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第71話 大地の精霊の脱け殻

「ワン……」


「んー、ごめんね。せっかくダイフクがバレない様に、こっそりと意思疎通いしそつうして教えてくれたのに」


 おまけにダイフクの名前もバラしているドーラであった。


(ダイフクと言う名はミーシャから聞いている…… 確か、例の少女の従魔だったな。やはりコイツが…… この化け物がドーラって奴で間違いなさそうだ……)


 圧倒的なドーラとの力の差を感じ取ったラトは、ドーラのことを刺激しないように、慎重に言葉を選んで発言をする。


「こ、ここでの事は…… 口外こうがいしないとちかう…… です。ドーラ…… さんと、ダイフク…… 君の事も、秘密にする…… です」


 ラトはパンツを穿きながら、恐怖に震える口を必死に動かしている。

 ただし、れない敬語の為か、しゃべり方が少し変になっていた。


「え、ありがとうございます…… ってなんで私の名前までバレてるんですか?」


「……色々と情報を整理して、ドーラさんで間違いないと判断をした、です」


「へー、凄いですね。ドルビィさんも頭の回転だけは良かったし、魔神の眷族ってみなさん優秀なんですね」


 ラトが優秀と言うよりも、ドーラが情報をらしすぎなのであろう。


滅相めっそうもない、です。ドルビィとは、何処で知り合ったんだ、です?」


「え? あ、いや…… 知り合ったと言うか、何て言うか…… ドルビィさんは…… 倒しちゃいました、テヘ」


 ドーラはおどけた表情で舌を出しながら誤魔化そうとしている。


「そうか、です…… 己との力量差にも気付かずにドーラさんと敵対するとは、なんておろかな…… いや、それが分からないほど、ドルビィの魂はすり減っていたのかもな……」


「で、でも、エッチな仮面は無事のはずですから、きっと何処かで元気にしてますよ。ふひひひ、多分ですけど…… あ、早くアイスキャンディーを食べないと溶けちゃう。えっと、あなたのことは何て呼べばいいですか?」


「ラトだ、です」


「ラトさんですね。それじゃあ、アイスキャンディーを食べながらお話しをしましょう」


 ドーラはアイスキャンディーを舐めながら、ドルビィに出会った当時の状況をラトに説明をした。

 緊張がほぐれてきたラトは、呆れた表情でドーラの話を聞いている。


「……ミーシャから魔素を奪っただけにとどまらず、まさか人族の村まで滅ぼしているなんて…… ドルビィの奴は、いったい何を考えているんだ? やはり、何度も転生を繰り返しているうちに、魂に限界がきてしまったのか? ペロペロ」


「ミーシャさんからエッチな仮面の話を聞いた後に荒野まで探しにいったんですが、その場には死体しか残ってなかったです。もしかしたら、誰かが通りかかって仮面を拾っていったのかもしれませんね。まあ、連絡がないのはきっと元気な証ですよ。ペロペロ」


