第63話 ライムvsカムジ
ローブを被った集団は、剣を抜いてドーラ達を囲むようにして頂上に広がった。
「はあ、止めておいた方がいいぞ。どう考えても、痛い目を見るのはお前たちの方になるからな」
ライムはリーダーとおぼしき人物に短剣を向ける。
「ふん、Aランク冒険者ごときが、ずいぶんと強気な発言をする。多少は名が知られているらしいが、冷静に状況の判断が出来ない様ではたかが知れているな。この人数を相手にして、足手まといな仲間を守りながら戦えると思っているのか?」
ローブに隠れてよく顔は見えないが、リーダーの人物の口元が笑っているのが見える。
「あー、後ろの奴らには手を出さない方がいいぞ。普通の女子供じゃないからな。絶対に後悔をすることになる」
ライムの後方では、ミーシャが興味なさそうに欠伸をしている。
「ならば守ってみせろ!」
リーダーの合図ととも、集団の中の二人がドーラとミーシャ目掛けて走り出した。
「だから、やめとけって」
ガシ
ライムは瞬時にドーラの傍へと移動をして、襲いかかる二人の腕を難なく掴みとる。
「早い!」
仲間の腕を止めたライムの動きにリーダーは驚き声をあげた。
ライムに腕を掴まれた二人は、必死に拘束を振りほどこうとしている。
「くっ! 手を離せ!」
「な、なんて力だ! 精霊巫女は魔術師ではなかったのか!」
「だから、こいつらには手を出すなって言ってるだろ。もしも、暴れられたりして、岩山が崩壊でもしたら誰が責任を取るんだ?」
ポイ
ライムは掴んでいる二人をリーダーの正面へと放り投げた。
「ぐはっ」
二人は受け身を取れずに地面へと叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべながら横たわっている。
「……情報では、精霊巫女は純粋な後衛魔術師のはず。これほどの動きはAランク、いやSランクの戦士にも匹敵するぞ……」
「砂漠のバザーで雷風呂に入って来たからな。今の私を、そんじょそこらのAランク冒険者だとは思わないことだ」
「雷風呂? よく分からんが、どうやら一筋縄ではいかない相手のようだな。ここから先は俺一人でやる。お前らは手を出すなよ」
リーダーの人物はローブを脱ぎ捨てると、剣を抜いてライムに向けて構える。
「……その顔、知っているぞ。数年前まで砂漠地帯で活動をしていた、元Sランク冒険者の『道化のカムジ』だろ。ある日突然、冒険者を引退して姿を消したと聞いていたが、こんな所でいったい何をしているんだ?」
「元々、冒険者ギルドには情報収集をするだけの為に、一時的に加入をしていただけだ。あくまでも、我々の使命は悪魔の岩山の監視と守護にある。我々の仕える御方がお戻りになるまで、何人たりともこの場所での勝手な行動は許さん。俺のことを知っているのなら、大人しく剣を引いてこの里から出ていくんだな」
「お前の噂は知っている。ソロでの活動でSランクまで上がったんだってな。一部の冒険者の間では、お前のことを超越者ではないかと噂がされていた。だがな、私も遊びで悪魔の岩山まで儀式をしに来たんじゃないんだよ。冒険者としてのランクが上だからって、あまり私を舐めないことだ」
「油断はせん」
カムジの体がぼやけるように揺めくと、暗闇に溶け込むようにしてその場から姿を消した。
「き、消えた?」
咄嗟にライムが後ろを振り向くと、そこには音もなく剣を振り上げているカムジが立っていた。
シュ
「うわ!」
ライムは前方へと転がりながら、振り下ろされる剣を必死に回避する。
ゴロゴロ
「ほう、よくかわしたな。よっぽど勘が鋭いのか、魔術師とは思えない身のこなしだったぞ」
ライムは膝を払いながら立ち上がると、カムジに向けて短剣を構える。
「少し前に、転移魔法で不意をつかれたことがあってね。この手の攻撃は想定の範囲内だ。まあ、お前の攻撃は転移魔法ではなさそうだがな」
「精霊巫女か…… どうやら、世間には力を隠していたようだな。本当の実力はSランク並みと言ったとことか。ふふふ、久々に楽しい戦いが出来そうだ」
再びカムジの体が揺めくと、今度はライムの側面から剣を振るった。
キン
即座に反応したライムが短剣でカムジの剣を切り払う。
