第65話 ミミズ少女とカムジ
「秘密結社ノーメンだと? そんな組織は聞いたことないな」
「そうですね。最近結成した組織ですので、まだ知名度はありません」
「まさか、少し前から王都周辺に出没をしていると言う組織か? 噂で聞くところによると、幼い子供ばかりを王都に集めて、何かを企んでいると言う怪しい集団の……」
「え? 違いますよ? 王都にはそんな組織がいるんですか?」
「……まあ、どちらでもいい。この部屋には転移の魔法で侵入をしたのか? そうなると、一緒に術式を発動させた仲間も近くにいるはずだな。何の目的でこの部屋に来たのかは分からんが、お前のことを捕らえてからゆっくりと調べさせてもらうとしよう」
ドーラとカムジが会話をしている隙に、もう一人の男が壁にあるレバーを引いた。
ガシャン
何かが作動する音が部屋の中に響き渡り、ドーラのまわりを囲むようにして幾つもの魔法陣が出現する。
ジャラジャラ
魔法陣の中から太く大きな鎖が飛び出して、四方からドーラの体へと絡み付いた。
鎖がドーラの体の自由を完全に奪ったことを確認して、カムジは笑みを浮かべながら剣を鞘に納める。
「不意を突いて悪いな。この部屋には、束縛のトラップが仕掛けてあったんだ。まあ、許可もなく勝手に忍び込んだのだから、拘束をされたとしても文句はないよな?」
「ありませんよ。侵入者への対策をするのは当然ですよね」
「ほう、潔いな。それでは、尋問を始めるとしよう。お前は何者だ? ここに来た目的はなんだ?」
「先ほども言いましたが、私は秘密結社ノーメンの者です。ここに来た目的は、あなた方と話がしたくて来ました」
「話だと? ……まあいい。まずは、その怪しい仮面の中身を拝むとしようか」
ドーラの仮面を剥ぎ取るために、カムジは前へと進もうとする。
しかし、何かに足をとられている奇妙な感覚を覚えて、カムジは動くことが出来なかった。
「ん? 足に何かが…… う、うわ! な、なんだ、このミミズの群れは!」
夥しい数のワームの群れは、カムジの足に絡み付くようにして部屋の床一面を埋め尽くしている。
カムジが視線を上げてまわりを見回すと、ワームは床だけではなく、壁や天井にいたるまで隙間なく部屋中で蠢いていた。
「カ、カムジ…… た、助けて、くれ……」
悲壮な声のする方向にカムジが顔を向けると、仲間の男は顔だけを残して全身をワームに覆われている。
「ふひひひ、あなた方に危害を加えるつもりはないので、安心をしてください。ただし、私の正体を探るのは無しでお願いします」
バキバキ
ドーラは体に巻き付いてる鎖を、無造作に引きちぎった。
「そ、そんな馬鹿な…… ワイバーンすら拘束をする、束縛の鎖をこんなあっさりと……」
「さてと、何から話してもらおうかな? あ、別に話したくないのなら、無理に話さなくても結構ですよ。ここに来たのは、単なる暇潰しなので。私の仲間がすでに悪魔の岩山の調査をしていますので、戻ってきてからその報告を待ちます。まあ、無理矢理あなたに話をさせることも出来ますが、強引な方法はあまり好きではないですからね」
カムジは自身の体に這い上がってくるワームを見つめて、抵抗は無駄だと悟ったらしく、両手を上げ降参の意を示した。
「わ、わかった…… 話せることなら話すし、お前のことも詮索をしないと誓おう。だから、仲間を解放してやってくれないか?」
「わかりました」
ドーラの足元に黒い靄が現れて、部屋中のミミズがその中へと消えていく。
解放されたカムジたちは大きく息を吐き、安堵した表情でソファーへと腰を下ろした。
「ふう、我々に危害を加える気がないのは本当のようだな…… それで、お前は何が聞きたいんだ?」
「そうですね、まずはあなた方のことをお願いします。えっと、カーラング家でしたっけ?」
「……盗み聞きをしていたのか。まあ、いいだろう。カーラング家とは三百年以上前の時代に、このダークエルフの里を統治していた一族だ。この里だけでなく、大陸各地に転住しているダークエルフ族にも強い影響力を持っていた。我々はそのカーラング家に仕えていた、まあ、生き残りみたいなものだな」
「生き残りですか? 三百年以上前と言うことは、聖魔戦争などでその一族は滅んだのですか?」
カムジは不快な表情を見せながら、ドーラの言葉を否定てし話を続ける。
「聖魔戦争が原因ではない。それに、坊っちゃんがまだ生きている。坊っちゃんさえお戻りになれば、きっとカーラング家も再興をすることが出来るはずだ!」
「坊っちゃん?」
「カーラング家の長男であるラト様だ」
「そのラトさんは、どこかに出掛けているんですか? そもそも、なんでカーラング家はラトさんを残して滅んだのですか?」
「どの様にして悪魔の岩山を調べているのかは分からんが、おそらくお前には隠しても無駄なのだろうな…… カーラング家とは、悪魔の岩山の中に封じられている、ある物を代々守護していたのだ」
