第68話 お嬢様と呼べ!
「秘密結社ノーメン? 聞いたことのない組織だな。カムジは、その組織からの襲撃を受けたのか?」
「はい。争いになる事はありませんでしたが、色々と悪魔の岩山について、探っているようでした」
「まさか、邪神の復活を目論んでいるのか?」
「いえ、どうやら邪神の存在については知らない様子でした。もしかすると、大地の精霊の方が狙いなのかもしれませんね」
「ミーシャ、どういう事だ?」
ラトは精霊巫女であるライムの関与を疑い、ミーシャのことを睨み付けている。
「我はそんな組織なぞ知らんし、関係もないぞ。悪魔の岩山で儀式をしている精霊巫女のライムも、大地の精霊が残したアレの存在は知らんようじゃったし、関係性は薄いと思うがのう」
ミーシャは両手を広げながら自身の関与を否定する。
「襲撃者は仮面とローブで姿を隠していましたが、最初に現れた者は背丈と声からして幼い少女の様でした。咄嗟に束縛のトラップを発動して、拘束をしようと試みたのですが、あっさりと鎖を引きちぎられてしまい…… その後、部屋中を埋め尽くす大量のミミズが現れて、逆に私が捕らえられる事態となってしまいました……」
「ミミズ? 特殊なテイマーか?」
「どうでしょう…… とにかく得たいの知れない奴でしたので、どう評価してよいのか…… ただし、その後に現れた部下らしき者は、間違いなく化け物です。底が見えない少女とは正反対に、恐怖で震えが止まらなくなるほどの圧倒的な魔素を放っていました。先程のラト坊っちゃんの魔素に匹敵をする大きさでした……」
自分に匹敵をする存在だと言われたラトであったが、特段に気にした様子はないようだ。
「まあ、あたいもあれが全力じゃないからな。とは言え、それほどの強者が今の時代にもいるのか。接触の目的は情報か? 直接的な危害はなかったようだが、それほどの危険視をする根拠はなんだ?」
「危害がなかったと言うよりも、私程度の存在など歯牙にも掛けなかったのでしょう。しかし、奴ははっきりと宣言をしました…… 秘密結社ノーメンの目的は…… 世界征服だと!」
カムジの言葉を聞いたミーシャは、呆れたように笑っている。
「フシュシュシュ、世界征服とはこれまた大きく出たものじゃのう。いつの時代にも、不相応な野心を持つ者がいるものじゃ」
「ああ、まったくだ」
ミーシャに同意するように、ラトは頷いている。
馬鹿げた話と笑い飛ばしている二人だが、カムジは真剣な表情をして話を続けた。
「……悪魔の岩山以外にも、邪神は生き残っているはずです。もしも、あの仮面の少女が、邪神の力を手に入れているのだとすれば……」
「フシュー、その秘密結社ノーメンとやらが邪神の力を悪用しておると? 残る邪神の封印はエルフの隠れ里じゃ。外部の者がどうこう出来る場所ではない。何か出来るとすればエルフ族じゃが、いくらエルフ族と言えそこまで愚かな…… フシュー、あやつらは愚か者じゃったのう…… まあ、ないと信じよう。そもそも、邪神に寄生をされた者は自我を失い、本能のままに破壊と殺戮を繰り返す存在に成り下がる。まともに会話が出来るような相手ではなかろう」
「そ、そうなのですが…… 私にはあの仮面の奥に、人ならざる存在がいるように思えて……」
「どんな仮面をしていたんだ?」
「ノーメンと言う組織名の通りに、極東の島国で流通をしている能面と言う仮面です」
「極東の能面じゃと? フシュー、最近どこかで見たような気がするの……」
ミーシャは思い当たる節があるようで、腕を組みながら自身の記憶を辿っている。
「おお、そうじゃ!」
「何か心当たりがあるのか?」
「ほれ、前に話したじゃろ? ドーラの従えておる、レイスのような高次元生命体じゃ。一瞬しか見ておらぬが、確かそやつの付けておった仮面が能面じゃったような気がするの」
「アダマスの森にいる、無詠唱転移を使うレイスだったか?」
「うむ、そうじゃ。確かに大きな魔素を持っているようじゃったが、先程のラトの魔素量と比べればかなり劣っておったぞ。しかし、能面など好んで付ける者もそう多くないじゃろう。何かしらの関係があるのかもしれんの」
「それなら、仮面の少女はドーラって奴の可能性があるな。そいつも、得たいが知れない奴なんだろ?」
「ドーラとは?」
「ほれ。昨日の夜に悪魔の岩山にいた神官服を着た娘じゃよ」
「あの少女ですか? 昨日見た時は、特に強い力は感じられませんでしたが…… いや、それは能面の少女も同じか。確かに精霊巫女も、手を出したら後悔すると言っていましたね……」
「ドーラは強いぞ。ほれ、見てみい」
ミーシャはローブを広げてボロボロになった胸の鱗を見せる。
「そ、それはドーラと言う少女にやられたのですか?」
「うむ。寝ぼけて噛まれた」
「そ、そうですか……」
「ちなみに、ドーラと一緒にいた犬のダイフクも強いぞ。本調子ではなかったと言え、初対面の時にちょっと脅かしてやろうと思ったのじゃが、あっさりと返り討ちにあってしもうたわい」
「あ、あの犬がミーシャ様を……」
「ふふふ、泣きながら火山に帰って来たよな」
「フシュー、言わんでよいわ! その事は早く忘れるのじゃ!」
当時の光景を思い出して、ミーシャは恥ずかしそうにしている。
「まあ、同じ時期に同じような化け物じみた存在が、同時に現れるとは考えづらい。十中八九、同一人物だろうな。と言うか、野心は感じられないってミーシャは言ってたよな? 世界征服とか欲望の塊じゃないか」
「う、うーむ…… ま、まあ、あれじゃ。冗談かもしれんぞ? ドーラは、そう言う冗談を言いそうな奴じゃからな。フシュシュ……」
ミーシャは目を泳がせながら、頭を掻いて誤魔化している。
「はあ、もういい。このまま議論をしていても、情報が少なすぎて結論は出ないだろう。今夜、そのドーラとやらが宿屋に帰ってくるのを待つことにしよう。あたいが直接会えばハッキリすることだ。さっきも言ったが、少しでも危険な奴だと判断をしたら、躊躇なく始末をするからな。たとえミーシャのお気に入りであろうとも、あたいは容赦をしないと覚えておけ」
ラトは後ろを振り返ると、外へと続く階段を上っていく。
「なんじゃ、もう帰るのかの? もっとカムジと話しをしてやればよいものを」
「たまたま里に戻ったついでに、少し顔を見せに来ただけだ」
「ラト坊っちゃんの元気なお姿を見れただけで私は満足です……」
カムジは膝をついて俯いているが、その声はどこか悲しげに聞こえた。
それを聞いたラトは、階段の途中で足を止める。
「あたいは、遊びに帰ってきたんじゃないからな。まあ、用事が一段落ついたら、その時は飯でも食いにいくか……」
「はい!」
顔を上げたカムジは嬉しそうな表情をしている。
「それと、あたいをラト坊っちゃんと呼ぶのは禁止だ! あたいのことは今度から、ラトお嬢様と呼べ!」
「かしこまりました、ラトお嬢様!」
ラトは満足そうな顔をして、階段を上っていった。




