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第10話 ランゲル王国騎士団

 近年、ランゲル王国では辺境へんきょうの村が何者かによって滅ぼされるという事件が多発していた。

 当初は魔物の襲撃による被害だと思われていたが、滅ぼされた村では、金品の消失や拷問を受けたような住人の死体が多数発見され、何者かによる意図いとが関係していると推測されている。

 ただし、その発生場所に規則性もなく、往々にして王国の対応は後手に回らざるを得なかった。

 数ヶ月前から、魔族領との国境付近にある村との連絡が取れないとの報告があり、その状況の確認のため王命により王国騎士団が現地へと調査に派遣されていた。


「はあ、いつまでこんな事件が続くのでしょうね」


 疲れたような表情をにじませながら、副団長を努めているカリウスが愚痴ぐちつぶやく。


「そう悲観ひかんしていても仕方がない。我々騎士団に出来る事など限られているからな。せめて今回の村には生存者が居ることを祈るだけだ」


 カリウスのぼやきに軽く肩をすくませながら、騎士団を率いる団長のベッジは地図を開いた。


「この辺りは鉱山が近いため岩山が多く、何者かに襲撃される恐れも高い。気を抜かず周囲への警戒はおこたるなよ」


「やはり村を襲っているのは盗賊なのですかね?」


「金品などが無くなっているとは言えそうとは言い切れないな。盗賊の仕業に見せ掛けた魔族の仕業と言う線もある。噂で聞くが、魔族領では和平条約に反対する勢力も少くないらしいからな」


「そう言う迷惑な陰謀いんぼうはやめてもらいたいですね。折角の平和な時代なんだから、魔族達も気楽に暮らしていて欲しいですよ」


 現状、人族と魔族との休戦条約は守られいるが、テロ等といった小規模ないざこざは後を絶たないでいた。

 魔族側は、あくまでも少数勢力による独断犯行という姿勢をみせており、問題が起きてもその責任をう事はなかった。


「ふふふ、本当にそれで良いのか? この世界から争いがなくなったら、剣を振るしか能がない俺達なんてすぐにお払い箱だ。明日のまんまにすらありつけなくなるぞ?」


「良いですよ。そうなったら冒険者にでもなって、毎日酒場でくだを巻いて自堕落な生活をします。団長も一緒にどうですか? 団長の強さなら、あっという間にSランク冒険者になれますよ? がっぽりと稼いで酒でも奢ってください」


「ははは、それはいい。そうなったら一緒に飲みに行こう。安い酒ならいくらでも奢ってやるよ」


「安酒って、本当に団長はケチ臭いなあ」


 そんな他愛のない会話を二人が交わしていると、何者かの姿を発見したカリウスが前方を指差した。


「団長…… 誰か居ます」


 カリウスの示した方向にベッジが視線を向けると、その先に一人でたたずんでいる男の姿を発見した。

 その男は魔術師風のローブを着用し、顔の上半分が隠れる仮面をつけている。

 この場所はアダマスの街からそう遠くもないため、冒険者の可能性を考慮こうりょしつつ、警戒感を高めながら男の側へとベッジは騎馬の足を進めた。


「我々はランゲル王国の騎士団である。現在、各地で多発している謎の襲撃事件の調査に向かっている。貴殿きでんはアダマスの街の冒険者であるか? そうであれば、この周辺で何か不審な情報などを聞いたことはないだろうか?」


 一切の隙を見せずに歩み寄るベッジの振る舞いに、その男は楽しそうに手を叩いて笑っている。


「クックック…… これはこれは、王都からこのような辺境の地にまでご足労そくろう頂き誠にありがとうございます。想定していたよりもずっと、今回は行動が早かったですねえ。対応にも慣れてきたのでしょうか? クックック、中々に優秀な方々ではありませんか」


