第72話 ミミズ少女の取引
ラトの隠れ家で有益な情報を入手したドーラは、ライムへと知らせる為に悪魔の岩山の山小屋へと移動をする。
すでに日が暮れかけている時刻のためか、喧騒に包まれていた日中とは打って変わって、頂上の広場は静けさに包まれているようだ。
「少し来るのが遅かったかな? ライムさんの儀式はもうやってないみたいだ」
ドーラは能面とローブを外して山小屋から外へ出た。
「んー、儀式が終わっているから、頂上の広場には人がほとんどいないな。ライムさんはもう帰っちゃったのかな?」
「ワン」
ライムの姿を見つけたダイフクがドーラに居場所を知らせる。
「あ、あそこか。族長さんも一緒にいるな。何か話をしているみたいだね。私たちも行ってみようか?」
「ワン」
ドーラは会話中のライムと族長に近付いて声をかけた。
「お疲れ様ですライムさん。今日の儀式は終わっているみたいですね」
「ん? ああ、ドーラか。もしかして、迎えに来てくれたのか?」
「はい。面白い情報を仕入れたので、早くライムさんに知らせてあげようと思いました」
「そうなのか、わざわざ悪いな。それじゃあ族長。さっきの件、よろしく頼むな」
「こちらこそ、明日からもお願いします」
族長は小さく頭を下ると、転移陣のある山小屋へと入っていった。
「何を話していたんですか?」
「それがな、思いのほかイベントの評判が良いらしくてな。明日からは、イベントの報酬を貰えることになったんだよ」
「え、お金が貰えるんですか!」
お金の話になると、すぐに目を¥にして輝かせるドーラであった。
「ああ、儀式をした日数分の報酬を貰えることになった。儀式一日で金貨一枚だ」
「ゴクリ、一日で金貨一枚…… と言うことは、儀式を100日やれば金貨100枚!」
「い、いや、100日も儀式をやらないぞ…… お前は、私にダークエルフの里に移住をしろとでも言うのか? まあ、長くてもせいぜい二週間くらいだな。それまでに大地の精霊が現れなければ、私も諦めてアダマスの街に帰るつもりだ」
(んー、二週間か…… それだと金貨14枚…… せっかく、大金を稼げるチャンスなのに勿体ないな)
(ワン)
(え? そもそも私のお金になる訳じゃない?)
ダイフクに現実に戻されたドーラはテンションが下がった。
「……ライムさん、実は大地の精霊が肉体を手に入れた方法が分かりました」
「ほ、本当か! って何か機嫌が悪くないかドーラ?」
ドーラは感情をいっさい感じさせない、死んだ魚の様な目をしている。
「別に怒っていませんよ? 勝手に私が勘違いをして期待しただけですので」
「よ、良く分からないが…… ま、まあ、ドーラの話を聞かせてくれないか?」
ドーラはラトから聞いた話をライムに説明する。
一応、ラトが魔神の眷族だと言うことは隠しているようだ。
別にラトのことを庇ったのではなく、また自分が魔神の仲間だと間違われると面倒なので、誤解をまねく説明を省いただけである
「なるほど…… その子の話が本当だとしたら困ったな。大地の精霊ほどの上位精霊ですら、肉体を得るのに巨大樹ユグドラシルの集めた魔素を利用したと言うのなら、非実体系の魔物が肉体を得るなんて不可能に近いな……」
「んー、そんな事はないと思いますよ。要は必要な魔素さえあれば実体を得ることが可能なんですから、かえって単純な話じゃないですか?」
「ドーラは簡単に言っているが、その物質創造とやらには最上位の大精霊クラスの魔素が必要なんだろ? 最上位の大精霊と言えば、エレメンタルドラゴンと並んでこの星の頂点に立つ存在だ。国によっては、神として崇められている存在なんだぞ。いくらあのレイスが普通じゃないと言っても、さすがに不可能だろう。最早、話のスケールが違いすぎる。そうなると、大地の精霊から情報を聞くためのこの儀式も、これ以上続ける意味がなくなってしまったな……」
ドーラから話を聞いたライムは、半ば諦めの表情をしていた。
しかし、何か邪なことを考えついたのか、ドーラはあくどい顔で笑みを浮かべている。
「ふひひひ、ライムさん。私と取り引きをしませんか?」
「取り引きだと?」
「はい、ライムさんはこのまま儀式を続けて下さい。それで稼いだ儀式の報酬を私にくれるのなら、この儀式が終るまでの間に、肉体を得るのに必要な魔素をレイスに与えて見せますよ」
「は? そんな事をどうやって…… いや、ドーラには出来るのだろうな。お前は何でもありだからな。まあ、族長と契約をしたばかりだし、大地の精霊を呼び出す必要がなくなったと言え、今さら儀式を辞めるってのは感じが悪いしな」
ある意味、ライムのドーラに対する信頼感は異常であるが、これもスレイブワームによる影響なのであろう。
「元々、報酬なしで儀式をする予定だったのですから、ライムさんには何も損はないですよね?」
「まあ、その通りだな。それなら族長との約束も果たせるし、私としては願ったり叶ったりだ。しかし、ドーラは何でそんなにお金が欲しいんだ?」
「知りたいですか? 私はお金が大好きなんです! お金の事を考えるだけで心がポカポカするんです! 食べる事と同じくらいお金を愛しているんです!」
目を¥にしながら、ドーラは欲望の叫びを荒らげた。
「な、なるほど…… 理解をした……」
「ワン」
「ガーン、そうだった…… 借金の事を忘れていた……」
ダイフクに現実に戻さたドーラはテンションが下がった。
「よし、契約成立だな。腹も減ったしそろそろ宿屋に戻るとするか。そのラトって子も、今夜宿屋に来るんだろ? いったい何をしに来るんだ?」
「とても貧しい子なので、私がダークエルフの里にいる間は面倒を見ようと思ってます。私よりも体が小さいので、ベッド二つでも問題なくみんなで寝れますよ」
とても良い話のように聞こえるが、原因はドーラがラトの食料を食べてしまったからである。
それを言ったら怒られるのが分かっているので、ドーラは意図的にその部分を省いて説明をした。
そう、ドーラはずる賢いのだ。
「そうか、意外とドーラは優しいんだな。まあ、詳しい話をその子から聞けるだろうし、私としては一向に構わないがな。そうそう、思い出した。今日の儀式中に、観衆の中にムロの姿を見かけたぞ。儀式の最中だったから声はかけられなかったが、あの風貌は間違いなくムロだった。頭からローブを羽織っていたが、あの巨体だし一目で気が付いたよ」
「ムロ? 誰でしたっけ?」
「バザーの酒場で会った大男だよ。覚えていないか?」
「ああ、あの人ですか。酔っぱらいさんを可愛がってあげた、親切な人ですよね?」
「そうそう、そのムロだよ。酔っぱらい男の姿は見当たらなかったが、あいつら悪魔の岩山に観光デートにでも来たのかな?」
「それ知ってます。リア充ってやつですよね」
「お前、意味わかってるのか? まあ、それで大体あっているがな。私も二週間後には、晴れてリア充の仲間入りか。クックック、楽しみだぜ」
「相手の気持ち次第ですけどね」
「ガーン」
ドーラに現実に戻されたライムはテンションが下がった。




