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第80話 アダマスの街の混乱

 今、アダマスの街は混沌とした様相ようそうていしていた。

 本来であれば、夜の冒険者ギルドにはクエストの達成報告などをする冒険者しか訪れない。

 しかし、この日の冒険者ギルドには、街中から大勢の住民が津波のように押し寄せていた。

 その理由は、突如としてアダマスの森上空に現れた、巨大な光の玉の目撃報告である。


「みなさん落ち着いてく下さい。現在、ギルド長が領主の館へとおもむき、この件に関しての対応を協議しています。まもなく戻りますので、住民のみなさんは安心して自宅で待機をしていて下さい」


 受付で対応をするクリスは、住民を落ち着かせる様に説明をしている。


「そうは言っても大丈夫なのかよ? あんな光景は見たことがないぞ?」


「あれはただ事じゃないわよ。今すぐギルド長に会わせてください」


「この世の終わりじゃ…… 神罰が下されるのじゃ!」


「いや、あれは噂に聞くUFOってやつだよ。最近よく耳にする都市伝説では、すでに幾つもの宇宙人がこの星に隠れ住んでるって話だぜ」


 冒険者ギルドの受付は大混乱である。

 とても収拾がつかない状況にクリスが頭を抱えていると、人混みをかき分けながらギルド長のロレンが領主の館から戻って来た。


「あははは、大混乱の様だねクリス」


「はあ、お帰りなさいギルド長…… もう私ではこれ以上対応が出来ませんよ。それで、領主との協議はどうなりましたか?」


 ロレンは混乱している住民の前に立ち、領主との協議の結果を説明する。


「みなさん聞いてください。本日、アダマスの森で起こった怪現象は、まれに見られる自然現象です。局所的きょくしょてきに大気の状態が不安定になった為に発生した放電現象に過ぎません。すでに上空の大気は正常に戻っている為、何も心配する問題はありません。なので、みなさんは安心して自宅に戻ってください」


 ザワザワ


「うむ、ギルド長が言うのならそうなのじゃろうな」


「なんだ、ただの自然現象だったのかよ。つまんねえな」


「ロレン様が言うのなら間違いはないわね。冒険者ギルドに来て良かったわ。ああん、いつ見ても凛々しいお顔なこと……」


(……この女性はギルド長に会いに来ただけなのでは?)


 クリスは苦笑いをしている。

 それと同時に、ロレンの住民からの信頼の厚さに、クリスは少し嬉しそうだった。


「それでは、納得もしていただけたようなので、住民のみなさんは自宅に戻ってください。こう見えても、夜の冒険者ギルドは忙しいんですからね」


 ゾロゾロ


 クリスの解散の言葉とともに、押し掛けていた住民は安堵した表情で自宅へと帰っていった。


「はあ、疲れたわ…… で、ギルド長…… 本当の事はどうなんですか?」


「あははは、自然現象だったらいいよね」


「やっぱり…… それで、冒険者ギルドはどうするんですか? 領主とはどんな協議を?」


「領主には心配はいらないと説得をしてきた。冒険者ギルドが調査に向かうから安心をしてくれとね。まったく、最近のアダマスの森は騒がしいよね。いったい、誰のせいなのやら」


 もちろん、その原因にロレンは心当たりがついていた。


「それでは、誰を調査に向かわせますか? ライムは悪魔の岩山へ出掛けてますし、酒場の酔っぱらいのお尻を叩きますか?」


「そうだね、フィーネを向かわせる事にしよう。彼女とはすぐに連絡を取れるかい?」


「え? フィーネを向かわせるのですか? 彼女は非戦闘員ですよ?」


「アダマスの森での事件に、彼女ほど適任てきにんの者は居ないよ。最近では、よくゴブリンの集落に顔を出しているようだしね。聞くところによると、この前アダマスの街を襲ったワイルドウルフの角付きとも仲良くなったらしいよ」


「分かりました。では、すぐにフィーネをギルド長室へと呼びますので、詳しい説明はそちらでお願いします」


「え? いいの?」


 ロレンは反対をされると思っていたようで、あっさりとクリスが承認したことに驚いている。


「は? ギルド長が決めたんことですよね? 良いんじゃないですか? フィーネはドーラちゃんとも仲が良いですからね。でも、あまり人任ひとまかせだとギルド長を首になりますよ? 本部には、キチンとことの経緯を報告しますからね?」


「え…… もしかして、クリスさん怒ってる?」


「怒っていませんよ。ギルド長として正しい判断です。私の感情は個人的なものです」


 見た目に依らずに、クリスはスパルタなのであった。

 不機嫌なクリスにペコペコと頭をさげながら、ロレンはギルド長室に戻っていった。


 コンコン


「フィーネです。クリスに呼ばれて来ました」


「どうぞ」


 ガチャ


 フィーネはドアを開けてギルド長室に入った。

 ロレンはソファーに座り紅茶を飲んでいるようだ。

 笑顔で正面のソファーに手を向け、フィーネに座るようにうながしている。

 絶対に面倒な要件だとフィーネは苦笑いをした。


「私は非戦闘員の青腕です。ギルド長の期待には応えられませんよ? 特に、今騒ぎになっているアダマスの森の件などは……」


「相変わらず察しが良いね。そう難しいことではないよ。少しだけ、アダマスの森を見てきて欲しいだけだ。最近はクーニとも仲良くやっているらしいじゃないか。彼に話を聞きにいくだけでもいい。簡単な任務だろ? そうそう、今回の件が片付いたら、君を札付きに推薦しようと思うんだ」


「非戦闘員の冒険者がCランク以上に上がるためには、特別な技能などが必要なはずですよ? 私にはこれと言った特技などはありませんが?」


「人望や交友関係も立派な能力だよ」


「はあ、そう言うのを屁理屈へりくつというんです…… でも、札付きになるのは全ての冒険者の目標です。調査は明日からでもよろしいですか?」


「ああ、今日はもう遅いし明日に備えてゆっくり休むといいよ」


「分かりました。それでは失礼します」


 フィーネは立ち上がってギルド長室から出ようとする。


「そう言えば、最近は訓練場での戦闘講習にもよく参加しているらしいね? アレクもフィーネの向上心に感心をしていたよ」


「この年齢から始めても付け焼き刃にしかならないです。それに、訓練をして実感をしましたが、私には直接戦闘は向いていないようです」


「君はまだ若いじゃないか。それに、どんな道に進むのにも遅すぎるなんて事はない。フィーネは優秀だと思うよ。私は期待をしているからね」


「はあ、エルフの価値観で年齢を見ないで下さい。過度な期待はしないで欲しいです。それでは失礼します」


 バタン


 フィーネはギルド長室を出ていった。


「あははは、本心なんだけどね。それに、すでに君は変わっているよ」


 頼りなさそうなロレンであるが、冒険者ギルド長だけあって、人を見る目はあるのであった。

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