 あからさまに怪しい言動をする男にたいして、ベッジはゆっくりと剣に手をかけて身構える。


「何者だ?」


「これは失礼。自己紹介がまだでしたね。私の名はドルビィと申します。偉大なる魔神様の眷族です」


 男の名乗りを聞いた騎士団がざわめきだす。


「ふ、これは面白い冗談を言う。軽々しくその名をかたることが、どういう結末になるか理解をしているのか?」


「心外ですねえ。私は、あまり冗談が好きではないのですが…… ともあれ、今あなた方にあの村へ行かれると非常に困るのです」


「貴様が村を襲撃している犯人だと言うのか?」


「クックック、勘がよろしいですね。あと少しであの村での収穫が終わると言うのに間が悪い。あなた方も仕事熱心でなければ、私と出会うこともなかったでしょう」


 この世界でドルビィという名を知らぬ者はいない。

 神話の時代に起きた聖魔大戦の際に、人族でありながら魔神に忠誠を誓い、この世界を恐怖と混乱におとしいれた者の名である。

 国落とし、人族の裏切り者などと呼ばれ、人族にとってみ嫌われる伝説上の存在だ。

 300年前の最終決戦において、聖女によって魔神とともに滅ぼされたと王国では伝えられている。


「貴様の正体が何者かは知らぬが、一連の事件に関わっているのは間違いなさそうだな…… 総員、戦闘態勢! この場でこの者を捕らえるぞ!」


 ベッジが剣を抜くと同時に、ドルビィの周囲を取り囲むように騎士達が広がっていく。

 後衛に配置された神官部隊が祈りを捧げると、前衛の騎士達は身体強化の加護に包まれる。

 魔術師部隊は攻撃魔法の詠唱を唱え終えると、一斉にドルビィに向けて杖を構えた。


「撃て!」


「ファイアボール」


 杖から放たれた無数の火球がドルビィ目掛けて襲いかかる。


「未熟ですねえ。詠唱に時間がかかりすぎですよ。アースウォール、さらにエンチャントマジック」


 ドルビィのまわりを囲うように土の障壁が現れる。


 ドドドドドド


 土の障壁が襲いかかる無数の火球を全て受け止めた。


「固い! しかも無詠唱だと!」


「クックック、本物の魔術というものを教えて差し上げましょう。まずは邪魔な遠距離攻撃と回復手段を奪いましょう。ダークフレア」


 ゴオオオオオ


 十人ほどいる後方の魔術師部隊が、一瞬にして黒炎の中に飲み込まれる。

 あまりの熱量と轟音ごうおんに騎馬は暴れだし、ベッジは自身の騎馬から振り落とされてしまった。


 ドサッ


「団長!」


 燃えさかる黒炎にたじろぎながらカリウスがベッジに視線を向けると、ベッジの背後にはすでに転移で移動したドルビィの姿があった。


 ドス


 ドルビィの腕がベッジの体を貫く。


「ぐあああ!」


「ふむ、脆弱ぜいじゃくな身体強化ですね。あなた達の魔素には希望が足りないのではありませんか?」


 ズボ


 ドルビィが腕を引き抜くと、言葉を発することなくベッジはその場に崩れ落ちた。


「そ、そんな馬鹿な…… あの団長が一撃で……」


 剣を構えていたカリウスの腕から力が抜ける。


「クックック、安心をして下さい。まだ死んではいないです。折角ですので、あなた方の魔素も絶望に染めて利用をさせて頂きます。アイスシャリベン」


 ドルビィの頭上に無数の氷柱が出現し、呆然ぼうぜんと立ち尽くしているカリウスと騎士団目掛けて降りかかる。


 ドドドドドド


「うああああ!」


 騎士団は悲鳴に包まれた。

 騎馬は首を貫かれ、騎士達は例外なく満身創痍で地面をいつくばっていた。


「あ、ありえない…… お、王国騎士団が一瞬で全滅だと!」


 何とか意識を保っているカリウスであったが、深手を負っているらしく立ち上がることは出来ないようだ。

 そして現実離れしたこの光景に騎士団は恐怖をする。


「ま、まさか…… 本当に奴は魔神の眷族なのか?」


 自分達はこれからどうなるのだろう。

 そんなカリウスの不安とは裏腹に、ドルビィは何処か遠くを見つめていた。


「……いったいどういう事でしょうか? あの村に何者かが訪れています。ふむ、これは不味まずいですねえ。万が一にでも余計な事をされることがあれば……」


 ぶつぶつと一人言をつぶやいているドルビィを、カリウスは不安そうに見つめている。


「残念ですが少々急ぎの用件が出来ました。まあ、すぐに片を付けてきますので安心をしてください。クックック。それまでの間、あなた方はたっぷりと絶望の色に染まっていて下さい」


 ドルビィは笑いながら姿を消した。


「む、無詠唱の転移魔法だと? そんなことが可能なのか? しかし、我々は助かったのか? 皆は無事か? だ、団長!」


 カリウスは足を引きずりながらベッジの元へと這い寄っていく。

 ベッジがまだ生きていることを確認すると、カリウスは安堵あんどの表情を浮かべながらその場に座りこんだ。


「良かった、まだ生きている…… しっかりして下さいよ団長…… 平和になったら酒を奢ってくれるって約束したばかりでしょ」

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