第76話 ミミズ少女とオリハルコン
ドーラたちが宿泊する宿屋の部屋には、悲鳴にも近いライムの声が響き渡っていた。
「わ、わかったかドーラ! 絶対に無闇に、何があっても、二度とそれをやったら駄目だからな!」
ライムは顔を真っ赤にしながら、正座をしているドーラに説教をしている。
ライムがスレイブワームを入れられた時の、好意的な感情は今は無くなっているようだ。
「はあはあ、マジでヤバかったわ…… 事前に思考誘導をされると聞いていなかったら、本気でドーラのことを好きなんだと思い込んでいた…… 好意的になるなんてレベルじゃないだろアレは……」
「えっと、すみません…… まさか、スレイブワームがそんな感情を抱かせているとは思いもよらなかったです。ダイフクの時は、特にそう言うこともなく平気そうだったので……」
「ワン」
「あ、そっか。ダイフクは高齢だから、発情期が無くなってたのか」
「ワン」
「え? ライムさんは普段から邪な感情をしているから、その願望が強く出たんじゃないかって?」
「な! そ、そんなわけあるか! わ、私はエッチな事に興味なんか…… あるけど…… ふ、普通だ! 馬鹿! 訴えてやる!」
ラトは毛布を頭から被って、プルプルと震えている。
ドーラのことを思って果てたのが、余程に恥ずかしかったのであろう。
その光景を、ラトはニヤニヤしながら眺めている。
「精霊巫女じゃなく、性欲巫女だな」
「く…… ラトは意識を失っていたから分からないだろうが、アレは誰でも頭がおかしくなるからな…… とにかく、これからはアレは禁止だ。どうしても、仕方がなくやらなければいけない場合は、相手の意識が無いときにやれ。今まで、私たち以外の者にアレをやったりはしていないよな?」
「え? あー、アダマスの街に着く前に、王国騎士団の皆さんに先っちょを少しだけ……」
ライムは額に手を当てながら、天井を仰いでいる。
「……よりにもよって、王国騎士団かよ」
「で、でも、先っちょなら一瞬ですので、そこまで思考誘導はされていない様でしたよ?」
ドーラの甘い考えとは裏腹に、騎士団は全員ドーラの信者になっていた。
「そうか、奥まで入れた者はいないんだな?」
「んー、団長さんが体に穴が空いて死にそうだったので、その時に奥まで…… でも、入れる時には意識は無かったので、きっと大丈夫ですよ。だって、目を覚ましたら剣を抜いて、私のことを討伐しようとしていましたから」
「いや、それはそれで別の問題が発生しているだろ…… まあ、重傷者を助けるためならば仕方がないか…… どちらにせよ、今後のドーラと王国騎士団の接触は、なるべく避けた方が良さそうだな」
「あとアダマスの街を出発する前に、偶然副団長のカリウスさんに会いまして、2回目を入れちゃいました。なんか私の格好を見て聖女と勘違いしたみたいで、王様に会わせたいらしいです」
「はあ、もういいぞ…… どうせ他にも何かあるんだろ? 考えるのはやめだ。これからは気を付けて行動をしろ。入れられた犠牲者よりも、寧ろドーラがこれから大変な苦労をするかもしれないぞ。変な団体の教祖とかに担ぎ上げられても、私は知らないからな。それくらいアレは強烈だ」
「えー、少し大袈裟じゃないですか? 騎士団の皆さんだってそんな風には……」
ドーラはカリウスの顔を頭に浮かべた。
(大丈夫だよね? カリウスさん変なこと考えてたりしないよね?)
(ワン)
(んー、やっぱりダイフクもそう思う? カリウスさんって、何かやらかしそうな雰囲気をしているよね……)
「終わってしまったことを考えても仕方がないぞです。そんなことよりも、アジトからお姉様にプレゼントを持ってきたです」
ラトは背負ってきた大きな荷物の中から、光輝く剣を取り出した。
「お姉様は貴重な鉱石を探しているですよね? あたいが保管をしている武器の中から、良さげな剣を持ってきたです」
ラトは剣を鞘から抜いて、その刀身をドーラに見せる。
それを見たライムは、目を見開いてベッドの上に立ち上がった。
「そ、それって、もしかしてオリハルコンの剣か? 王都の博物館で前に見たことあるが、色や輝きがそっくりだ……」
「そうだぞ。300年前にドルビィが滅ぼした国から持ってきた剣だ。勝手に攻め込んだから魔神様に怒られて、没収されたのをあたいが預かっている。ドルビィは何処かに消えたままだし、あたいが勝手に他人に渡しても問題ないだろう」
「ド、ドルビィ? 魔神?」
(あ、まずい)
「ラト、耳をかして。ゴニョゴニョ……」
ドーラの耳打ちを聞いて、ラトはコクコクと頷いている。
「言い間違えた。これは仮面を着けた変態のロリコンに貰った物だ」
「そ、そうなのか……」
下手すぎる嘘だったが、そのことに対してライムは深く追及はしなかった。
今さら驚くような事など何もないのであろう。
ワームを奥まで入れられた時点で、すでにライムは腹をくくっているようだ。
「この剣を私にくれるの?」
「はいです。オリハルコンはミスリル以上に魔素の伝達率が良く、アダマンタイト以上に硬い鉱石だです。きっとお姉様が満足できる剣だぞです」
ドーラはラトからオリハルコンの剣を受け取った。