「ある物…… もしかして、貴重な鉱物とかですか?」
能面の奥でドーラは期待に目を輝かせた。
「い、いや…… 太古の時代にこの世界を支配していた、邪神の封印だ……」
「邪神? はじめて聞きました。魔神や聖女みたいな人ですか?」
「違う。魔神様はこの世界で生まれた存在だが、邪神はこの世界の外からやって来た侵略者なのだ」
「この世界の外ですか? んー、それは精霊界みたいな所ですか?」
「精霊界とは我々の世界と繋がっている、言うなれば表と裏の関係だ。どちらもこの星の上に存在をしている。邪神のやって来た外の世界とは、この星の外の世界…… つまり、別の星のことだ」
「もしかして、宇宙人とかですか? 都市伝説でよくありますよね、グレイとかレプティリアンとか。邪神さんと言う宇宙人は聞いたことありませんが」
好奇心旺盛な若者の間では、様々な真意不明な都市伝説が広がっている。
宇宙人の他にも『地獄に通じる地下王国』や『あらゆる武術を極めた鬼の姫』など、様々な噂があり、魔族領ではドーラ自身が『ミミズ少女』と言う都市伝説にされていた。
(私も都市伝説にされたりして、興味本意で魔の森に探しに来た魔族領の子供を追い返したりしたな)
「創作話に出てくるような宇宙人ではない。知的生命体とはかけ離れた、言うなれば寄生虫のような存在だ」
「へー、その寄生虫が悪魔の岩山の中にいるんですね?」
「そうだ…… 奴らは魔素を持たない存在で、そのままの姿ではこの星の魔素に耐えられずに生きていけないのだ。唯一、奴らにとって安全な場所が、巨大樹ユグドラシルの中ということだ」
「巨大樹ユグドラシル?」
「切り倒される前の悪魔の岩山のことだ。邪神の卵とユグドラシルの種は、遠い宇宙の果てから隕石に乗ってこの星にやって来たらしい。地上に落ちたユグドラシルの種は、途方もない年月をかけて巨大樹にまで成長をして、そのユグドラシルの中で邪神の卵も孵化をするのだ」
(寄生虫か…… なんか、女王ワームと似ているよね)
「そのままの姿ではこの星の魔素に耐えられないんですよね? 寄生虫と言うことは、もしかしてこの星の生物に寄生をすれば、巨大樹の外でも活動が出来るのですか?」
ドーラの発言にカムジが驚いている。
「察しが良いな。その通りだ。邪神はこの星の生物に寄生をする事によってその者の思考を操り、寄生された者は自我を失い邪神の操り人形と化すのだ。邪神がこの星にやって来た目的はわからないが、自我を失った宿主はこの星で破壊の限りを尽くしたそうだ」
(んー、女王ワームが寄生してる私には自我があるよね? この自我自体が女王ワームの物の可能性もあるけど、破壊衝動とかは別にないしなあ。まあ、邪神さんと女王ワームがまったく関係ない可能性もあるし、特に気にするほどの事でもないかな)
ドーラは今の自分に不満がないので、女王ワームのルーツなどにあまり関心がないのであった。
「邪神さんは、今も悪魔の岩山の中で封印をされているのですか? もしかして、カーラング家が滅びたのはその邪神さんが原因なのですか?」
「それは……」
シュ
カムジが言葉を発しようとした瞬間、ドーラの背後に変装をしたレイビィが転移魔法で現れた。
「何かあったの?」
レイビィはその場に膝をついて、悪魔の岩山での調査結果をドーラに報告をする。
「はい…… 実は悪魔の岩山の内部に、興味深い物を発見いたしまして……」
レイビィはカムジのことを一瞥すると、ドーラに近付いて小声で耳打ちをする。
報告をするレイヴィは、役得とばかりにドーラの髪の匂いをクンクンと嗅いでいた。
難しい話に少し飽きてきていたのか、ドーラはレイビィの報告に興味を持ったようだ。
「へー、それは面白そうだね。カムジさん、この話の続きはまた今度でいいですか? 少し気になる用事が出来ましたので」
そんなドーラの言葉も上の空かのように、カムジはレイヴィのことを見つめながら、顔を真っ青にして震えていた。
「し、信じられん…… なんという強大な魔素なのだ…… な、何者なんだ……」
「カムジさん聞いてますか? それじゃあ、私は帰りますので」
黒い靄の中に入ろうとするドーラに、震えながらカムジは疑問を問いかける。
「お、お前たちの…… 秘密結社ノーメンの目的とはいったい何なのだ?」
(……え? 目的? んー、特に何も考えていなかったな。どうしよう。何か目的がないと変だよね? 秘密結社っぽい目的と言うと……)
「えっと…… せ、世界征服…… とか?」
「クックック、御身のままに」
なんとなく、ドーラは思い付いた事を言ってみたが、ちょっと恥ずかしかったらしく、能面の奥で顔を赤くしながら足早に黒い靄へと入っていった。
(中二病みたいなことを言っちゃったな…… 仮面を付けてて良かった)




