っていたのかな?」


「ワン」


「え? 別に盗もうとした訳じゃないよ。本当だよ? こんなに貧しい村の財産を奪うなんて、まったく酷い組織だなあ。ちょっとくらい残しておいてくれても…… ゲフンゲフン」


 危うく本音がれそうになり、ドーラは咳払せきばらいをしながら誤魔化している。


「ワン」


「意志が共有されてるから私の考えは筒抜けだ? はい、すみませんでした。村の物には手をつけません」


 ドーラはガイドブックを取り出して、村から一番近い街の情報をを確認する。


「ここから一番近い街は、鉱山の街アダマスか。えっと、何々……  『中規模な大きさの街だが、鉱山が近いため武器などの製造がとてもさかんである。そのため他の街と比べて武器の品質がとても高く、価格も比較的安価で提供されている。冒険者を夢見るこの国の多くの若者が、この街のギルドに登録をするため各地から集まってくる。冒険者ギルド内にある酒場の料理は安くて量も多く人気がある』 だって。食べ物が安いのは助かるね。んー、考えても仕方がないから取り敢えずこの街に向かってみようか?」


「ワン」


「うん、決まりね。あと少しなら干し柿も残ってるし、道中の間は何とかなるかな。お金の問題はアダマスの街についてから考えるとしよう」


「ワン」


 ダイフクは尻尾を振りながらドーラに背を向けている。


「え、乗れって?」


「ワン」


「いやいや、流石にまずいよ。ワームの体液で肉体が強化されてるから、私を乗せても問題なく走れるだろうけど…… ちょっと絵的に問題が…… ダイフクの体の大きさで私が乗っていると、変な団体が動物虐待だって騒ぎそうだし」


「ワン」


「気にするなって? そういう意見は無視しとけばいい?」


「ワン」


「そうだね、相手にしたら負けだね。まあ、街の近くになったら歩いて近付けばいいか」


 ダイフクの背中にまたががったドーラは、嬉しそうな顔をしている。


「ふひひひ、本当は小さい頃から犬に乗って遊ぶのが夢だったんだ。まさか、この年齢になってその夢が叶うとはね。それじゃあ、行くよダイフク」


 ドーラの合図とともにダイフクは勢いよく大地を蹴りあげた。


 ドカーン


 ガラガラ


 まるで隕石が落ちたかような衝撃が周囲に響き渡り、わずかに残っていた村の建物もボロボロと崩れていく。


「あばばばばばばばば」


 天高く土煙を巻き上げながら、凄まじい速度でダイフクは無人の荒野を駆けていく。

 ドーラが後ろを振り返ると、すでに廃村は見えなくなっていた。

 もちろん村が見えなくなるほど遠くまで来たのではなく、村が完全に破壊されたため見えなくなったのである。

 ドーラはその事実には気が付いていないようだ。

 次にドーラが村に訪れた時には、さぞかし驚くことであろう。


「ワンワン」


 ダイフクは楽しそうに広野を駆けていく。


「あばばばばばばばば」


(んー、凄い速いんだけど…… 思ってたのとちょっと違う……)


 ダイフクにまたがっているドーラの体は、凄まじい速度でで上下に振動している。

 別の意味で絵的に酷い状況になっていた。


「ワンワン」


(まあ、ダイフクが嬉しそうだしこれくらい我慢しよう。この速さなら今日中にアダマスの街に到着できるかな?)


 荒野の大地を分断するかのような土煙を上げながらドーラが進んでいると、遠くの地平にいくつにも連なる岩山が視界へと入ってきた。


「……ちょちょちょちょっ、たたたたんんんんままままあああああああああばばばばばば」


「ワン?」


 ダイフクが急ブレーキをかけると、ドーラはダイフクの頭を飛び越して顔面から地面にヘッドスライディングをする。


 ズサー


「ぐへ、いたたた……」


「ワン……」


 ダイフクは心配そうにドーラを見つめている。


「だ、大丈夫…… いや…… 大丈夫じゃないけど…… オエー ちょっと、オエー 犬乗り酔い、オエー しただけ、オエー」


(うっぷ、気持ち悪い…… 想像以上に揺れがヤバかった…… ちょっと休憩をさせてもらおう……)


 ドーラは指先からサーチワームを出して周辺の安全を確認する。


「……あれ? 近くで結構な数の魔素反応がする…… オエー」

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