「ドーラさんのお心遣い、痛み入るです。馬鹿ドルビィのことは一先ず置いといて、ドーラさんはどう言った目的でここに来たんだです?」


「悪魔の岩山の調査中にこの部屋を見つけたので、何があるのかなと思って入っちゃいました」


「……やはり調査の目的は、邪神か大地の精霊なのかです?」


「いえ、実はドワーフの知人にプレゼントする為の、貴重な鉱物を探しているんですよ」


「貴重な鉱物か…… 残念ながら、この悪魔の岩山には鉱物は埋まってないぞです。ここにあるのは、眠りに就いている邪神と、大地の精霊の体だけだです」


「大地の精霊の体?」


「そうだです。太古の時代に残された、大地の精霊の抜けがらだです」


「あー、それ聞きたいです。肉体のない大地の精霊は、どうやって体を作ったんですか?」


「魔素だです。超高濃度の魔素を極限にまで圧縮をさせて、それを己の肉体へと変換させたのだです。魔素による肉体強化を極めたその先に、肉体活性という魔法があるです。肉体活性とは、膨大な己の魔素をコントロールして、自身の体を自由に変化させることが出来るです。そして、肉体活性をさらに越えた究極の魔素コントロールが物質創造だです。文字通り、己の魔素を使って物質を創造する魔法だです。物質創造はあらゆるものを作り出すことをでき、新たな生命を生み出すことも出来るんだです。魔神様の眷族に与えられた叡智の仮面も、魔神様が己の魔素を使って作り出したものだです。本来であれは、最上位の大精霊クラスにのみ扱える奇跡の魔法のはずが、ある方法を使うことによって、上位精霊の大地の精霊は肉体を得ることに成功をしたんだです」


「ある方法?」


「巨大樹ユグドラシルがこの地から吸収をした、膨大ぼうだいな大地の魔素を利用したんだです。世間一般に伝わっている言い伝えでは、この地にやって来た人族が大地の精霊を呼び出し、協力をしてユグドラシルを切り倒したと伝えられているが、実際はその逆だです。大地の精霊の願いを聞いた人族がこの地に集まり、集まった人族がユグドラシルを切り倒したのだです。たとえ上位精霊と言えども、肉体を持たないままでは、直接この物質世界に干渉かんしょうが出来ないからだです」


「人族がユグドラシルを切り倒したんですか? 昔の人族は、こんなに大きな巨大樹を倒せるくらい強かったんですか?」


「集まったのは呪われた人族と呼ばれた巨人族だです。見た目の形は人族と酷似をしているが、ドラゴンの様な巨大な体と膨大な魔素を持っていたです。巨人族とは、この星の魔素からエレメンタルドラゴンが生まれた時に、こぼれ落ちた魔素から誕生した存在だです。つまり、この星の最古の生命体の一つだです。つまり人族とは、その巨人族をモデルにして、後から作られた種族ということだです。しかし、その強大な力を人族から恐れられて、いつしか巨人族は追いやらるようにして暮らしていたです。大地の精霊の呼び掛けによって集まった巨人族は、ユグドラシルを切り倒すことを条件にして、ある願いを大地の精霊に叶えてえて貰ったです」


「どんな願いですか?」


「自分たちの体を、普通の人族と同じ大きさにして貰うことだです。大地の精霊と巨人族は契約は交わして、切り倒されたユグドラシルの魔素を使って大地の精霊は肉体を得ることに成功をしたです。その後、巨人族も大地の精霊に体を小さくして貰ったんだです」


「もしかして、その小さくなった巨人族が今のハーフスケール族のご先祖様なのですか? 人族と大地の精霊の子供がハーフスケール族になったのではなかったのですか?」


「上位精霊は傲慢ごうまんだから、人族と交わる様な事は絶対にしないぞです。現に、巨人族の願いを叶える際に、ある種の呪いに近い加護を与えたです」


「呪いですか? ふひひひ、もしかして見た目が子供のままになるとか?」


 ドーラは冗談のつもりで言ったのだが、どうやら的中をしていたようだ。


「流石だです。 巨人族は魔素量も膨大ぼうだいだから、その魔素を使って強制的に肉体活性をさせる術式を加護として魂に刻んだのだです。肉体活性によって巨人族は人族と同じ大きさになれたです。しかし、その加護を与えられた巨人族は、大人になっても人族の十代半ばくらいの見た目で成長が止まる様になってしまったです。その加護は未来永劫に、子孫であるハーフスケール族にまで受け継がれているぞです」


「へー、そうなんですか」


 ドーラはダイフクのお腹をでながら気の抜けた返事をした。

 どうやら、アイスキャンディーを食べ終えて満足をしたのか、会話にもそろそろ飽きてきたようだ。


「こちらから話を振っておいてなんですが、私はあまり長い話が好きではありません。一応、気になるので最後に聞きますが、大地の精霊が肉体を持った理由だけ教えて貰えますか?」


