幕間 ローリーの異世界開拓記3
ローリーが黒い靄の中に来てから数週間が経過していた。
その間に、ローリーはドーラの私物を整理する棚の作成をする。
作業に使う道具を師匠からもらっているために、さほど時間もかからずに幾つかの棚を作ることが出来たようだ。
私物の整理が終わったローリーは、自身が暮らすための住居を建てる作業を行っていた。
「よし、完成だ。簡素な小屋だが、どうせ俺一人しか暮らさないのだし、これで十分だろう」
魔族領で家族と暮らしていた時のローリーは、DIYなどの日曜大工を趣味としていた。
その腕前は中々のもので、簡素な小屋と謙遜をしながらも、素人が作ったとは思えない見事な建物であった。
「何にせよ、これで野宿生活ともおさらばだ。今日からはこの新しい我が家で、人並みの生活を送ることが出来るな」
しみじみと小屋を見つめながら、ローリーは入り口のドアを開けた。
ガチャ
「うふふふ、いらっしゃいローリーさん」
小屋の中では、師匠がソファーに座ってくつろいでいる。
「……あの、なんで師匠が自分の家みたいにくつろいでいるんですか? って、何ですかそのソファーは? 俺はそんなもの作っていないですよ?」
「以前、ローリーさんが話していた家具ですよ。木材だけでは作れないからと諦めていましたよね? これは頑張ったローリーさんへの私からのプレゼントです」
家の中をよく見ると、ソファーの他にもベッドやカーテンといった、木材だけでは作れない家具が置いてあった。
「こ、これは師匠が作ったのですか?」
「うふふふ、そうですよ。私は魔素を使って何でも作ることが出来ますので」
「……あの、とても有り難い話なのですが、それなら始めから師匠が全部作れば良かったのではないですか? と言うか、私は必要がないのでは?」
当然の反応である。
「うふふふ、ローリーさんが教えてくれたからこそ、私はこれらを作ることが出来たのです。それに、私が全てをやっていたとしたら、ローリーさんは生き返ることが出来なかったのですよ?」
「確かに、その通りなのですが…… もしかして、師匠は一人でここにいるのが寂しいから、私のことを助けたのではないですか?」
「さあ、どうでしょうね」
「まあ、プレゼントはとても嬉しいですよ。このベッドなんて、あり得ないくらい大きくて柔らかいですし。俺一人で寝るのが勿体ないですよ」
「うふふふ、二人で寝るのですから、これくらい大きくないと駄目じゃないですか」
「え?」
あからさまに、ローリーは嫌そうな顔をしている。
師匠は女神のように美しいのだが、勿体ないことにローリーには守備範囲外なのであった。
「うふふふ、冗談ですよ。そんなに嫌そうな顔をしないで下さい。私でも心が痛む感情はあるんですからね。そうそう、今日ローリーさんに会いに来たのは、少しお願いがあるからなのですよ」
「お願いですか?」
「ついてきて下さい」
ローリーは師匠に誘導をされて森の奥へと向かった。
数分ほど森の中を歩いていくと、前方に何かが転がっているのが見えてくる。
これでもローリーは、魔族軍では部隊長を勤めていた人物である。
遠目からでも、それが何なのか即座に認識をした。
「これは人族の死体ですか?」
「はい、少し前にあちらの世界から届きました。おそらく、この三人はドーラ様を怒らせて殺されたのでしょうね」
「殺された…… それでは、この者たちも生き返らせて働いてもらうのですか?」
「ローリーさんの時とは違い、この三人は死亡してからこの地へと捨てられました。そのため、この者たちの魂はすでに輪廻の輪へと取り込まれています。甦らせることは不可能ですね。ですので、ローリーさんにはこれらの処理をお願いします」
「処理ですか? 埋葬をすれば良いのですか?」
「この地には埋めないで下さいね。ドーラ様から与えられたこの森に、不純物を混ぜないでもらいたいのです」
「そうなると、燃やすか…… いや、それでは灰がこの森に残ってしまうな」
ローリーが死体処理の手段に苦慮をしていると、はじめからどうするかを決めていたのか、師匠は笑いながらその方法をローリーへと告げる。
「うふふふ、森の外に捨ててきて下さい」
「森の外にですか? そんなので良いのなら構わないですが」
「森の外と言っても、適当に破棄をされては困ります。この森から離れた場所にある山のことは、ローリーさんも知っていますよね?」
「はい…… 以前、私にとって危険な場所だと師匠が言っていた山ですよね…… まさか、そこに捨ててこいと?」
「うふふふ、そのまさかです」
「いや、私が行ったら死んでしまうと、師匠は仰っていたじゃないですか!」
「心配は要りませんよ。もしも、ローリーさんが死んでしまったとしても、この世界の中でなら私が生き返らせてあげますから」
「痛いんですよ! あの苦しみは、死んだことがある者にしか分かりませんよ!」
「あらあら、それは困りましたね。でも、ローリーさんはあの山が何なのか気になりませんか?」
「気にはなりますが、嫌なものは嫌です!」
「あの場所へ行けば、ドーラ様の力の一端が見れるかも知れませんよ?」
「ドーラ様の力? 確かに、それは気になりますが…… そもそもの話、荷台もなしに死体を三体抱えながら、あの遠くの山まで移動をすることが私には出来ませんよ」
「荷台とはどんな物ですか?」
うっかり口を滑らしてしまったローリーは嫌そうな顔をしている。
「……こんな感じで荷物を乗せて運ぶものです」
ローリーは地面に荷台の絵を描いた。
「なるほど、分かりました」
パン
師匠が両手を叩いて柏手を打つと、地面の土が盛り上がって荷台の形へと変化をしていく。
それを見たローリーは、諦めたような表情をしている。
「うふふふ、これで大丈夫ですか?」
「はあ、分かりました…… 行けばいいんでしょ…… 姿は女神様みたいなのに、私には師匠のことが悪魔に見えますよ……」
「うふふふ、よろしく頼みましたよローリーさん」
こうして、ローリーは初めてのお使いに出掛けるのであった。




