第83話 サンバのリズムを知ってるかい?
「えー、それでは…… フィーネさんのパンツを見せてください」
「は? ドーラちゃん今何て言ったの?」
「お姉様はパンツを見せろと言っているんだぞ」
「ちょっと待って…… 二人が何を言っているのか、理解が出来ないんだけど……」
ジリジリとにじり寄って来るドーラとラトに、フィーネは訝しげに後ずさりをしている。
「んー、少し説明不足でしたね。このレイスはパンツを見ると魔素が大きくなるんです。なので、フィーネさんにもパンツを見せて欲しいのです」
「いや、もっと意味が分からないんだけど……」
「百聞は一見に如かずだぞ。見ていろ、ほい!」
ラトはドレスの裾をたくしあげた。
レイビィの魔素がほんの少しだけ大きくなった。
「ラ、ラトちゃん何してるの! 女の子が無闇に人に下着を見せたりしたら駄目よ!」
「……お前は何を言っているんだ? こいつは人じゃなくてレイスだぞ。お前は魔物にパンツを見られて恥ずかしいのか? 日頃から、発情しながら魔物と戦っているのか? はあ、ライム並みにスケベな奴だな…… まったく、度し難い奴だ……」
「え、いや、そんな事はないけど…… 確かに、レイヴィさんは魔物らしいけど、でも見た目が中年の男性だし……」
「は? 見た目だと? それならば、状態が良い男のゾンビと戦う時にはどうするんだ? お前はゾンビと戦う時に、パンツが見えないように注意しながら戦うのか? そんな気持ちで大切な者を救えると思うのか! がっかりだよ、お前は冒険者失格だ!」
「ガーン」
フィーネは膝から崩れ落ちながら、地面に手ついて項垂れている。
「た、確かに、ラトちゃんの言う通りだわ…… 私は冒険者と言うものを甘く見ていたのかもしれない……」
ラトの言っている事はただの屁理屈なのだが、フィーネは完全に言いくるめられている様だ。
寧ろ、パンツを見せる事を恥ずかしがっている自分が変なのだと思い始めていた。
「昨日から作業をしいるのですが、どうも魔素の上昇が鈍ってきたようなんです。もしかしたら、マンネリ気味になっているのかもしれないので、フィーネさんのダイナマイトボディで変化球を投げてみようかと思いました」
「く…… 悔しいことだが、これは私たちには投げれない球種なんだ。だからこそ、お前の力が必要なんだ。お前の体にしか出来ないことなんだ!」
「わ、私にしか出来ないこと……」
「そうだ! お前の冒険者としての気概を見せてみろ!」
詐欺師のように繰り出されるラトの言葉に、フィーネは陥落寸前であった。
「ラト、凄いよ! あと少しだよ!」
「はい、お姉様! おい、フィーネとやら。お前が冒険者だと言うのならば、対価には相応の報酬を支払わないといけないな」
何処に仕舞っているのか、ラトはドレスの内側からスクロールを二つ取り出した。
「これは魔物との主従契約を結べるスクロールだ。魔術オタクのドルビィが作ったスクロールだから、脅威度Sクラスの魔物とでも契約が出来る貴重な代物だ。もしも、お前がこの作業に協力をするならば、その対価としてこれをくれてやろう」
「脅威度Sクラスとの契約スクロールですって! それって、国宝級のアイテムじゃない!」
「へー、凄いスクロールなんだね。よくそんな貴重なのラトは持っているね?」
「戦うのが面倒くさい時に、これがあると便利なんだです。さあ、どうするフィーネ? このスクロールがあれば、お前は冒険者としてさらに前へと進めるだろう。冒険者ならば正しい決断を選ぶんだ!」
「……分かったわ。やるわドーラちゃん。なんか言いくるめられてるような気もするけど、確かにその契約スクロールは冒険者としての私の成長に必要不可欠だわ」
「ありがとうございますフィーネさん!」
「よくぞ決断をしたぞフィーネ! さあ、正気を取り戻す前に作業を始めるんだ!」
フィーネはレイビィの正面へと移動をして、スカートの裾を掴んだ。
「フィーネさん、今ですよ!」
「ほ…… ほ…… ほい!」
フィーネは顔を真っ赤にしながら、スカートの裾をたくしあげる。
レイビィの魔素が少し上昇した。
「どうだったレイビィ?」
「ふむ、ドーラ様のパンツの方が素晴らしいのは当然なのですが、これはこれで良いスパイスになりますね。それに、何故だかこうすることが正解のような気がします。この光景を見て喜んでいる者が、何処かにいるように思えるのです」
「へー、レイヴィはそんなことまで探知を出来るんだ」
そんな探知魔法は存在しないが、レイヴィは気配りが出来る紳士なのであった。
「よし、フィーネよ! 休まずに一気に畳み掛けるんだ!」
「ほ…… ほい! ほ…… ほい!」
「フィーネさん、もっとリズムよく! サンバのリズムですよ!」
「え? サンバのリズム? えっと…… ほほほい! ほほほい! ほほほいほい!」
「そうです、その調子です! ラト! 私たちも加勢をするよ!」
「はいですお姉様! 三位一体トリプルアタックだです!」
レイビィのまわりを取り囲んだ三人は、絶え間なく裾を上げ続けている。
「ほい! ほい!」
「ほい! ほい!」
「ほほほい! ほほほい! ほほほいほい!」
その異様な光景は、空が暗くなるまで繰り広げられるのであった。
そして夜が訪れた……
「ふう、こんな所かな。今日一日でだいぶレイビィの魔素が増えたね」
「さすが我が主です。この調子であれば、問題なく期間内に大精霊クラスの魔素を得ることが出来るでしょう」
大幅に魔素が上昇したレイビィは、肉体がないのに艶々とした肌色で満足げな表情をしていた。
ドーラたちから離れた場所では、正気を取り戻したフィーネが両手を地面について項垂れている。
「わ、私のイメージが…… 今まで良いお姉さん役として築き上げてきたのに……」
雰囲気に流された自分の行動に絶望をしたのか、フィーネの周囲だけ夜の闇がよりいっそう黒く染まって見える。
「こ、これは何という禍々しい負のオーラなんだ…… よし、お前に『ダイナマイトボディ漆黒』の二つ名を与えよう」
「ラトちゃん、変な二つ名を付けないで!」
フィーネの切実な訴えは叶うことなく、後日アダマスの冒険者ギルドに『ダイナマイトボディ漆黒』の名が広まるのであった。
「はあ、色々と疲れたわ…… 今日はギルドへの報告には戻らずに、自宅に帰って寝ることにする……」
フィーネは死んだ魚のような目をして角付きに跨がった。
「本当に今日はありがとうございました。それでは、引き続き明日からも作業をお願いしますね」
「……」
無言のままフィーネは帰っていった。
「ふひひひ。フィーネさんが来てくれたお陰で、レイビィの魔素を増やす目処がたったな。これでイベント報酬は私のものだね。よく考えると、レイビィが肉体を持ったら、記憶がないだけで殆んどドルビィさんになっちゃうのか。そう言えば、仮面の方のドルビィさんも今は体が無いんだよね? 仮面だけだと転生が出来ないって話だけど、もしも誰かがドルビィさんの仮面を被ったらどうなるの?」
「ドルビィの叡智の仮面かです? その場合は……」