「わ、わかったです…… 大地の精霊はある目的のため、ユグドラシルの魔素を使い物質世界で活動する肉体を作ったです」


「ある目的?」


「最初の二人を追ってきたです……」


「最初の二人?」


「この世界に誕生した、人類の祖だです」


「追ってきた来たという事は、その二人も元は精霊とかですか?」


「察しの通りだです。精霊界において最上位に位置をする光と闇の大精霊だです。まだこの星に草木しか存在しない遥か太古の時代、宇宙から隕石が落ちて来たです。隕石が運んできたのは、ユグドラシルの種と邪神の卵。やがて巨大樹へと育ったユグドラシルから邪神が生まれ、この星を破壊しだしたのだです。地上界と精霊界は表裏一体。地上の破壊は精霊界の破滅に繋がると、二人の最上位精霊は邪神を排除する為に肉体を得て地上へと降りてきたんだです。時を同じくして、邪神を倒すためにこの星の意思から生まれたエレメンタルドラゴンは……」


「んー、ちょっと待ってください……」


 ドーラはダイフクのお腹を撫でながらラトの言葉をさえぎった。

 どうやら、もう今日は難しい話を聞く集中力が無くなっているようだ。

 最後の質問のつもりが話が終わらない雰囲気に、ドーラは限界が来ていた。


「こちらから話を振っておいて何ですが、私は長い話はあまり好きではありません。精霊が実体化する方法も知れたので、他の話はまた気が向いた時にでも教えて下さい」


「は、はあ……」


「とりあえずライムさんの所に行こうか? ラトさんから聞いた話を教えてあげよう」


「ワン」


 ダイフクはお腹を撫でられて嬉しそうだ。


「ラトさんはこの後どうするんですか? 暇だったら一緒に行きませんか? ラトさんがいれば、説明も楽そうですし」


「あたいはドルビィのことの報告や食料の補充に、一旦仲間のいるアジトに戻るです」


「もしかしてジャガイモですか? 何か悪い事をしちゃいましたね。この部屋には他に食べ物は無かったですが、ラトさんはジャガイモ以外もちゃんと食べてますか?」


「いや、あたいら魔神様の眷族は、三百年間ジャガイモしか食べていないです。他の食料は保存してないです」


「え、本当に? 三百年間ジャガイモだけ?」


 お金の次に食べることが大好きなドーラは、あまりの貧しい食生活を気の毒に感じていた。

 食に関する悩みには、ドーラは優しいのだ。


「……分かりました。ラトさんの食料を食べてしまったのは私です。しばらくはダークエルフの里に滞在をする予定ですし、お詫びとして私がラトさんの面倒を見ることにします。一緒に宿屋に泊まれば、もう少しいい物が食べれますよ。一人増えるくらいなら私がお金を出しますので、困ったことがあれば何でも言ってくださいね。ラトさんは小さくて可愛いから、なんか妹みたいに見えます」


「かかか可愛い! いいい妹みたい!」


 ドーラの言葉にラトは顔を真っ赤にして驚いている。


(魔神様と同じ事を言われた……)


 ラトの脳裏に三百年前の魔神との思い出が甦る。


(ラトは可愛いな。まるで弟が出来たみたいだ)


 どうやら、若干記憶を改変しているようだ。


「ラトさん? どうしたんですか?」


「は! い、いえ…… 大丈夫だです。あ、あの…… ドーラさんにお願いがあるです……」


「え? 何ですか?」


「ご、ご迷惑でなければ、お、お姉様と呼んでもいいか…… です? ……ぽ」


 ラトは両頬に手を当てながら、ゆらゆらと体を揺らしている。


「え? んー、それくらい別にいいですよ。よく考えると私の方が遥かに年下だけど、細かいことは別にいっか」


「ありがとうです。お姉様もかしこまった口調はいらないぞです。お姉様らしく堂々としてくれです」


「うん、分かった。それじゃあ、ラトは用事が終わったら宿屋まで来てね。ラトの仲間たちにもよろしくね」


「はいです!」

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