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第78話 ラトとレイヴィ

「それじゃあ、私とラトは出掛けてきますね。ライムさんもイベントを頑張ってください」


「ああ、わかった。ミーシャはどうするんだ?」


「フシュー、我は宿に残ってベッドで寝るのじゃ…… お主らのお陰で、昨晩はこの部屋に入れなかったからの……」


 ミーシャは、地獄のような光景のこの部屋に入るのに気が引けて、一階の受付のソファーで朝まで過ごしていたのだった。

 ワームの影響が残っていたとは言え、昨夜の自身の醜態を思い出したライムが気まずそうな顔をしている。


「ははは、悪かったなミーシャ。昨日は色々とあり過ぎてな。ちょっと正気を失っていたんだよ……」


「おい、性欲巫女。今回は許してやるが、次は無いと覚えておけ。お姉様の正妻はあたいなんだからな!」


「正妻? よく分からんが、今度から注意をするよ。あと、私のことを性欲巫女と呼ぶのは止めてくれ。精霊巫女とすら呼ばれるのが恥ずかしいんだからな。私のことはライムって呼んでくれないか?」


「ふん、仕方がない。今夜こそお姉様とはあたいが一緒に寝るからな! わかったかライム!」


「ああ、わかったよラト」


 どうやら二人は上手くやっていけそうである。

 ベッドに横になったミーシャは、疲れていたのかあっという間に眠りに就いていた。


「フガー」


「ミーシャさんはもう寝ちゃったみたいだね。それじゃあ、私たちはアダマスの森に出発をしよう」


「はいです」


 部屋の中に黒い靄が現れると、ドーラとラトはその中に入っていった。

 目的地は人目を気にせずに作業が行える、アダマスの森にある湖のほとりだ。

 そこはハングリーベアーの縄張りになっているため、冒険者や他の魔物などが近付き難く、隠れて何かをやるにはうってつけの場所である。

 ハングリーベアーは夜行性で単独行動を好むので、昼間の湖の畔はまるで長閑のどかなリゾート地のようだった。


「ここは何処だです?」


「アダマスの森にある湖だよ。よし、周囲には誰もいないな。出てきていいよレイビィ」


 ドーラの呼び掛けに答えて、影の中からレイビィが現れる。

 一応、能面とローブで姿を隠しているようだ。


「レイビィ参りました」


 ドーラの前に跪くレイヴィを、ラトは興味深そうに見ている。


「確か、お姉様と一緒にあたいの隠れ家に居た者ですね? やっぱり、この者が例のレイスだったかです」


「うん。それと、正体を見ても驚かないでね。レイビィ、変装を解いていいよ」


「かしこまりました」


 レイビィは能面を外してラトに素顔を見せる。


「ド、ドルビィ?」


 レイスとドルビィに何かしらの関係があるとラトは予想していた。

 しかし、能面を外したレイスがドルビィの姿そのものだったことに、ラトは驚愕の表情を見せている。


「んー、何て説明をすれば良いのかな?」


 ドーラは黒い靄から大鎌デスサイスを取り出した。


「それは大鎌デスサイス! お姉様が持っていたですか?」


「うん、ドルビィさんを倒したときに貰っちゃった。これでレイスのことを斬ったら、鎌に残っていたドルビィさんの魔素がレイスに入っちゃったみたい。そしたら、レイスの姿と性格がドルビィさんになっちゃった…… てへ」


 ドーラは舌を出しておどけた表情で誤魔化している。


「ドルビィの魔素がレイスに…… 魔素とはその者の魂そのものだです。魔素自体にドルビィの記憶は残っていないが、心のような本質的な存在概念があるです。ドルビィの魔素から僅かな情報をこのレイスが読み取ったのか? そんなことが出来るなんて聞いたことがないぞです。ドルビィも叡智の仮面だけでは転生術を完成できなかったから、大鎌デスサイスでの魔素の引き継ぎと合わせて体を乗り替えていたです」


「多分、レイビィは特別なレイスだったんだよ。はじめに見つけたときは、魔素が大きくて廃坑のボスっぽい感じだったし」


「光栄に存じます」


「あたいには難しいことは分からないが、エイスなら何か知っているかもしれないぞです」


「エイス?」


「アジトにいる魔神様の眷族の一人だです。あたいらの中で、一番長く生きているエルフ族の男だです。今度アジトに戻ったときにでも聞いてくるぞです」


「へー、そうなんだ。別に急がなくてもいいよ。正直、レイヴィの正体とか私にはあまり興味がないからね。たまにアイスキャンディーを買って来てくれるだけの存在で十分だし。そうだ、大盛デカライスはラトに返しておくね。これって、元々は魔神さんの武器なんでしょ?」


 ドーラの辛辣しんらつな言葉にレイビィは肩を落としている。

 ラトは差し出された大鎌デスサイスを見つめているが、何故かそれを受け取ることはしなかった。


「それはお姉様が持っていてくれです。記憶がないとはいえ、レイヴィはドルビィの生まれ変わりだです。これから先に必要になることがあるかもです」


「んー、私が持っていも使い道はないけどな。それなら、これはレイヴィに渡してもいいかな? ドルビィさんの生まれ変わりなら、レイヴィが持っているのが自然だと思うし」


 ラトは複雑な表情をしながらレイヴィのことを見ている。

 レイビィにドルビィの姿を重ねているのだろうか?


「ドル…… レイビィ、お前は半分ドルビィみたいな存在なんだから、裏切るような真似はするなよ? 信じて大鎌デスサイスを渡すんだからな?」


「クックック、勿論ですよラトさん。私は偉大なるドーラ様に生涯の忠誠を誓っています」


「ふふふ、主への忠誠心もパシリにされる体質も、以前のドルビィそのままだな」


 ドーラはレイビィに大鎌デスサイスを渡した。

 レイビィは実体のない手でそれを受け取る。


「実体がないのに大鎌デスサイスを持っただと? ほんの僅かだが、すでに物資創造の魔素操作が出来ているのか? これならば、必要な魔素さえあれば、すぐにでも肉体を持つことが出来るかもしれないな」


「大精霊の魔素ってどれくらいの大きさなの?」


「うーん、今のレイビィの魔素量と比較すると、だいたい100倍くらいだぞです」


「へー、今のレイビィでも結構大きい魔素量なのに、大精霊って凄いんだね。まあ、二週間もあれば間に合うよね。それじゃあ、レイビィの魔素強化を始めよう」


「お姉様は、どうやってレイヴィの魔素を大きくするんだです?」


「ふひひひ、それはね……」

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