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第7話 老犬vsドルビィ

「今、なんと言いましたか? 私に死んでもらうと聞こえたのですが?」


「はい、そう言いました」


「あなたのような小さな魔素の幼い少女が、偉大なる魔神様の眷族であるこの私を?」


「んー、そうですね…… 私が殺しても良いのですが、どうやらこのワンちゃんが自身の手でかたきを討ちたそうなので、ドルビィさんにはこちらの老犬と戦ってもらいましょう」


 ドーラはしゃがみこんで、老犬の頭を優しくでた。


「クックック。多少はあなたのことを賢いと思っていたのですが、どうやら想像以上におろかな子供だったようですね。こんな死にかけの犬コロが、偉大なる魔神様より力をさずかった私に勝てるとお思いですか?」


「え? 思いますよ? ドルビィさんの魔素はそれなりに大きそうですけど、以前見たことのあるワイバーンよりもずっと小さいですから。ワンちゃんどうする? 自分の手で仇を討ちたい? ドルビィさんを倒せる力が欲しい?」


 ドーラは老犬の目を見つめながらその思いをたずねる。

 言葉は通じないはずだが、老犬は弱々しくも強い覚悟のこもった鳴き声で答えた。


「ワン」


「それは肯定ってことでいいよね? それじゃあ、このスレイブワームを受け取って」


 ドーラの指先から白いワームが現れると、老犬の耳から頭の中へと入っていった。

 スレイブワームには寄生した者の思考を誘導する能力がある。

 その者の行動を強制するのでなく、自然とドーラに対して敵対したくならないような思考をするようになるのだ。

 もちろん、はじめからドーラに友好的な者であれば思考を誘導されることもない。

 そして、スレイブワームはドーラの中の女王ワームと精神的につながっており、言葉を交わさずに互いに意思を共有出来るようになる。

 オリジナルである女王ワームの体液に比べると効果は落ちるが、女王ワームと同じように寄生された者はスレイブワームによって体の血を吸われ、代わりにスレイブワームの体液を体に流されることによって肉体が強化される。


「ワン」


「そう」


「ワンワン」


「それは良かったね」


 スレイブワームの体液が老犬の体をめぐり終えると、老犬の毛の色が黒から白へと変化した。


「ついでにアイアンワームもあげるね」


 今度はアイアンワームが老犬の口から体内に入っていった。

 スレイブワームが寄生することにより、寄生された者は他の特殊個体のワームの能力を使えるようになる。


「ふひひひ、お待たせしました。準備が出来ましたので戦いを始めましょう。どうぞ死に物狂いであらがってください」


 いったい何をしたのか。

 目の前で起こっている異変をドルビィは理解できなかったが、明らかに老犬の気配が変わったのを感じとる。

 その目には力が宿り、曲がっていた腰や震えていた足がまるで若返ったかのように強者の風格に満ちあふれていた。

 何よりも、体の色が変わっている。


「ダークフレア」


 老犬が動き出すよりも先にドルビィは攻撃を仕掛けた。

 馬鹿っぽくみえるがドルビィもまた強者。

 老犬を強敵と認めるや否や、即座に戦闘行動へと移ったのだ。


 ゴオオオオ


 老犬の立っていた場所から、天高く黒炎が立ち上がる。


「ぐわっ!」


 ドルビィの肩から血が吹き上がった。


「くっ、速い! それに私の身体硬化を易々《やすやす》と突破された!」


 一瞬でドルビィの背後に移動した老犬の口には、引きちぎったドルビィの肩の肉がくわえられている。


 クチャクチャクチャ


「こら、駄目だよ。変なもの食べたらお腹壊しちゃうでしょ。あ、そうか。お腹がすいてるのかな? 終わったらご飯あげるから今は待てだよ」


「ワン」


「くそ、馬鹿にするな! アイスシャリベン!」


 ドルビィの周囲に無数の氷柱ひょうちゅうが現れ、一斉に老犬へと襲い掛かる。


 ドドドドドド


 老犬はドルビィの周囲を回るように攻撃を避けると、氷柱がなくなった瞬間にアイアンワームによって硬化された爪をき出しにしてドルビィへと飛び掛かる。


 キーン


 硬質こうしつな音がひびき渡り、老犬の体が後方へ吹き飛ばされる。

 老犬の爪を弾き返したドルビィの手には、漆黒のもやまとったかまが握られていた。


「まさか、これを使わざるを得なくなるとは……」


 ドーラのサーチワームが、その鎌からあふれ出る異様な魔素に反応する。


「魔剣と呼ばれる武器は、刀身に魔素をまとうって父から聞いたことがある。ワンちゃん、あの武器には気を付けてね」


「生者に死を、死者に生を。大鎌デスサイス…… 魔神様が聖女との戦いにも使用した武器です。クックック、犬コロを殺したら次はあなたですよ。一撃で終わらせます!」


 ドルビィは鎌を後方に振りかぶると、さらにその刀身に自身の魔素を流し込んだ。

 鎌から溢れる漆黒の靄がより一層に禍々《まがまが》しく揺らめく。

 次の瞬間、ドルビィの姿がその場から消えていた。


「転移魔法? あ、ヤバいかも」


 老犬の頭上に姿を現したドルビィが勢いよく鎌を振り抜く。


 ブシュー


 老犬の体から大量の血しぶきが飛び散った。


「ば、馬鹿な! 両断りょうだん出来ないだと!」


 鎌は老犬の体深くに食い込んでいるが、致命傷を与えるまでには至らならなかったようだ。


「おー、体の表面だけじゃなく、毛の一本一本までアイアンワームで硬化をしたのか。ちょっと心配しちゃったよ」


 必殺の一撃を防がれて動揺しているドルビィのすきを見逃さず、老犬は鋼鉄の爪を一閃いっせんする。


 ザク


「ぐおおお!」


 老犬の一撃によりドルビィの腹部が大きく切り裂かれた。

 苦痛に顔をゆがめたドルビィは、鎌から手を放し後方によろめきながら膝をつく。


「んー、勝負あったかな」


「そ、そんな馬鹿な…… 偉大なる魔神様の眷族たる…… この私が…… こ、こんな犬コロなんかに……」


「その深手ではこれ以上の戦闘は無理ですね。即死ではないですが致命傷だと思います。まあ、思ったよりも強かったですよドルビィさん。最後の攻撃は惜しかったですね」


「……」


 ドルビィは力なく地面を見つめている。

 ドーラはドルビィに背を向けて老犬に近づくと、食い込んだ鎌を引き抜き、再びドルビィへと向きなおした。


「あ、逃げた」


 ドルビィの姿がその場から消えていた。


「へー、あの傷で動くことが出来るんだ。ちょっと油断しちゃったな。隙を見せたら即座に逃走を選択するとか、意外と判断力が早いんですね。なんか馬鹿っぽかったのに」


 老犬も力尽きたのか、その場で倒れ意識をなくした。

 ワームの体液により回復力が極限まで上がっているので、鎌に切り裂かれた傷はあっという間にふさがっていく。


「この鎌はどうしようかな?」


 ドーラはディメンションワームで黒い靄を出すと、その中に大鎌デスサイスを放り投げた。


もらっちゃお」

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