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第70話 ミミズ少女とラト

「ワン」


 ダイフクはどや顔をしながら尻尾を振っている


「ぐぬぬぬ、そ、そうだね。ダイフクの言った通りだったね。それにしても、何でこんな所にジャガイモがあるんだろう? 腐ってもいないし、普通に食べれるよね? つい最近に、誰かが持ち込んだのかな?」


 ドーラは大量に置いてあるジャガイモを一つ手に取った。


 ジュー


「あ、ヒートワームの余熱よねつでジャガイモが焼けた」


 ホカホカ


「クンクン、いい匂いがするな。そう言えば、まだお昼を食べていなかったな……」


 グー


 おもむろに能面を外したドーラは、よだれらしながらジャガイモを見つめている。


「……いただきます。モグモグ」


「ワン」


「ダイフクも食べたいの? はい、どうぞ」


 ドーラはジャガイモを焼いてダイフクに渡した。


「ワン」


 ダイフクは美味しそうに尻尾を振っている。


「うん、美味しいね。いっぱいあるし、せっかくだから全部焼いちゃおう」


 ジュー


 ドーラは大量にあったジャガイモをみんな焼いてしまった。

 部屋の中にはこうばしいかおりが充満している。


「んー、いい匂いだな。よし、心ゆくまで食べようね」


「ワン」


 ドーラとダイフクは、一心不乱にジャガイモを食べ始めた。


「モグモグ」


「ムシャムシャ」


 ドーラが食べることに夢中になっていると、レイビィがダークエルフの里で起きている異変を察知する。


「お食事中に失礼をします。何やら、ダークエルフの里に強大な魔素が出現したようです」


「モグモグ、本当だ。この魔素って昨日ライムさんの儀式を見ていた女の子だよね? 昨日感じた魔素も大きかったけど、まだこんなに力を隠していたんだ。あれ? ミーシャさんも一緒に居るみたいだな。会いに行くと言っていた知人って、あの子のことだったのか。もう一人はカムジさんの魔素かな? なんだ、みんな知り合いだったんだね。あ、ダイフク食べ過ぎだよ。私の分がなくなっちゃう。もう、レイビィ静かにしてて! 今忙しいんだから! モグモグ」


「も、申し訳ありません!」


「モグモグ」


「ムシャムシャ」


 大量にあったジャガイモは、みるみる内にドーラとダイフクの胃袋に収まっていく。


 ガチャ


 ドーラが食べるのに夢中になっていると、部屋の扉が開きフードを被った少女が入って来た。


「ふう…… あたいには外の空気よりも、ほこりっぽい静かな部屋の方がやっぱり落ち着くな。ミーシャと約束をした夜までは時間もあるし、のんびりと飯でも食って一休みするか…… って何者だ!」


 隠れ家に帰ってきたラトは、部屋の中に居る侵入者に気が付くと、即座に腰を落として戦闘体勢をとる。


「モグモグ…… あ、お邪魔してます。もしかして、この部屋の住人ですか? あれ? 魔素の強い女の子だ」


 ドーラがジャガイモを食べていることに気が付くと、ラトは目を見開いてひざからその場に崩れ落ちた。


「あ、あたいのジャガイモが…… アジトから持ってきた、貴重な食料なのに……」


「モグモグ、ゴクン…… ふう、ごちそうさまでした。もしかして食べちゃ駄目でしたか?」


「駄目に決まっているだろ! 他人の住居に勝手に入って食料を食べるとか、いったいお前はどういう教育を受けてきたんだ!」


 立ち上がり激怒するラトの姿を見て、ようやくドーラは正気を取り戻した。


「は、しまった! ジャガイモが美味しくて、思わず理性を失ってしまった…… 勝手に食べてごめんなさい。私は食べ物とお金がすごく大好きなので、我慢が出来ませんでした」


「……とんでもない欲望の塊をした奴だな」


 ドーラのあまりの身勝手さに、ラトは怒りを通り越してあきれているようだ。


「んー、お腹いっぱいになったら、今度は甘い物が食べたくなったな。レイビィ、あれを買ってきて。ジャガイモを食べちゃったお詫びに、この子の分もお願いね」


「かしこまりました」


 ドーラに命令をされたレイビィは転移魔法で姿を消した。

 冷静さを取り戻したラトは、レイヴィのことを見て今の状況を理解する。


(無詠唱転移! それにあの仮面…… そうか、こいつらが秘密結社ノーメンって言う奴らだな。なんてふざけた奴らなんだ……)


