第82話 テイマーの条件
天馬に乗った王子様のように颯爽と登場したフィーネを前にして、ドーラは震えながら無言で固まっていた。
(か、格好いいと思ってしまった…… これこそが、私が幼い頃に思い描いていた光景そのままだ……)
クルリ
ドーラは後ろで座っているダイフクへと振り返る。
ブンブン
ドーラの視線にダイフクは首を横に振って答えた。
(……そうだよね、体の大きさは変えようがないよね)
(ワン)
(速さなら絶対に負けない? そうだよね、見た目よりも実用性が大事だよね…… 振動が激し過ぎて、ちょっと気持ち悪くなっちゃうけど……)
「どうしたのドーラちゃん? 急に黙り込んじゃって?」
「いえ、何でもありません…… 現実と言う格差社会の厳しさに絶望をしているだけです。それよりも、フィーネさんは何をしにここへ来たのですか?」
「昨日アダマスの森の上空に、巨大な光の玉が現れたでしょ? それを見た街の住民が混乱しちゃって、ギルド長の命令で調査に向かわされて来たの」
「へ、へえ…… そ、そうなんですか……」
ドーラの目が左右に泳いで、明らかに動揺をしている。
「おい、お前は何者だ! 昨日、お姉様がやったことに何か文句でもあるのか!」
空気を読めないラトが、フィーネに突っかかっている。
ほとんどドーラが仕出かしたことだと白状をしている様なものだ。
「お姉様? ドーラちゃんこの子は誰なの?」
「えっと、この子はラトと言います。まあ、私の妹分みたいな子ですね。ラト、この人はフィーネさんと言って、私が冒険者になったばかりの時にお世話になった人だよ。ちゃんと挨拶をしてね」
「なに、そうだったのか。お姉様がお世話になったみたいなのに済まなかったな。あたいはラトだ。お姉様の嫁だ」
「これはご丁寧にどうも、って嫁? 何かよく分からないけど、私はフィーネよ。アダマスの街で冒険者をしているわ。ダークエルフ族ってことは、悪魔の岩山でドーラちゃんと知り合ったのかしら? あら、よく見たらそのドレスは、ドーラちゃんが前に着ていたドレスとお揃いね。うふふふ、二人は仲が良いのね」
ラトはドーラの嫁だと自己紹介をしているが、見た目が小さな少女姿のせいなのか、フィーネには冗談だと思われているようだ。
ドーラは興味のない話題には無関心なので、普通にスルーをしているのであった。
仲良しと言われて満更でもないラトは、見定めるかのようにフィーネのことを観察している。
「ふーん、お前はテイマーなのか?」
「え? 違うわよ? あ、角付きさんに乗って来たから、そう思われたのかな? この子は、なんと言うか友達みたいな?」
「ギャフ」
「ふふふ、そうよね。仲が良いだけだよね」
「いや、普通に会話をしているじゃねえか。契約をしてないのに魔物と意志疎通が出来るのなんて、一握りの優秀なテイマーくらいだぞ」
「へえ、そうなんだ。ゴブリンキングのクーニさんと仲良くなってから、何故か魔物の気持ちが分かるようになったのよね。魔物に対する偏見が無くなったからかしら?」
ドドドドドド
角付きより一足遅れで、赤毛が木々を薙ぎ倒しながら湖へと到着をする。
角付きについていけなかった為か、少し悔しそうな表情をしている。
「フ、フゴ……」
「あ、ごめんね赤毛さん。置いていくような感じになっちゃったわね」
「フゴフゴ」
「ふふふ、ありがとう」
何処からどう見てもテイマーである。
「フィーネさんは、テイマーの才能があったんですね。その二匹もフィーネさんに懐いてるみたいですし、もう契約しちゃったら良いんじゃないですか?」
「え、私がこの二匹と従魔契約を? 残念だけど、私の保有魔素量では難しいと思うわ。自身の魔素量以上の魔物との契約には、貴重で高価なスクロールが必要になるのよ。私の魔素量では、普通のゴブリンとの契約も無理だわ」
「へー、そうなんですか。でも、意志疎通が出来て仲良くなっていたら、従魔契約なんて要らなくないですか?」
「そうね。形式的なものになるけど、従魔契約をしていない魔物は街の中に入れないのよ。絶対に無害だと証明を出来ないと、一般の人たちに不安を与えてしまうからね。冒険者ギルドのクエストでも、正式な契約をしていないテイマーは依頼主に断られたりするのよ。ダイフクちゃんみたいに、魔物じゃない従魔ならそこまで問題はないんだけどね」
「へー、そうなんですか。色々と厳しいんですね」
「ふふふ、契約なんか出来なくても、こうして空の散歩が出来ただけでも私は十分よ。それよりも話を戻すけど、ドーラちゃんはここで何をしているの?」
「え、えっと……」
「お姉様はそこにいるレイスの魔素を増やす作業をしているんだぞ」
空気を読めないラトは、包み隠さずにありのままの説明をした。
嘘がつけない純粋なラトの性格に、ドーラは頬を引きつらせながら苦笑いをしている。
「レイス? えっと、この人のこと?」
レイヴィは踊るように優雅な所作をしながら、混乱をしているフィーネに挨拶をする。
「クックック、私の名はレイビィと申します。至らぬ若輩レイスでありますが、偉大なるドーラ様に御使いをさせていただいております。以後お見知りおきを」
「はあ、フィーネと申します…… って、本当にレイスなんですか? てっきり、ラトちゃんの保護者の方だと思いましたよ」
「まあ、半分家族みたいなものだから間違っちゃいないけどな」
一切の情報を隠す素振りも見せない二人の様子に、珍しくドーラは頭を抱えている。
「そうなんです。このレイスに大精霊クラスの魔素を与えて、物質創造とか言う方法で肉体を持たせようとしています」
隠すのが面倒くさくなったドーラは、完全に開き直っていた。
ドーラの長所は切り替えが速く、細かいことを気にしない性格なのである。
(まあ、フィーネさんならバレても秘密にしてくれるかな)
「レイスに肉体を? そんな事が可能なの?」
「んー、そうだ! 実は作業が二日目になって、魔素の上昇量が鈍くなってきたんですよ。もしよかったら、フィーネさんも作業に協力をしてもらえませんか?」
「く、力不足で情けないです。もっとお姉様の力になりたかったぞです」
昨日はパンツを穿いていなかったラトだが、今日はちゃんと穿いているのでドーラと一緒に作業をしていた。
「私でよければ協力してもいいけど、作業っていったい何をすればいいの?」
ニヤリ
不適な笑みを浮かべるドーラとラトに、一抹の不安を感じるフィーネであった。