「よい反応だ! しかし、何処まで耐えられるかな!」
カムジは休むことなく斬撃を繰り出し続ける。
防戦一方のライムだが、襲いかかる攻撃の全てを切り払っていた。
ニヤリ
カムジが不敵な笑みを浮かべると、カムジの剣がライムの短剣をすり抜けて頬を切り裂いた。
スパ
「うっ!」
体勢を崩したライムの頭上から、とどめの一撃をカムジが繰り出す。
ドカ
カムジの攻撃より一瞬早く、ライムの蹴りがカムジの体を吹き飛ばした。
「むう! なんという蹴りの威力! 本当に驚いたぞ。しかし、精霊巫女は土魔法が得意と聞いているが、何故お前は魔法を使わないのだ?」
「派手な攻撃をしたら、岩山の山頂が崩れるかもしれないだろ? そんなことをしたら、それこそ族長にこの里から追い出されてしまう」
ライムが頬の血を腕で拭うと、すでに傷は癒えてなくなっていた。
「……止めだ。お前ら帰るぞ」
カムジは剣を鞘に納めると、先ほど脱ぎ捨てたローブを拾って再び頭から羽織った。
「私のことを追い出すんじゃなかったのか?」
「お前の言う通りだ。悪魔の岩山を傷つけるのは、我々にとっても好ましくないことだ。ふふふ、それにしても…… まさか、この俺が手加減をされて相手をされるとはな。いいだろう、勝負はお預けだ。脅しが通用しないのであれば、また別の方法を考えるとしよう」
戦いを止めたカムジは、部下達を連れて転移陣のある山小屋へと戻っていった。
「あ、ちょっと待ってください」
ドーラが山小屋に入る寸前のカムジのことを呼び止める。
「なんだ、神官の娘」
「私は神官ではありません。聞きたいことがあるんですが、日中にライムさんの儀式を見学していた、ローブを被ったダークエルフの少女も貴方たちの仲間ですか?」
「ローブを被った少女? いや、知らんな。子供を危険な活動に付き合わせるようなことなど、我々は絶対にしない」
「そうですか、ありがとうございます」
カムジは不思議そうに首を傾げながら、山小屋へと入っていった。
「なんだ、日中にドーラは山頂まで戻って来ていたのか? 気付かなかったよ」
「あ、はい。ちょくちょく様子は見ていました。儀式中だったので、声はかけませんでしたが」
「しかし、あいつらは何だったんだ? なんで、私の儀式を止めさせたいんだろう?」
「カムジさんって人は有名なんですか?」
「ああ、『道化のカムジ』の二つ名で、凄腕の冒険者として有名だった。活動期間は短いが、あっという間にSランクまで上り詰めたらしいな。あの捉えられない動きと、すり抜ける剣技は本当に厄介な技だった」
カムジの技術に感心しているライムのことを、ミーシャは面白そうに笑っている。
「フシュシュ、なんじゃライムよ? お主は、あの程度の動きを捉えることが出来ぬのか? 未熟じゃのう、ドーラにはもちろん見えていたじゃろ?」
「え? あ、はい。普通に見えてましたよ」
「ほれみい。ライムは状態異常への耐性が低いのじゃろうな。あんな技は、幻影の魔法を応用したまやかしにすぎぬ。格下にしか通用をせん、くだらぬ技術じゃの」
「ぐぬぬぬ…… わ、私だって魔法が使えれば、あんな奴は楽勝だったぞ」
「そう言うのを負け惜しみと言うのじゃ。カムジは強いぞ。あやつはダークエルフ族でも随一の剣士じゃ。遠い昔には、我と共にこの星の脅威と戦ったこともあるからの」
「ミーシャさんの知り合いだったんですか?」
「うむ、カムジのことは赤子の頃から良く知っておる。あやつはドラゴンの姿の我しか知らぬので、人型状態の我には気が付いておらぬようであったがの。ライムが魔法を使ったとしても、実力差がありすぎて勝ち目は皆無じゃろうな。良かったのう、カムジが本気で殺しに来てなくての」
「ぐぬぬぬ…… もしかして、ダイフクにもあいつの動きが見えていたのか?」
「ワン」
「当然だそうです」
「ああ、そうですか! どうせ、この中じゃ私が一番弱いですよ! と言うか、お前らが強すぎなんだよ…… はあ、もう疲れた…… 早く宿屋に帰って、飯食って寝るぞ! ミーシャは私よりもずっと強いんだから、今夜は助けてやらないからな!」
「ん、何の助けじゃ?」
「クックック…… さて、何だろうな」