「んー、ただで貰えるのは嬉しいんだけど、私は武器が欲しかったんじゃなくて、武器を作る為の素材が欲しかったんだよね」
「ガーン…… そ、そうだったかです……」
「いや、オリハルコンの剣は貴重だぞ。素材としての希少性だけでなく、精錬技術も現在では失伝をしているらしいからな」
「もしかして、高値で売れたりしますか?」
お金の匂いを感じたドーラは目を¥にしている。
「まあ、国宝級の代物だからな。ただし、ドーラが売りに出すとなると、色々と面倒なことになる可能性もあるな。ラトの話を聞いた限りでは、この剣は正当な手続きで入手をした感じではなんだろ?」
「そ、それが問題でもあるのか?」
「どうやってその剣を手に入れたか説明が出来るのか? 国宝級の剣なのだから、当然国の上の方にも話が伝わる。もしも、犯罪などの疑いをかけられたら、オリハルコンの剣は没収されて、ドーラが捕まる可能性だってあるぞ」
「んー、面倒事はお断りします」
お金にするのが難しいとわかり、ドーラのテンションが下がった。
さすがにドーラでも、捕まる可能性があるものを売りに出すことはしないようである。
(そうなると、この剣を私が持っていても意味がないな。鉱石じゃないけど、ドンゴさんにあげたら喜んでくれるかな? んー、でも他人が作った武器を貰っても、ドンゴさんにはあんまり意味が無さそうだよね……)
「……あ、そうだ!」
ドーラは名案を思い付いた。
「この剣は私にくれるんだよね? それなら、私がこの剣をどういう風に使っても平気かな?」
「構わないぞです。お姉様の好きに使ってくれです」
ラトに許可を貰ったドーラは、ディメンションワームで黒い靄を出した。
「その黒い靄は、ドーラがアイテムボックスを使うときに現れる靄と同じだな。やっぱりドーラの能力だったのか。それは空間系の能力か何かなのか?」
もう能力を隠す気がないドーラであった。
ライムも、今さらドーラが何をしても驚かないようだ。
「はい。収納魔法のようにも使えますし、この中を通って離れた場所に移動をすることも出来ます。ちょっといい方法を思い付いたので、砂漠まで出掛けてきますね」
ドーラとダイフクは黒い靄の中に入っていった。
「あ、お姉様! あたいも行くぞです!」
ドーラのことを追いかけるように、ラトも黒い靄へと飛び込んでいく。
その様子をライムは心配そうに見ている。
「はあ、何をやるか分かったもんじゃないしな。仕方がない、私も一緒に行くか……」
ため息をつきながら、ライムも黒い靄へと入っていった。
ライムが黒い靄から出ると、そこには砂漠の風景が広がっている。
周囲には何も見えないので、ダークエルフの里からかなりの距離がある場所へと移動をしたようだ。
「おお、本当に砂漠地帯に移動をした。ドーラはいったい何をするつもりなんだ?」
「みんな着いてきたんですね。ちょっと危険ですので、ダイフク以外は離れていて貰えますか?」
ドーラの指示に従って、ラトとライムは離れた場所からドーラのことを見守っている。
「よし、それじゃあ始めるかな。素材じゃないなら素材にすれば良いんだよね?」
ゴゴゴゴゴゴ
ドーラはヒートワームを使い、剣を持っている手に熱を集める。
手の温度がどんどん上がっていき、凄まじい熱風が周囲に吹き荒れる。
「ド、ドーラ? アツ…… アチチチチチ!」
「お、お姉様? こ、これはヤバいぞです!」
まるで小さな太陽のように、超高温の火球となったドーラは光を発している。
命の危険を感じたラトとライムは、堪らずその場から走って逃げていった。
夜の暗闇に出現した小さな太陽は、まるで日中のように砂漠地帯を明るく照らしている。
ゴゴゴゴゴゴ……
目的を達成したのか、ドーラがヒートワームの熱を弱めると、次第に太陽も小さくなり消えていった。
ドーラのまわりの砂漠の砂は、超高温で熱せられた為にガラス化をしている。
「よし、オリハルコンの鉱石の出来上がり」
ドーラの持っていた剣は、溶けてオリハルコンのインゴットへと変化をしていた。
「オ、オリハルコンの剣を溶かしたのか? 精錬技術が失伝した今では、どんな鍛冶職人にも打てなくなったと言うのに……」
驚愕した表情でライムがドーラの前に歩いてくる。
「え? もしかして、ドンゴさんにも打てないんですか?」
「無理に決まっているだろ。オリハルコンを溶かしたドーラが異常なんだよ」
「ガーン…… せっかく名案だと思ったのに……」
ショックを受けているドーラにラトが声をかける。
「オリハルコンを溶かすとは、さすがお姉様だです。本来オリハルコンはヘパイトスの火種を使って打つぞです。アジトのドルビィの部屋にあったはずだから、必要なら取りに行ってくるぞです」
「本当に? さすが魔神の眷族だね。偉いよラト」
隣でライムが聞いているのに、普通にラトが魔神の眷族だとバラしてしまうドーラであった。
それに気付いていないドーラは、ラトの頭を優しく撫でている。
ラトはドーラの力になれて嬉しそうだ。
「ま、聞かなかったことにするかな」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。




