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第81話 フィーネの素質

 ロレンからアダマスの森の調査依頼を受けたフィーネは、翌日ゴブリンの集落へと訪れていた。

 最近のフィーネは、クエストなどでアダマスの森へと訪れる際には、よくゴブリンの集落に顔を見せに来ているようだ。

 フィーネの訪問に気が付いたゴブリンたちは、一斉に彼女の周囲へと集まってくる。


「こんにちはゴブリンさん」


「ウガー」


 広場に集まったゴブリンたちが、フィーネのことを取り囲んで手を伸ばしている。

 別に襲われている訳ではない。

 フィーネはゴブリンの集落へと訪れる時に、いつもお土産を持ってきているのだった。


「ふふふ、今あげるから焦らないでね」


 フィーネは持ってきた食料をゴブリンたちに渡す。


「ウガー」


 ゴブリンたちは嬉しそうにフィーネにお辞儀をして離れていった。


「ほっほっほ、完全に餌付えづけをされてしまっとるようじゃのう」


 長い顎髭あごひげを撫でながら、この集落の長であるクーニがやって来た。

 数百歳と言う高齢のクーニであるが、ドーラにスレイブワームの体液を流されている為に、その肉体は老いを感じさせない筋骨隆々な姿をしている。

 まさに、伝説のゴブリンキングの名に恥じない、凄まじい威圧感を漂わせていた。


「お邪魔していますクーニさん」


「よく来たのフィーネ嬢。今日はロレンの奴にアダマスの森の調査でも頼まれたのかの?」


「あははは、お察しの通りです」


「心配をせんでもアダマスの森は平和じゃよ。何やら、湖の周辺でドーラ嬢が変わった事をやっておる様じゃがの」


「ドーラちゃんがですか? 確か今は、ライムさんと一緒に悪魔の岩山へと出掛けているはずですが…… あ!」


 フィーネは黒いもやから現れた手のことを思い出した。


(間違いなくあれはドーラちゃんの仕業しわざだろうし、それならば長距離を移動する手段を持っていても不思議じゃないわよね)


「ほっほっほ、ドーラ嬢のやることじゃ。何も心配する事はあるまいて」


 楽観的な様子のクーニであるが、実際はドーラの癇癪かんしゃくでアダマスの森は消滅寸前の危機であった。

 知らぬが仏とはこのことである。


「フゴー」


「ギャフ」


 ハングリーベアーの赤毛とワイルドウルフの角付きも、ゴブリンの集落に来ていたらしく、フィーネのいる広場へとやって来た。


「あ、角付きさんも来ていたんですね。そっちの赤いハングリーベアーは始めて見ますね?」


「赤毛じゃよ。角付きと双璧をなす、アダマスの森の二強の一角じゃ」


(……どう考えてもクーニさんが最強なのでは?)


 クーニの丸太のような太い腕を見つめて、フィーネは苦笑いをしている。

 赤毛も角付きも脅威度Bと非常に強力な魔物ではあるのだが、今のクーニを脅威度で表すのならS以上は確実にあるであろう。

 今のクーニはアダマスの森どころか、この星の全ての魔物の中でも上位に入る強さなのであった。


「はじめまして赤毛さん。アダマスの森の二強と言うことは強いんですね」


「フゴー」


 赤毛は誉められているのを感じ取ったのか、胸を張って偉そうにしている。


「赤毛は湖の周辺を縄張りにしているのじゃが、ドーラ嬢が湖で何かをはじめて騒がしく、この集落へと避難をしてきたのじゃよ。それよりも、今フィーネ嬢は赤毛とコミュニケーションを取ったのかの? ふむ、もしかしたらテイマーの素質があるのかもしれんの」


「え、本当ですか? 私にテイマーの素質が?」


「うむ、そうじゃ。魔物と心を通わせることが出来なければ、プライドの高い赤毛がこのような反応などせぬはずじゃ」


「心を通わせる……」


 フィーネは自身に戦闘の才能が無いのは理解していた。

 もしも、クーニの言う様に自身にテイマーとしての素質があるのなら、その道に挑戦するのも悪くはないと思っていた。


(まあ、それよりも今は森の調査ね)


「取り敢えず、湖で何かをやっていると言うドーラちゃんに会いに行ってきます。クーニさんに話を聞いただけで帰ったら、きっとギルド長が五月蝿うるさいですからね」


「それならば、赤毛に案内をしてもらうと良いじゃろう。こやつと一緒なら、湖周辺の他のハングリーベアーも襲っては来ぬじゃろうて」


「赤毛さんお願いできるかな?」


「フゴフゴ」


 赤毛は胸を叩いて任せろと言っているようだ。


「ギャフ」


「え、角付きさんも一緒にて来てくれるの? ふふふ、ありがとうね」


 フィーネは赤毛と角付きを引き連れて、ドーラが何かをやっていると言う湖へと向かった。


「ほっほっほ、やはりフィーネ嬢にはテイマーの素質があるようじゃの」


 湖に向かいアダマスの森を進んでいるフィーネだったが、思いの外に険しい獣道けものみちに苦戦をしていた。


「ふう、森の奥の方まで来ると、流石さすがに道が整備されてないから進むのが大変ね。赤毛さん、湖まではまだ距離があるの?」


「フゴー」


「そうか…… このままのペースだと日が暮れるのか。帰りのことを考えると、いささ軽率けいそつだったかな? 野営をするにしても準備不足はいなめないし……」


「ギャフ」


「え? 背中に乗れって? 私が乗ってもいいの?」


「ギャフ」


「そう、ありがとうね。角付きさんは冒険者ギルドで聞いていたよりも、ずっと優しい魔物なのね」


「ギ、ギャフ……」


「うふふ、照れちゃって可愛いわね。それじゃあ、よろしくね角付きさん」


 フィーネは角付きの背中にまたがった。

 角付きの体は通常の騎馬などと比べても大きいため、フィーネが乗っても何の違和感はなかった。

 これならば、なんとか団体からも苦情はこないだろう。


「大きな体ね。毛並みも艶々《つやつや》だし、とっても乗り心地がいいわよ」


 フィーネは角付きの毛を優しく撫でている。

 角付きは興奮して鼻息が荒くなっているようだ。

 どうやら、フィーネは天然の魔物たらしの才能があるらしい。


「フ、フゴー」


 赤毛がうらやましそうに角付きを見ている。


「それじゃあ行こうか。宜しくね角付きさん」


「ギャフ!」


 角付きの目がキラリと光ると、空中を駆けてアダマスの森上空へと飛び上がった。


 タンタンタン


「きゃ、驚いたわ! 空中を走れるなんて凄いわ角付きさん!」


「ギャフ!」


 角付きは誉められて上機嫌のようだ。

 地上では負けじと赤毛が、木々を薙ぎ倒しながら後ろを必死について来ている。


「これなら、あっという間に目的地までたどり着けそうね」


 フィーネの予想通りに、数分ほどで前方に大きな湖が見えてきた。


「あそこがドーラちゃんのいる湖ね。数人の人影が見えるわ。ドーラちゃんかな? 角付きさん、あの場所に降りてくれる?」


「ギャフ」


 華麗に空中を駆けながら、角付きはドーラたちの前に颯爽さっそうと降り立った。


 トン


「ドーラちゃん何をしているの?」


 目の前に降りてきたフィーネの姿を見て、ドーラはワナワナと震えている。


「な、な、なんだと…… わ、わ、私がダイフクに乗っている時と全然見栄えが違う…… オエー」


 ダイフクにまたがった過去の自身の姿と比較して、あまりの見た目の格差に気分が悪くなるドーラであった。

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