「それで、秘密結社ノーメンが何の用であたいの隠れ家に居るんだ?」


「ドキ! な、な、何で私たちが秘密結社ノーメンだと分かったんですか!」


「カムジの家に現れた能面を付けた少女ってお前のことだろ? 今は能面を付けていない様だけどな」


「し、しまった! ジャガイモを食べるのに夢中になり過ぎて、能面を外していたのを忘れてた!」


 慌てた様子でドーラは能面を付けなおす。


「ふひひひ、そうです。私たちが秘密結社ノーメンです。私の正体を見られたからには、あなたの口を封じなければなりませんね」


「……やる気か?」


 ラトはローブの中でスクロールに手を延ばした。


「内緒にしてください」


「は?」


「内緒にしてくれるように、お願いをしています」


「……普通は口封じって言ったら、相手をほうむるとかじゃないのか?」


「え? なんですか、その物騒な方法は? 無条件で殺してもいい人なんて、ロリコンくらいですよ」


「いや、それはロリコンに厳しすぎるだろ……」


「まあ、黙っていてくれないのなら、少し強引な手段を取ることになります。合意のない人の思考を操作するのは、あまり気が進まないのですが……」


 ゾク


 その場に漂う重苦しい空気に、生物としてのラトの本能が危機を知らせる。


(な、なんだ? あたいの体が震えている? 魔神様の眷族たるあたいが、目の前のこの少女に恐怖をしているのか?)


「お、お前は、無断で自身の住み家に侵入をしてきたやからの言うことに大人しく従うのか? 大切な食料を食べ尽くされても許せるのか?」


 ドーラはその状況を想像して、すぐさま不快な表情を浮かべる。


「んー、殺しますね」


 ジョバー


 淡々《たんたん》として、それでいて逃れられない死を予感させるドーラの言葉に、ラトはあまりの恐怖で失禁をしてしまった。


(あわわわ、なんだこいつ…… なんでこんなに恐ろしいんだ…… 無理無理無理無理! 邪神を復活させてしまった時ですら、これほどの絶望を感じなかったぞ…… こ、こいつは、絶対に敵対しちゃ駄目な奴だ…… 何とかして、この場から逃げ出さないと……)


「どうしたんですか? 体が震えていますよ?」


「あ、う……」


 ドサッ


 ラトは腰から崩れ落ちると、あまりの恐怖に何も言葉を発することが出来なくなっていた。


「あ…… もしかして、トイレを我慢していたんですか?」


 粗相そそうをしてしまったラトを見て、ドーラはある名案をひらめいた。


「ふひひひ、取引をしませんか? それを黙っていてあげますので、私のことも秘密にしてくれませんか?」


 コクリ


 ドーラの提案に、ラトは力なくうなずいて答えた。

 その様子にドーラは満足そうな笑顔を見せる。


「ただいま戻りました」


 重苦しい空気が流れる部屋に、レイビィが転移魔法で帰ってくる。


「お帰りなさい」


「ご所望しょもうの品です」


「ありがとう」


 ドーラはレイビィの買ってきた物を受けとると、濡れた床の上にへたり込むラトの前へと歩みよった。


 ビクッ


 ラトはおびえた表情でドーラを見上げる。


「これは私の大好物のアイスキャンディーです。ジャガイモを食べてしまったお詫びに受け取ってください。んー、でもアイスキャンディーを食べる前に、濡れた下着を替えた方がいいですね。替えの下着は持ってますか?」


 ドーラの質問にラトは首を横に降った。


「んー、それは困まったな。あ、そうだ!」


 ドーラはディメンションワームに手を突っ込むと、アダマスの鉱山で拾ったエマのパンツを取り出した。


「これは数日前に、ある冒険者が落としていったパンツです。クンクン、匂いはないな。拾った時は少し臭かったけど、ローリーさんが洗濯をしてくれたのかな? もし良かったら、これを使って下さい」


「ひ、拾ったパンツを?」


「え? 嫌ですか?」


「い、いえ、嫌じゃないです! ぜひ穿かせて下さい!」


 ラトは立ち上がってパンツを受けとると、羽織っていたローブを脱いだ。


「あ! そのドレス!」


 ローブを脱いだラトの姿を見て、ドーラは驚きのあまり声をあげる。


 ジョバー


 ドーラの声にビックリしたラトがまた粗相をする。


「ひ、ひい!」


「あ、ごめんなさい。気にせずにパンツを穿き替えてください」


 ラトは震える手つきでパンツを脱いだ。

 何故かその光景を凝視しているドーラの視線に、ラトは恥ずかしそうに頬を染めている。


(んー、びっくりしたな。この子が着ているドレスって、私が持っているドレスの色違いだよね。こう言う偶然ってあるんだな。そう言えば、衣装売り場の店員さんは色違いがあると言っていたな。確か、仮面を付けた変態さんが買って行ったんだっけ? この子の知り合いなのかな? あ、じっと見つめてたら頬を染めている。この子も仮面を付けてるけど、顔半分しか隠れてないから、照れてるのがまる分かりだね。んー、この仮面って、なんか見覚えがあるような気がするな。何処で見たんだっけ? ダイフクは分かる?)


(ワン)


 色々と察しがついているダイフクが、仮面のことをコッソリとドーラに教える。


「ああ、そうか。ドルビィさんの付けていた仮面と同じ仮面なのか。えっと、確か魔神の眷族が付けてる、え…… え…… エッチな仮面だっけ?」


 ラトはパンツを穿く手を途中で止めて声を荒らげた。


「ド、ドルビィの事を知っているのか! あ、いや、で…… ですか?」


「あ、しまった。つい声に出してしゃべちゃった」


 ダイフクはジト目でドーラを見つめている。

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